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13chの天気予報~今日は何の日短編集・3月23日~

作者: 白兎 扇一

今日は何の日短編集

→今日は何の日か調べて、短編小説を書く白兎扇一の企画。同人絵・同人小説大歓迎。


3月23日→世界気象デー(World Meteorological Day)


世界気象機関(WMO)が、発足10周年を記念して1960(昭和35)年に制定。国際デーの一つ。

1950(昭和25)年のこの日、世界気象機関条約が発効し、WMOが発足した。

WMOは、加盟諸国の気象観測通報の調整、気象観測や気象資料の交換を行っている世界組織である。日本は1953(昭和28)年に加盟した。


どうか偶然なんてことをあてにしないで下さい。偶然のない人生というのもあるのですから。

─ドストエフスキー/19世紀ロシアの作家


D氏はN市の自宅でテレビを凝視していた。リモコンをいじっては移り変わる天気予報の様子を見ていた。D氏は来週会社で行われる花見の幹事を頼まれた故の行動である。D氏は非常に不安症な男であった。それ故に1から12までの天気予報をザッピングのように見守っていたのだ。しかし、どこを見ても当日は曇となっている。極度の心配性のD氏にとってこれは顔を歪めるしかない結果であった。

D氏は手元のスマホでどこの天気予報が一番的中するのかを調べてみた。最初はあくまで12チャンネルのうちどれが一番信じられるのかを調べる予定だった。しかし、予想外の記事が出てきた。「一番信用できるのは13ch!的中率100パーセント!」といういかにもいかがわしげなものである。

13ch?聞いたことのないチャンネルだ。何かの間違いか?13chという文字を検索サイトに打ち込むと、13chの見方というサイトが出てきた。それによると1チャンネルと3チャンネルを同時に押すと、この奇妙なチャンネルが観れるらしい。D氏は首を傾げながらも行ってみると、13ch天気予報というテロップがでかでかと流れた。

黒い髪を一つに結わいた女のキャスターが礼をする。

「来週はずっと晴れます」

大気の図の前に立つキャスターの説明に、D氏は目を丸くしていた。どこの天気予報でも曇と言っていたのに晴れと言ったこもそうだが、それ以上に彼を驚かせたのは「晴れます」と断言したことだった。普通は「晴れるでしょう」にするはずだ。そうでなかった時のリスクを軽減するためにだ。それなのにこの女は断言した。

(本当に大丈夫なのか?)

「安心してください」

D氏の疑念を見越したように、キャスターの声が響いた。

「うちの天気予報は絶対ですから」

キャスターは右目をパチリと閉じてウインクする。すると、突然テレビが砂嵐の画面に変わった。D氏は1chを押すと、いつも通りの1chの番組がやっていた。

(あれはなんだったんだろう)

キャスターの自信満々な態度を思い起こして、D氏は尚更不安になっていた。



そこから7日後。結論から言うなれば、D氏の不安は杞憂に終わった。花見の日の空は雲一つない晴天になったのだ。彼は上司との会話も耳に入らずに13chのことばかり思い浮かべていた。

(これは必然だろうか。いや、まだ一回だ。一回だけしか分からない。何度かやってみることにしよう)

D氏はそれから何度か13chの天気予報を見ることにした。

3日の天気は?─晴れです。

6日の天気は?─雨です。

19日の天気は?─季節外れの台風になります。

全ての予報が見事に的中していた。他のどの天気予報でもここまで当たることはなかった。

(何故こんなに当たるんだ?)

D氏は天気予報を見ながら、新たな疑惑が湧いた。いつものキャスターがじっとこちらを見ている。

「さて、いつもならここで終わりですが今日はお知らせがあります。13chのスタジオに来てみませんか?住所はR市1634-10。皆さんをお待ちしています……」

キャスターが礼をすると、いつものように砂嵐が巻き起こった。

(スタジオねぇ。行ってみるか)

D氏は次の日、有給をとって例の住所へ向かった。



住所にあったのは昭和に作られたような古い雑居ビルだった。看板を見ると2階と3階が13chのスタジオとなっている。D氏が階段を上っていくと、二階のドアにあのキャスターがいた。

「本日はお越し下さり、誠にありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそよく当たる天気予報をありがとうございます」

うやむやしく礼をすると、キャスターはドアを開けてD氏を中に入れた。入ってすぐにある汚い下駄箱を通り、奥にあるドアを開いた。合成用の緑色の布がかけられ、何やらよく分からない機械があるだけの殺風景な部屋だった。

その瞬間、トイレが近くなったD氏に尿意が訪れた。キャスターに尋ねると、一度ドアを出た2階と3階の階段の間にトイレはあると教えてくれた。D氏が感謝の言葉を告げると、キャスターは彼の手を握ってこう返してきた。

「トイレには行っても構いませんが、3階には絶対に行かないようにしてください」

(絶対に行かないと言われたら絶対に行くのが人間の性だ)

D氏はキャスターの目を離れると、少年のように階段を駆け上った。3階のドアを開けると、右の壁に会議室という看板が貼られたドアがあった。耳を近づけると、何やら低い声が聞こえてくる。

「3日の天気は晴れにしてよかったですな」

「やっぱり春は晴れに限りますよ」

「××君。仮にでも天気の決定をするものなのですから、良かっただのなんだの主観を呟くのは如何なものかと」

「こりゃ失敬」

中年の男たちの笑い声が聞こえてくる。D氏は固まっていた。

(今、天気の決定をすると言ったよな。ひょっとしてあの天気予報は天気を当てていたのではなくって、ここで天気を決めていて、だから、絶対に当たっていたのか─?)

戻ろうとするD氏に強いショックが加わった。D氏は床に崩れ落ちた。床には黒いハイヒールが見え、上を臨んでみる。あのキャスターがスタンガンを持っていた。

「だから3階に来るなと言ったでしょうに」

いつもの声とはまるで違う低い声が聞こえた。D氏の意識はそこで途切れた。キャスターはため息をついて、彼の体を引きずって下の階へと降りていった。



「天気の決定に戻りましょう。台風の日が足りませんな」

「いくつ分です?」

「3日分ですな」

「まずいですな。今月の間に消費しなければペナルティが下りますぞ」

「明日、いっぺんに入れるのは如何ですかな」

「名案ですな。しかし酷い台風になってしまいますな。下手したら人間は生きられませんぞ」

「一度ノアの箱舟の時も起こしたじゃありませんか。前例があるんですから大丈夫でしょう」

「しかし、問題はどこで巻き起こすかですな」

「N市辺りはどうでしょう。あそこらへんはあまり起こっていませんぞ」

「よし、そうしましょう」

そうしましょう!そうしましょう!小さな部屋に低い声が不気味に響き合っていた─。


ご閲覧ありがとうございます。昨日はサボってすみませんでした。

星新一にハマったので彼に似せた短編を作りました。最後にゾクってくるあの感覚が好きですね。


それではまた明日

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