タブラの城下1
城下に行くのに、実季子はいつもとは違うドレスを着付けられた。
白のリネンのシュミーズの上に、足元はグリーンのハイソックスを履き、クリーム色の薄手のオーバースカートを履く。
更にその上から、ピンクアーモンドの色の小花を刺繍したピーコックグリーンのオーバードレスを着て、髪は何本もの三つ編みをアップにして、後頭部で緩くまとめられている。
このドレスの方が楽だなぁ
いつものドレスは、現代の洋服に慣れている実季子にとっては、窮屈でしかも歩きにくい。
裳裾を踏んで部屋の中で何度か転んだ。
このドレスは、少し裾が短くなっているし、生地も薄手で通気性が良く、軽いのだ。
「ミキコさま、このお衣装も可愛らしゅう御座いますよ。」
ソフィアが、着付け終わって目を細めながら褒めてくれた。
そのまま城の裏門辺りに止めてある馬車まで行くと、アルカスが待っていた。
チャコールグレーの膝下のパンツ
-ブリーチズと言うそうだ-
に、長い黒のブーツ、フォレストグリーンのウエストコートを着ている。
暗いアンバーのレースで縁取られた装飾がなされていたが、いつもよりも気軽い格好だ。
そのアルカスは実季子と目が合うと、カチンと固まってしまった。
「陛下、おはよう御座います。」
軽くスカートの裾を摘まみ、淑女の礼をした。
マナーの授業が始まってから、日に何十回もこの礼ばかり練習させられたのだ。
少しは上手くなった……と、思う。
固まっていたアルカスは、
「うむ。」
と、一言返事をした後、ギギギと音が聞こえそうなほどぎこちなく動き、どうにか実季子をエスコートすると馬車に乗せ、後から自分が乗り込んだ。
黒塗りの2頭立てだ。
シメオン曰く、『あまり目立たない馬車をご用意いたしました』とのことだ。
確かに、ペラスギア王家の紋章は入っていない。
-真ん中で前足をあげて、王冠を被った狼の頭上を剣が2本交差している。
その剣の先からツタが絡まりながら、狼を縁取っている意匠だ-
がこれで、目立たないのかどうか実季子には判断が出来ない。
真っ黒だけどピカピカだし、如何にも高級そうに見える。
しかし、問題は馬車では無いだろう。
アルカスと一緒にいる時点で目立ちまくると思う。
今だって、無造作に首の後ろでひとまとめにされている青白いシルバーの髪は、陽の光を受けて輝き、まるで彼の髪が光をまき散らしているようだ。
アンバーの瞳も朝の陽光を受けて、金色に光り輝いている。
兎に角、キラキラ眩しいこんな美丈夫と一緒にいて、目立たない訳がないのだ。
その目の前に座っているキラキラしいアルカスが、フーッとため息をつくと、実季子を見つめてきた。
「ミキコ、その格好も似合っている。」
小さな声が聞こえた。
ん?私今、褒められた?
声が小さすぎて、今ひとつ自信が無いが、褒められたのなら、素直に嬉しい。
「陛下、ありがとう。貴方も、今日もステキ。」
フフッと笑いが零れて、実季子がアルカスを見つめ返すと、またギギギと、首を動かして、窓の外の方を向いてしまった。
あれ?褒められたんじゃなかったのかな?
まぁ、兎に角、お出掛けは嬉しい。
城の中は広くて、散歩も出来るが見えるのは、城と庭師が美しく整えた花々だ。
人が行き交い、店が並んでいる道を歩いてみたいなぁと、思っていたのだ。
嬉しくて溜まらず、昨夜はウキウキして………、早く寝た。
で、今朝は空が白み始める頃に起きたのだ。
夜露を吸って重く頭を垂れていた草花に、うっすらと明るい光が差し込み、夜の匂いを纏っていた空気の隙間に、白々とした朝の空気が流れ込んでくる。
朝の始まりを感じると、朝稽古の肌にピリッとする感覚を思い出し、素振りがしたくなった。
馬車の向かい側に座っているアルカスに、実季子は尋ねた。
「陛下、お願いがあるんだけど。聞いて貰えますか?」
「うむ」
短く返事を返したアルカスに、向かって、実季子は、今朝感じた事を話す。
「木刀か、軍の模擬剣で良いので、貸し貰えませんか?
私は、元の世界で、剣道っていう剣術と、合気道っていう武術をやっていたのですが、ペラスギアに来てからまともに体を動かしていなくって、このままだと、体がなまっちゃうので朝にでも稽古がしたいんですよね。
出来れば、誰かお手隙の際にでも相手をしてくれると有難いなぁ」
アルカスは、黙って聞いていたが、
「考えておく。
誰かに相手をさせるには、ミキコがどの程度出来るのかを見ないと返事は出来ないが、一人で剣を振るうくらいなら問題ないだろう」
と返した。
剣を振るえることが嬉しくて、アルカスが真剣に考えてくれるのが嬉しくて、実季子は満面の笑みでアルカスの手を握ってブンブン縦に振った。
「陛下、ありがとう。いつも感謝しています」
アルカスが、実季子に手をぶんぶん振られているうちに、目的地に馬車が到着した。




