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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一度死んで対等だ!

作者: カリカリ梅

「なぁ。そろそろ諦めたらどうだ。お前がいれば、俺たちは更なる高みに到達する。悪い話じゃないはずだ」

「は? ふざけんなよ。誰がお前と手を組むんだ。そもそも、お前は俺を一度殺してるだろうが。いい加減しつこいぞ」



 もう何度同じやり取りを繰り返しただろう。

 最早数え切れない。

 俺が断る度に殺し合い、結局互いに決着付かずに終わる。

 本当に目障りな存在だ。

 一度殺されてる身からすれば、手を組む所か話すのも好まない。

 地球にいた頃は、ある程度認めていたのにな。



「いやいや、しつこいのはお前だよ雅人。あの時のことは悪かったと言ってるのに、いつまでも受け入れてくれないじゃないか」

「あ? 舐めてんじゃねぇぞ。誠意の感じねぇ謝罪に意味はないし、何よりも謝ったぐらいで俺を殺したという事実が消える訳ねぇだろ冬人」

「最も意見だが、生憎これでも真面目に謝罪したんだ。これで十分対等になったと思うんだがな」

「対等? ……笑わせてくれる。俺とお前が、対等な訳ねぇだろ」



 互いに殺意が高まり、徐々に戦闘体勢へと移ろう。

 いつものことだった。

 並行線を辿る話し合い。

 結論が出るなんて有り得ないこと。

 もしも、それに答えを出すのならば──



「──何度でも言ってやる。一度死んで対等だ!」



 一気に駆け出す。

 正直冬人は強い。

 人間ではない化け物の中でも、さらに上位に存在する吸血鬼だ。

 地球にいた頃ならねじ伏せられたが、今ではそう簡単にいかない。

 でも、それでも一度は殺してやらないと、俺の気がすまないんだ。

 やられっぱなしは柄じゃない。

 何よりも、昔の関係に戻るには、やはり対等ではないといけないからな。

 色々あったが、俺が唯一認めた男だから。








 ◇◆◇◆◇◆◇◆








 もう何十年も昔の出来事だ。

 まだ高校生だった俺は、日々に退屈していた。

 代わり映えの毎日は、ゆっくりと退廃的に心を腐らせる。

 憂さ晴らしと趣味を兼ねた喧嘩も、どこか味気ないといつも考えていた。

 楽しいことはある。

 でも、心の底から楽しめていない。

 これが大人になるということなら、なんてつまらなくてくだらない生き物なんだろう。

 そんな風に考えていた時だ。

 藤巻冬人と出会ったのは。



「ふーん。最近俺の手駒を壊して回ってるのは君か。全く面倒を増やしてくれたな」

「はっ! 何だお前は。雑魚の親玉か? ま、何でもいいか。目障りだから、壊してやるよ」

「そう簡単にいくと思うなよ。二度と歩けない身体にしてやる」

「上等だよ!」



 実際は簡単に捻り潰した。

 元々冬人は身体を使うタイプじゃない。

 雑魚の取り巻きを何匹も連れていたが、当時の俺の障害にはなり得ない。

 ただ、智謀に長けていた冬人は、一度壁に当たったぐらいで諦める性格ではなく、それから何度も衝突しては互いにしのぎを削ってきた。

 最初は目障りでうざい奴だと思っていた。

 でも、争う度に力を付ける冬人を見て、徐々に好感を抱いていることに気付く。

 今まで対等に渡り合える相手がいなかった。

 常人よりも力を持ってしまった故、少しの暴力で周りは容易く折れる。

 それが何よりもつまらなかったんだ。

 だから、対等な存在の出現に、心の底から歓喜した。

 いつしか退屈で色のない日々は、藤巻冬人という風に吹き飛ばされていたんだ。

 いつまでも続くと信じていた。

 俺と冬人がいる限り。

 しかし、物事には必ず終わりがある。



「──ッ! くそが……こんな所で、死ねるかよっ!」



 それはいつもと変わらない日常だった。

 小腹が空いたので、近くのコンビニで適当に買い物をして帰った夜の時間。

 明日は鍛錬だなと呑気に考えていた時、聞き覚えのある声を拾った。

 切迫していて分かり難かったが、この声は間違いなく冬人のもの。

 そう確信した瞬間には身体が自然と動いていた。

 場所は比較的近い。

 常人を凌ぐ身体能力を持つお陰で、何とか冬人のいる場所に辿り着いた。



「……雅人。お前、何でここに──」

「あ? それは俺の台詞だボケが。何でこんな場所で……」



 軽口を叩きながら冬人を見た時、言葉を失ってしまった。

 血で濡れた制服。

 それだけならまだ日常茶飯事だが、問題は首から溢れる流血。

 明らかに致命傷だった。

 動脈が切れているのだろう。

 暗くて気付かなかったが、右手で首を抑えていた。

 それでもとめどなく流れる命。

 よく見れば体の至る部位に切り傷がある。

 浅いものから深いものまで。

 寧ろこの傷で生きているのが不思議でならなかった。



「冬人……何が──」

「雅人っ! 後ろだ!」



 死神の鎌が、横を通り抜けた。

 反転と同時に右腕で捌いたが、完全には見切れず脇腹に傷を負う。

 冬人の声がなければ危なかった。

 そう思いつつ後方へと跳躍して距離を取る。

 不意打ちとは言え、手傷を追うのは久しい。

 気配に気付けなかったことも加味して、今ゆらりと立っている者は、間違いなく強敵だろう。

 自然と気が引き締まる。

 そして、それと同時に笑みも溢れた。

 純粋な暴力を振るうに値する敵が現れたのだ。

 これを喜ばずに何とする。



「……冬人への復讐かと思ったが、どうも、そんな雰囲気ではなさそうだ。通り魔か何かか?」



 目の前の人は何も答えない。

 闇に紛れ込むような黒い出で立ち。

 身長や骨格からして男性ではあるだろう。

 右手にナイフを持ち、半身になって様子を伺っている。

 黒い道化のような仮面が、不気味さを倍増させていた。



「ま、何でもいいか。全力で潰した後には、仕方ないから冬人を病院に連れて行くかな」

「こ、この……馬鹿、やろう。ささっと、にげ、ろ。こ、いつは、ひと、じゃ、ない」

「──は? 何言ってん……」



 確かに強者ではある。

 だかしかし、それはあくまで人という尺の領域に過ぎない。

 自分自身も含めて。

 だからこそ、対等な立場での戦い。

 そう思っていた俺は、冬人の言葉を鼻で笑い、動こうとしていた。

 その瞬間だった。

 濃密で桁外れの死を感じたのは。



「なっ──」



 瞬時に距離を詰められる。

 気が付けばナイフが弧を描き、首に向けて振られていた。

 身体能力にものをいわせて回避。

 多少刃が首筋を撫でるが、構わず右手を掴み、背負い投げを掛ける。



「──お、おおおおおおおおっ!!?」



 投げた瞬間に極める。

 そう思っていた時には、逆に投げられていた。

 背中を強打をして息が漏れる。

 眼前に迫るナイフ。

 首を傾けて躱し、身体を掴んで密着姿勢を取る。

 何もさせない。

 距離を取るのは悪手と判断して、相手の脇腹を両足で締め上げ、右腕で利き手を抑え、左手で首根っこを掴み引き寄せた所で気付く。

 相手はそれらを無視して立ち上がっていることに。



「な、馬鹿な」



 呟きと同時に顔を掴まれ、有り得ない力で強引に引き剥がされる。

 そのまま壁に頭を叩きつけられるが、ぼぼ反射的に振るった拳が相手の頬を捉えた。



「殴った拳が砕けそうだ。本当に、人なのかよ」

「ばか、が。だ、から、にげ、ろって……言った、だろうが。おれに、かまうな」



 相手の勢いも利用した一撃に、相手は掴んでいた顔を話して距離を取る。

 俺も即座に移動して、再び冬人の近くまで来た。

 顔色が青白くなっている。

 血を流し過ぎたのだろう。

 このままでは、冬人は間違いなく死ぬ。

 逃げろと言うが、逃げられるとは思わないし、逃げるつもりない。



「はっ、馬鹿はお前だ。俺は俺の為に戦っている。楽しい日々が、こんな訳の分からない奴に、壊されてたまるかよっ!」



 覚悟は決まっている。

 つまらない日常を吹き飛ばし冬人を、こんなとこで殺させてたまるか。

 先程よりも早く距離を詰めてくる道化。

 恐らくは突きが来る。

 回避は困難だろう。

 だが、好都合だ。

 交錯する肉体。

 予想通り心臓目掛けて迫る突き。

 それを逆手に取って、首を締め上げる。

 貫かれる感触が心を抉るが、構わずに道化の首を投げ折った。



「……まじ、かよ。まさ、か、ほんとに、そいつを、殺す、なんて」



 冬人が弱々しく言うが、正直それに応える程の余力はない。

 辛うじて心臓から逸らした。

 それでも右肺は貫かれて血が逆流している。

 予定ではまだ動くつもりだった。

 しかし現実は甘くない。

 どうやら冬人を結局救えず、俺もこのまま死ぬみたいだ。



「おい、ま、さと。まさか、しん、だのか? くそ、おま、えまで、まき、こ、むなん、て……すま、ん」

「……ば、かが。お、まえ、は──わる、く、ねぇよ」



 柄にもなくしおらしい冬人に、最後の力を振り絞って否定した。

 本当はもっと言いたいことがある。

 でも、これで良いのかも知れない。

 やがて、視界も暗くなり、音も何もかもが遠退く。

 いよいよ死ぬらしい。

 だが、不思議と後悔はなかった。

 満足すらしている。

 そうして、堂本雅人としての人生は終わった。

 享年十七歳。

 我ながら呆気ない。








 ◇◆◇◆◇◆◇◆







 脳裏をよぎる過去。

 始まりは些細な切っ掛けで出会った。

 俺は藤巻冬人が、目障りで嫌いだ。

 いつも傍若無人に笑みを浮かべ、小賢しい策略を描いて嵌めてくる。

 正攻法を好む俺からすれば、何て遠回りで面倒なことをする奴なんだと蔑んだ。

 そう、嫌いだった。



「どうしたっ!? 攻撃が温いぞ冬人!!」

「まさか、ここからが本番だ雅人!!」



 絶え間無い攻防を繰り広げる。

 戦う時だけは、恨みも何もない。

 ただ本能のまま己をぶつける。

 自身を遮るものもなく、己の力を真っ向から受け止める敵。

 あの時もそうだった。

 俺が殺された時も。







 ◇◆◇◆◇◆◇◆





 



 気が付いたら異世界で第二の人生が始まった。

 最初は本当に驚いた。

 突然過去の出来事が甦るんだ。

 しかし良く良く思い返すと、あの訳の分からない道化の方が驚愕するな考えたら、すぐに冷静になってこの世界を受け入れた。

 この世界での俺はアーク•ジルディングという名前で、片田舎で農業を生業にする平凡な両親の次男として産まれ落ちる。

 異世界というだけあって、魔法やスキルというものあり、第二の人生も楽しそうだと考えていた。

 次男坊ということもあり、そこそこ自由に過ごしながら生活もしていた為能力は低いが、今から鍛えていけばいいと思い、冒険者になって世界を旅しながら、気の赴くまま生きた。

 幸い生前の身体的特徴は健在のようで、力で事を成す冒険者はわかりし性に合っている。

 そうやって記憶を取り戻して十数年。

 二十四歳の時に、ギルドからある依頼を指名された。

 それはとある吸血鬼の討伐依頼だ。

 この世界で吸血鬼は最高位の存在で、それこそ竜や精霊などと同列扱い。

 はんば伝説に足を踏み込んだ領域。

 そんな吸血鬼が人を襲い喰らっていると。

 本来闇の領域から出てこない吸血鬼なのだが、突然現れて人を蝕んでいる。

 ついでに智謀に優れており、姿を捉えるのすら困難。

 力のある冒険者や名のある騎士ですら、迂闊には出を出さずにいたらしい。

 俺も冒険者としてはそこそこ名が知れていたが、世界を代表するほどではない。

 それなのにわざわざ指名依頼。

 不思議に思ったが、戦闘狂と呼ばれる俺には丁度良いかと二つ返事で了承した。

 どうせ放っておくのは不味いから、一応な処置で対策してますとアピールしたいのだろう。

 取り敢えずは情報を集めながらのんびりした。

 人間に被害が出てるとのことだが、俺からすれば見知らぬ他人の生死に興味ない。

 ただ己の気の向くままに。

 そうやってゆっくりと探す中で、違和感を覚えた。

 用意周到に証拠を消し、嫌というタイミングで雑魚を送り出す。

 このやり口には見覚えがあった。

 既視感を覚える。

 屍鬼や下級吸血鬼等の雑魚を屠りながら、ペースを上げて捜索に力を入れた。

 確信めいたものがあるから。

 その一心で件の吸血鬼を探し求め、ついに邂逅を果たした。



「……お前が、人を襲っている吸血鬼か?」

「うーん? 襲っているとは失礼な。食事をするのは当然のことだろう。しかしだ、人間にしてはやるな。まさか、この僕まで辿り着けるとは、褒めてあげよう」



 吸血鬼は藤巻冬人と名乗った訳ではない。

 口調も性格も違う。

 だが間違いない。

 この男は、藤巻冬人だ。



「無様だな。藤巻冬人」

「んー何だって人間? 悪いけど、僕はそんなセンスの感じられない名前じゃないよ。僕の名前はね、ミスト。ミスト•バラスリンカ。君を、喰い殺す者の名さ」

「はっ、もう一度言ってやるよ冬人! お前が無様で醜いから、笑えるって言ったんだ! 藤巻冬人っ!!」



 怒りが全身に駆け巡っていた。

 叫んだ言葉は全て本音。

 藤巻冬人ともあろう者が、愚かにも吸血鬼として普通に生きているのが、実に許しがたい。

 それは、藤巻冬人としての人生を、何よりも俺たちの関係を侮辱していることと同義。

 それに気付かないと言うならば、俺が全力で思い出させてやる。

 お前はそんな弱者ではないことを。

 魂にまで。



「君──生意気だな。普段なら笑って殺すんだけど、なんかお前は癪に触る。目障りだから、消えろよ」

「上等だよっ! 殺せるなら、殺してみろ冬人! 俺は、堂本雅人だっ!!」



 はっきり言えば、勝ち目は薄かった。

 相手は伝説の吸血鬼。

 しかも小賢しい冬人としての知恵もあり、体術は俺をも凌ぎ、魔法に関しては言わずもがな。

 死に戦も良いところだ。

 こうしている間にも命は削れていく。

 培った全身全霊は、強大な力に呑み込まれるばかり。

 身体は魔法で焼き焦げ、スキルで肉体を斬り裂かれ、体術で内部を破壊れていく。

 こちらは応戦しても、高い治癒力を持つ吸血鬼には届かない。

 勝敗は目に見えていた。



「……まだ、立つのか。いい加減死を受け入れれば、

 楽になれるのに。何がそこまでお前を駆り立てる?」



 冬人は溜め息混じりに聞いてきた。

 息も絶え絶えな俺は、下を向いたまま答える。



「はっ……まだ、わかん、ねぇ、のかふ、ゆと。おれ、が──どうもと、まさと、だから、だ、よ。そ、んな、こと、も、わす、れ、たか?」



 命が止まりそうになる身体を支えるのは、堂本雅人としての意地と誇り。

 それを忘れた馬鹿を、目覚めさせるまでは、死んでも死ねるかよ。



「どう、した、おれは、まだ、生きているぞ……藤巻、冬人おおおおおおおっ!!」



 振りかぶる右腕が、冬人に当たることはなかった。



「──かはっ……ちく、しょうが」



 貫かれた心臓。

 それは、闘いの終わりを示す合図。

 結局藤巻冬人を思い出させることもなく、呆気なく腕を抜かれて地面に伏す。

 もう力は出ない。

 視界も暗くなる。

 そんな最中、冬人の顔を掠めて、アーク•ジルディングとしての人生は幕を閉じた。

 享年二十四歳。

 二度目の人生も呆気ない。








 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 




 懐かしい記憶だ。

 もう二十年も近く前だと言うのに、鮮明に脳は覚えている。

 今もこうして、藤巻冬人と相対する度に思い出す。

 俺の命を奪った吸血鬼。

 全ての始まりとなった原点。

 過去と未来を。



「緩い! 緩いぞ冬人っ! お前は、そんな程度ではないはすだっ!!」

「ああ、当然だろ雅人! まだまだ、こんなものじゃないっ!!」



 熾烈を極める死闘。

 今まで拮抗していた天秤は、徐々に傾きを見せている。

 俺はそれに歯噛みして憤る。

 そして、それらを否定するように攻撃を激しくした。

 俺たちは、こんなものじゃないと、叫ぶように。






 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆









 流石に二度目だと慣れる。

 前と違う点は、赤ん坊から記憶と意識があるくらいだろう。

 前世では無念にも死んだが、今度どの世界に転生されたのだろうか。

 まぁ、どんな世界でも楽しくのんびり生きるから良いのだが。

 そう考えながら過ごして月日は流れた。

 結局前と同じ世界で、兄貴の息子として産まれ、死んだ弟の生まれ変わりだと同じ名前を付けられたり、色々経験しながら十七歳になった。

 神がいるなら、何とも因果なことをするのだろう。

 そう思わずにはいられない。

 何せ、また冒険者として、吸血鬼たる藤巻冬人と再会を果たすのだから。

 もうあの頃のように人を襲ってはいない。

 どうやら藤巻冬人としての記憶と意識を取り戻したようだ。

 本当なら俺が勝って冬人の目を覚ましてやるつもりだったが、結果オーライというやつか。

 しかしだ、そうなると釈然としない気持ちが湧く。

 悠々と吸血鬼として生きた癖に、俺が死んだから藤巻冬人として眼を覚ます。

 おまけに第一声が、手を組もうだ。

 やはりまだ眼を覚ましていないのかも知れない。

 藤巻冬人とは手を組む関係ではないし、何よりも俺は奴に殺されている。

 吸血鬼たる敵に殺され、今度は藤巻冬人として振る舞う。

 それは余りに身勝手過ぎないだろうか。

 考えれば考えるほど殺意が湧いてきた。

 藤巻冬人には帰って来て欲しかったが、その前に清算すべきことをしてもらわないと、俺たちは対等じゃない。

 手を組むというなら、一度は死んでもらう。

 それが、吸血鬼として生きた代償だ。









 ◇◆◇◆◇◆◇◆









 だから、藤巻冬人を殺す。

 俺は冒険者として。

 冬人は吸血鬼として。

 互いに清算しなければならない。

 そして、その先に──



「──あーあ。ついに、終わりの時か。見事と言うしかないな」

「……冬人。お前、手を抜いたな」



 本当は、知っていた。

 知っていたんだ。



「いや、本気だったよ。俺は、藤巻冬人として、全力で戦った。ただ、それだけだ」



 いつもの余裕のある微笑はなく、柄にもない柔らかな笑みで力なく答える冬人。

 あの日、俺が殺されて倒れる最中、冬人の顔を掠め見た。

 朧気で見えていない振りをしたけど、本当は理解していた。

 瞳から涙を溢すその姿を。

 そして、その意味を。



「……お前には野望があるから、何が何でも死ぬわけにはいかないんじゃなかったのか?」

「ああ、確かにそうだけど、雅人の気持ちを考えたらさ、こうするのが、俺たちのあるべき関係だろう」



 俺たちは似た者同士だ。

 世界からのはみ出し者で、孤独の中で各々のやり方叫ぶ。

 俺たちは、ここにいるぞと。

 だから、藤巻冬人のことが嫌いで、それと同時に安堵もしていた。

 独りではないことに。



「そうか……やはり分かっていたか」

「それはそうさ。俺たちは似た者同士。考えることは、大体一緒だろ」



 俺たちはどうしなく意地と誇りが高く、時にそれに左右されながら生きてきた。

 本音を雁字搦めにして隠し、知られることに恐怖を覚えていたんだ。

 拒絶されるのが怖かった。

 同類であり、唯一の理解者である藤巻冬人に、憧れを覚えていたんだ。



「ある意味、拗らせてるよな」

「確かにその通りだ。こんなやり方じゃないと前に進めないなら尚更ね」



 俺たちは似た者同士だからこそ、犬猿の仲という関係になった。

 それは、堂本雅人として、藤巻冬人として。

 あるべき姿だからだ。

 例えそこから先に進みたいと願っても、今までの生き方がそれを否定する。

 だから、対等にならなければいけなかった。

 堂本雅人としてではなく、アーク•ジルディングとして。

 藤巻冬人としてではなく、ミスト•バラスリンカとして。

 それが、一度死んで対等という意味。



「ああ、そろそろ時間か」



 冬人の身体は徐々に灰になっていた。

 幾ら吸血鬼と言えども、心臓を破壊されれば死ぬ。

 それを覚悟の上で貫いたのだ。



「さてと、これで死ぬ訳だけど、その前にもう一度尋ねようか」



 灰になることなど御構い無し相対する俺と冬人。

 今更言葉にするでもなく理解しているが、だからこそ形にするものなのだろう。



「なぁ、俺と手を組まないか? 俺たちが共に進めば、更なる高みに至れる。そう思うだろう。アーク•ジルディング」

「……そうだな。一度死んで対等だと言った。だから、俺たちは──」



 僅かに震える身体に喝を入れ、右手を差し出してがっしりと握手を交わした。



「──もう、対等な関係さ。ミスト•バラスリンカ。共に行こう」



 上手く笑えただろうか。

 そもそも、こういう場面で笑顔はどうなのだろう。

 経験がないから分からない。

 でも、



「おいおい。何だよその顔は。思わず俺も笑うだらうが」



 これが正解なのかも知れない。

 藤巻冬人の肉体が風に運ばれて搔き消えていく。

 その砕けた笑顔と共に。



「──はっ、馬鹿野郎。笑わせてくれるのは、俺の台詞だよ」



 風が吹いていた。

 吹き抜けるような強い風が、全身を揺らして視界が震える。

 もう藤巻冬人はいない。

 再び転生するかも分からないし、したとしてもこの世界とは限らない。

 記憶が存在する保証だってないんだ。

 でも、それでも俺は、いつの日か再開することを信じている。

 何せ約束したからな。

 手を組んで、共に行こうと。


息抜きの作品。

アイディアが湧いたから書いてみた。

割と勢い任せなのは否めない。

面白ければ幸いです。

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