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1 謎の婚約申し込み

 




 妹はいつも私から奪っていく。私のお気に入りのモノを……



 私は、カッセル伯爵家長女パニーラ。現在17歳。

 私には2つ年上のお兄様と2つ年下の妹がいる。お兄様はいかにも長男らしい穏やかで落ち着いた優しい人だ。問題は現在15歳の妹である。

 妹のアリスは、幼い頃から私のお気に入りのモノを必ず欲しがり、奪っていく。


 例えば髪飾り。

 それは私の髪色に全く合わない地味な色の可愛くない髪飾りだった。

「ねぇ、アリス。見て見て。この髪飾り、可愛いでしょう? 私の1番のお気に入りなのよ~」

 私は妹にそれを見せびらかす。「1番の」「お気に入り」というフレーズを強調する。すると必ず妹は欲しがるのだ。

「お姉様、お願い! その髪飾り、私に頂戴!」

「えっ? でもこれ、私のお気に入りなのよ……」

 勿体ぶるのもお約束。

「お姉様~! お願~い!」

「もう、仕方のない子ね。今回だけ特別よ」

 そして私は、お母様にそのことを報告する。無理して微笑んでいる風な笑顔を作って。すると、お母様は私の頭を撫でながらおっしゃった。

「パニーラ。いつも偉いわね。自分は我慢ばかりして、何ていい子なのかしら。貴女にはすぐに新しい髪飾りを買ってあげるわね」

「ありがとうございます。お母様」

 よっしゃー!


 例えばドレス。

 それは私の誕生日プレゼントとしてセンスの悪い叔母が贈ってくれた、センスの悪いドレスだった。

「ねぇ、見て見てアリス! 叔母様から頂いたドレス、素敵でしょう? さすが叔母様はセンス抜群よね~。そう思わない? 私、このドレス、とっても気に入ったわ~。私の持ってるドレスの中で1番可愛いわ~」

 妹の目がギラリと光る。

「お姉様~。私、そのドレスが欲しい!」

「えっ? アリス。さすがに、これはあげられないわ。叔母様から私へのプレゼントですもの」

「お願い! お姉様! どうしてもそのドレスが欲しいの!」

 私は大きな溜息をつく。

「仕方のない子ね。叔母様には内緒よ」

「もちろん! 分かってるわ! お姉様、ありがとう!」

 そして当然、お母様に報告する。

「____というわけでアリスにドレスをあげてしまいました。私、叔母様に申し訳なくて……」

「まぁ、アリスの我が儘にも困ったものね。パニーラには私が新しいドレスをプレゼントするわ。そんなに落ち込まないで。来週にでも仕立て屋を呼びましょう」

「お母様、ありがとうございます」

 よっしゃー! ドレス、ゲットだぜ!


 無機物だけでは終わらない。

 例えば侍女。

 ある時、結婚して辞めた侍女の代わりに私付きとして新しい侍女が雇われた。彼女は神経質で細かいことまでうるさい。私はすぐに、その侍女に辟易するようになった。

「ねえ、アリス。私の新しい侍女は素晴らしいのよ。とても細やかな気配りができて、仕事はいつも完璧。あんな侍女は初めてだわ。今までで1番の侍女だわ。私の超お気に入りなんだから! あ~、ずっとずっと私の元に居てくれないかしら~」

「お姉様~。私の侍女と取り換えて~。お願い!」

 さすがに私の一存では無理なので、お父様に頼みに行った。

「____というわけなので、アリスの願いを叶えてあげてほしいのです」

 お父様は、

「いつもいつもお前ばかり我慢していいのかい? アリスの望みを全て叶えてやることはないんだぞ」

 と私を優しく見つめながらおっしゃった。

「いいえ、お父様。私はアリスの願いなら全部叶えたいのです。大事な大事な妹ですもの」

「パニーラ。お前はなんて優しい良い子なんだ」

 こうして、私の口うるさい侍女は妹付きになり、代わりに妹付きだった大らかな侍女が私に付くことになった。ラッキー!



 子供の頃から、こんな風にいろいろなモノ(人を含む)を妹に奪われてきた可哀想な私……な~んてね。

 妹との仲は良好だ。当たり前だ。妹は確かに我が儘だけれど、私の本当に大事なモノを彼女が奪ったことなど一度もないのだから。




 17歳になってすぐのこと。私の婚約が決まった。

 一つ年上のダールバック侯爵家令息ライル様との婚約は、候爵家からの突然の申し込みにより、あっという間に調った。侯爵家から是非にと望まれたのだ。我が家が断れるはずはない。何でもライル様が夜会で私のことを見初めたのだとか。絶対に嘘だと思う。

 ライル様はものすごいイケメンなのだ。それはもう嫌味なくらいに綺麗な顔をしている。夜会ではいつも多くのご令嬢に取り囲まれていらっしゃるから、面倒事の嫌いな私は「触らぬイケメンに祟りなし」という信条のもと、ライル様に近寄ったこともなければお話ししたこともない。勿論、ダンスに誘われたことも一度もない。なのに見初めただぁ? 嘘も大概にしてほしい。一体、何が目的なのだろう? 私は疑心暗鬼になっていた。あ、ちなみに私は遠目に見て一目惚れされるような容姿ではない。ちょっと可愛い程度の見た目であり、私の魅力は会話してナンボのモノである。


 あちらは侯爵家で我が家は伯爵家。家格が釣り合わないということはないが結婚によって侯爵家に新たなメリットは生まれない。あちらの方がずっと恵まれた領地をお持ちの為、経済的にも我が家より豊かなはずである。う~ん、わからない。もしかして人違いをしていらっしゃるのでは? と最初は思ったくらいだ。だが、両家顔合わせの席でお会いした際、ライル様にそんな素振りはなく、とてもにこやかに私に接してくださった。


「お姉様、婚約が決まったというのに、どうしてそんなに憂い顔なの?」

 妹が心配そうに声をかけてくる。我が儘だけど根は良い子なのだ。

「ライル様が私を夜会で見初めるなんてあり得ないと思ってね……理由のわからない婚約なんて怖いわ」

「お姉様は女らしくて色っぽいわ。お胸も大きいし会話も楽しいし殿方には人気があるじゃない?」

「相手がフツメンなら分かるわよ。でも、あのライル様よ? 私よりももっと綺麗でもっと色っぽくてもっと胸の大きいご令嬢をいくらでも妻に出来るのに、なぜ私? 分からないわー」

「うーん、そう言われてみればそうね。夜会でいつもライル様を取り囲んでいるご令嬢達も色っぽい美人が多いものね。選り取り見取りよね」

「でしょー? あー、やだやだ。アリス、代わってよ!」

「お姉様の要らないモノなんて欲しくないわよ!」


 そうよね。貴女が欲しいのは私の「1番の」「お気に入り」だけだものね。

 いくら何でも今回ばかりは、アリスを言いくるめてハイ、交代! というわけにいかない。子供の頃お父様に頼んで担当侍女を交換したようにはいかないのだ。当たり前である。相手は侯爵家の令息だ。そしてこれは両家が結んだ正式な婚約なのである。はぁ~、憂鬱だわ。



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