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おつかい道中記  作者: Ash Rabbit
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帰郷(2)

 黒い炭のような塊がいくつか入っていた。


「これは――この鉱石はすでに使い切られたもの……か?」


 ため息をついて、ビーは覚悟したように話し始める。


「……たぶん、な。もとは綺麗な水晶だったんだけど、戦いの後で見た時にはどれもこの状態だった」


 ビーは、あの夢魔との戦いを思い出していた。


 圧倒的な脅威を前にして、各々威力が高い術を駆使している――無意識か水晶のほうが反応したのかはわからない――おそらく、その際に消費されたものと思われた。


 特にムーデナールに止めを刺した最後の術――力の源泉である神にも等しい存在を呼び出した。

 咄嗟の思いつきではあったが、あれはかなり危険な術だ。

 術者の魔力だけでなく生命さえも根こそぎ持っていかれてもおかしくはない。


 シャイナたちがビーを探しに来た時、息は辛うじてあったとのことだった。

 増幅機能を宿した水晶があったからこそ、あの状態で術を使ってもなんとか命を繋ぐことができたのではないかとビーは推測していた。


 消し炭のようになった水晶を手に取った祖父は、恐る恐る自分の考えを口にする。


「……もしや、あの場所の水晶は……」

「使えるようなのは残ってない、と思う」

「な、なんじゃとぉーーーー!?」


 祖父はのけ反るようにして、椅子ごとこけた。


「だ、だいじょうぶですか!?」


 エチルスが慌てて手を差し伸べる。

 その様子を見ながら、シャイナが申し訳なさそうに呟いた。


「やっぱ、オレたちのせいだよなぁ」

「……その可能性は高いだろうな。俺たちの魔力に水晶が反応してたってことだろ。

 ただ、あの場で何もしないでいたら、ここに帰ってきてないのも事実だ」

「……うん」


 二人が話している間に、祖父はなんとか机に手をついて起き上がって、エチルスが差し出した椅子に座り直した。改めて三人に視線をめぐらすと、憑き物を落とすように肩の力を抜いて、あっさりとあきらめた。


「……まぁ、仕方ないのぉ。たまたま見つけた場所じゃ、急に無くなることもあろう」

「それでいいのか? じいちゃんだけが使ってる場所じゃないんだろ」

「数あるうちの一つってだけじゃい。

 一つ採掘場がなくなっただけで商売に支障きたすような危ない橋は誰も渡っとらんよ。

 お前たちが気にすることではない」


 シャイナが身を乗り出す。


「ほんとにいいの?」

「うむ」

「あの、エンフリードさんには」


 遠慮がちにエチルスが尋ねる。


「あやつも気にするタイプではなかろうて」


 その言葉に、シャイナは破顔し、エチルスはほっと胸を撫でおろした。

 新しいクッキーを出しながら、祖母は孫に声をかける。


「よかったわね、ビーちゃん」


 頷きながら、ビーは深く息を吐いた。


「まぁ、これはいいとして」


 ごほん、と祖父は軽く咳払いをすると、


「ビービーや、エンフリードから他に何か預からんかったかのう?」

「……他?」

「何かあったっけ?」

「エンフリードさんところから預かったもの……」


 三人が要領を得ないので、祖父は更にヒントを出す。


「ほれ、ちょっと量は多かったじゃろうけど、あの、紅い、あそこの特産品の」

「「「……?」」」

「あら、おじいさん。それも頼んでたんですか?」


 唯一祖母だけが、答えを導き出したようだ。


「むしろそっちが本命じゃよ~! あれで作るばあさんのケーキは絶品じゃからな」


 三人はなおも首を傾げた。


「ケーキ、だって……?」

「ビーのばあちゃんの作るケーキ、ケーキでうまいやつ。どれもうまいけど」

「エンフリードさんところで貰ったものと言えば、地図と……」


 シャイナがぽんっと手を打った。


「おっ、確か大量のリンゴをもらったよな」

「ああ、いただきましたね~! カバンいっぱいに」

「それじゃぁああああーーー!! 

 正しくそのリンゴじゃよ~! ほれほれ、それはどこにあるんじゃ?」


 瞳を輝かせ、祖父は嬉々として大げさに三人の周辺を見回す。

 鉱石の時のあっさりとした態度とは打って変わって、ハイテンションだ。


 祖父のそんな態度に、エチルスとシャイナは口をつぐむ。


「ん? どうしたんじゃ? もらったんじゃろ?」

「――置いてきた」


 ビーの低い声がリビングに響いた。


「んん? すまん、耳が悪くての。なんて言ったんじゃ?」

「爆発の影響で落ちてきた岩の下敷きになっちまって潰れたから、全部置いてきたって言ったんだ」

「……なんと?」

「だから、ここにはねえよ」

「またまた、そんな冗談……」

「嘘ついても仕方ないだろ」

「全部とはいかなくても、少しくらい」

「ない」

「本当に?」


 ビーは乱暴にカップを置いた。


「ないっつってんだろ――てか、あれはおまけじゃないのかよ」

「あっちが本命じゃ、バカもーん!!」

「ふざけんな! そんなこと一言もいってなかっただろうが!!」

「孫のお前ならわしの好きなものくらい覚えとかんかいっ!」

「初耳だ、バカじじいっ!」


 そんな応酬を何度か繰り返し、二人の息は荒い。


「ホントに本当にほんとーーーに、無いんじゃな。欠片も」

「ないもんは、ない!」

 孫の無情な言葉に、祖父は力なく倒れ込んだ。


諸事情により、投稿期間が半年ほど空いてしまいました。

もう少しでこの話も書きあがります。お付き合いいただければ幸いです。

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