帰城
城に戻ると、この後執務が待っているとブツブツ文句を言いながら、シメオンがアルカスを連れて行ってしまった。
実季子と一緒に夕飯を食べるとごねていたが、無言でシメオンに睨まれて、引き下がったようだ。
シメオンは、侍従に執務室にサンドイッチを持ってくるように言っている。
そんなので、足りるのかなぁ?
いつも、あんなに食べるのに……
そう、心の中で呟いたが、口にするのはやめておいた。
シメオンから黒いオーラが出ているのが見えた気がしたからだ。
ヤバイ……サッサと部屋に戻ろう
アピテと一緒に部屋に戻ると、ソフィアからクレオンとペトラが待っていると告げられる。
応接間に顔を覗かせると、ソファに座っていたクレオンが立ち上がり、大股で実季子に近づいてくる。
「おい、ミキコ。何処に行っていた?ずっと待っていたんだぞ。
この試作品の燈火ランプの事で、お前の意見が聞きたくて……」
メガネの奥の茶色の瞳で実季子を見据えて、どんどん距離を詰められる。
挨拶もなしで、用件を言うクレオンの言葉をペトラが遮る。
「クレオン筆頭技術士、ミキコが困っています。一先ず、座ってください」
何度かやり取りするうちに、ペトラとは、名前で呼び合うくらいに仲良くなった。
イリニが戻って来れなくて寂しく思っていた実季子は、ペトラと仲良くなれてとても嬉しかった。
「ごめんなさい。ちょっと出掛けていたの」
「何処に?なんか、何時もの格好と違うな。
城から出るなら一言言っておいてくれよ。今日は、ミキコに見て貰おうと……」
「ちょっ、、ちょっと、ストップ、ストップ。ちょっと待って。クレオン」
また、興奮気味に続けようとするクレオンの言葉を止めて、実季子はソフィアの方を見た。
「ミキコさまは、お戻りになられたばかりです。先ずは、お着替えをなさってからにした方が宜しいでしょう」
ソフィアに言われて、クレオンは、やっとソファに座った。
「2人とも、もう夕食は終わったの?」
と聞くと、首を横に振る。
「じゃあ、一緒に食べない?誰かと一緒に食べた方が美味しいし。食べながら、話を聞くわ。
悪いんだけど、着替えてきても良いかしら?」
「勿論よ。ご免なさいね、急に来て。ミキコと夕食を一緒に出来るなんて嬉しいわ。
ゆっくり、着替えてきて。待っているから」
ペトラがニコニコ笑いながら了承してくれたので、急いで隣の部屋に引っ込んだ。
クレオンの了承を待っていると何時までも着替えられないと思ったのだ。
急いで、足下を清めて、ソフィアが用意してくれたゆったりしたドレスに着替え、応接間に戻ると侍女が3人分の夕食を運んできたところだった。
席について、料理が並べられると、クレオンは、パクパク口に運びながら、持ってきていた燈火ランプの説明を始める。
「ミキコが以前言っていた、魔石の形を球状にしてはどうかという話を実際にやってみた。
で、この魔石の光らせる方法だが、魔力が微量でもあれば簡単な詠唱で光らせることが出来るのだが、魔力の無い人間には難しい。
そこで、簡単に光らせることが出来るように、ミキコに知恵を貸して欲しい」
実季子は、口の中でモグモグしていた肉を飲み込むと、ソフィアの淹れてくれたお茶で喉を潤し、クレオンに向かって頷いた。
「スイッチをつけるのは駄目かな?
突起状の物をランプの側面に付けて、それを押すと、押されたという信号が魔石に伝わる。
この場合の信号は、魔力の詠唱と同じ役割を果たす刺激だね。
で、その押されたという信号は保持されて、信号が魔石に伝わっている間は、魔石が光る。
もう一度、突起状のスイッチを押すと、保持されていた信号が切れて、魔石に伝わっていた信号も切れる。
信号が切れると、魔石も光らなくなる。とかは?むずかしいのかな?」
「スイチ?………ほう、信号ね。……なるほど、直ぐにやってみよう」
クレオンは、残りの料理もスルスルと口の中に運ぶと、ナプキンで口元を拭い、パッと席を立つ。
「ペトラ、後の話はしておいてくれ。じゃあ、俺はこれで」
そう言うと、さっさと部屋を出て行った。
実季子は、その様子をポカンと見ていたが、ペトラと目が合うと、可笑しくなって笑ってしまった。
ペトラは、笑う実季子を見ながら肩をすくめる。
「クレオンは一日中、366日、一年中あんな調子よ。
彼、仕事は出来るけど、何かに夢中になるとそれしか見えなくなるし、そのことばかり優先させようとするから、寝食もおざなりになっちゃうし……。
あれじゃあ、彼女も出来ないよねぇ〜」
そう言いながら、ゆっくり切り分けたお肉を口に入れる。
「ミキコはさ、ペラスギアには何時までいるの?」
そう聞かれて、固まった。
『帰れるようになったら、直ぐに帰ります』とは、言えない。
どうして?と聞かれたら答えられない。
あんまり突っ込まれて聞かれると、色んな事を話せない。
国の機密に関わってくるからだ。
こんな時、どうすれば良いのかなぁ
何処まで話して良いのかも良く分かっていないし
「えーっとね、決まってないの」
曖昧に返事をして、御茶のカップを持ち上げてお茶を飲んだ。
「ふうん。そっか」
ペトラは、それ以上聞かずに、実季子の方をチラリと見た。
「今日はさ、城下に何しに行ってたの?」
「今度ね、建国祭があるでしょう?その時に要る物を見に行ってたんだよ。
で、ご飯を食べて、甘い物も食べて帰ってきたの」
今度は、答えられる質問で良かった
ホッとしながら、今日食べたケーキや焼き菓子のことを思い出して、幸せな気分に浸る。
「そっか。建国祭は、始めてなんだよね?
楽しいよ。屋台や、異国から来た商人がテントを張って珍しい物を売ったり、大道芸もあるよ」
楽しそう!実季子の目がキラキラ輝いたのを見て、ペトラは、ニッコリ笑った。
「ところでさ、城下には誰と一緒に行ったの?
その、キレイな指輪とネックレスは、誰に買って貰ったの?」
更に、ニヤリと笑うと、グレーの瞳が興味深そうに実季子を見て、弧を描いている。
突っ込んだ質問をされて、実季子は、ビシリと固まってしまう。
手に持っていたナイフを落とさなかったことを褒めて貰いたい。
「えーっとね、この国で、私の色んな面倒を見てくれてる人だよ。後見人みたいな感じかな。
で、この指輪も、ペラスギアでは、お客さまである証拠に、右手の薬指に指輪を贈って付けるんだってお店の人に言われて、買ってくれたの」
焦って、汗を掻きながら、ペトラに説明すると、ふーんと、言いながら、お茶を飲んでいたカップを置いた。
「そっか。詳しいこと、言えないのね。分かった。聞かないよ。
でも、私達、友達になれたと思ってるんだけど、それは間違ってない?」
実季子の首の後ろの、フワフワの後れ毛が、上下にブンブン振る頭につられて揺れる。
「勿論だよ。
その、事情があって言えないこともあるんだけど、ペトラに友達だって言って貰えて、物凄く嬉しい。
ありがとう。ペトラ」
実季子の言葉を聞いて、ペトラは、フフっと笑った。
その後も、夕食が終わっても、実季子が買って帰った焼き菓子を摘まみながら、話をする。
燈火ランプの中に入れる魔石の形をどんな風にするのが、お洒落で、かつ明るく、しかも魔石の量を沢山使わないコストパフォーマンスが良いかを話ながら。
紙に二人でデザインを考えながら描いたり、ペトラの恋愛の話を聞いたりして、その夜は二人の笑い声が部屋に響きながら更けていった。




