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おつかい道中記  作者: Ash Rabbit
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帰郷(1)

 数日後、三人はレフュジ村まで無事に帰りついた。

 その間、魔獣に追われることも、もちろん夢魔に遭遇することもなく、一番順調な旅路となった。






 店のドアを乱暴に開けると、ビーは奥に向かって声を荒げた。


「くぉら、くそじじいーーっ! どこにいる!」


 事の顛末を一切知らない老人は、店の奥から晴れやかな笑顔とともにひょっこりと顔を出した。


「おおー! 帰ったか、おかえ「おかえり、じゃねーーーー!!」


 そこからビーが祖父に対して、長い説教を始めたのは言うまでもない。


 エチルスは祖母にお茶とお菓子を御馳走になりつつ、リビングで大人しく待った。


 その間、シャイナは学校から帰って来たかのような調子で一度家路につく。

 しかし、待ち構えていた父母に烈火のごとく叱られ絞られ、まるで死の淵から命からがら這い戻ってきたような顔をしてエチルスの隣に座ると、テーブルに突っ伏したまましばらく動かなかった。


 出された紅茶をシャイナが飲めるようになった時分、ビーの怒号はようやくおさまる。

 シャイナとエチルスに対して祖父からこれでもかと謝罪させ、テーブルに着いた。


 紅茶の香りがリビングに広がり、手作りクッキーを囲んで、少し遅めのお茶会へと移行する。


「ほんと、すまんかったのう……」

「いえ、もうお気になさらないでください。今回のことはお爺さんにも予測できないことでしたし」


 エチルスが老人の言葉を受けて、否定するように両手と顔を振る。

 クッキーを頬張りながら、シャイナも頷く。


「そうそう。なんだかんだあっても、こうして帰ってきてるんだからさ」

「シャイナ、お前、ちゃんと家に帰ってきたんだろうな」

「……さ、さっき帰ったよ。ビーは見てないだろうけど、爺ちゃんが叱られてる間、オレも親父から脳天にげんこつくらってたんだからな」


 まだ痛みが引いていないのか、シャイナは殴られた場所を恐る恐るなでる。


「まぁまぁ、ほんとうにみんな無事に帰ってきてくれてよかったわ。

 エチルス先生、この度は本当にご迷惑をおかけしました」


 祖父母は改めてエチルスに頭を下げた。


「ビービーたちがいなかったら、こうやって美味しいお茶をいただくこともできなかったと思います。

 僕こそ、二人に面倒見てもらったようなものなんです。

 こちらこそ、ありがとうございました」

「エチルスがいなかったら、オレたちも無事じゃないし、お互いさまってことだよね。

な、ビー?」

「勝手についてきたお前に言われるのは癪だけど……、まぁ、そういうことになるな。

 マーがいなけりゃ、俺たちもここにはいなかった。ありがとな、マー」

「三人だから帰ってこれたんだよ。な、エチルス先生!」

「そうですね」


 穏やかな日差しが降り注ぐように、エチルスは笑った。


 空気は和み、話題は旅での出来事にうつる。

 シャイナが誇張して話すのを、エチルスはほほえましく思い、ビーは時折たしなめた。


 冒険譚もあらかた話し終えたころ、ふと気がついたように、何の悪気もなく祖母が疑問を口にする。


「あら、そういえば結局お使いの品はどうなったのかしら。

 いえ、でも、それどころじゃなかったわよね」


 祖母の言葉に、紅茶の入ったカップを持ったビーの手が止まる。


 シャイナはお菓子をのどに詰まらせ、エチルスはあからさまに目が泳いだ。


「まぁ、いけないこと訊いちゃった、かしら?」


 ここで、気の利かない祖父が三人にさらに追い打ちをかけた。


「んなわけないじゃろ、ばーさん。

 確かにかなりひどい状況じゃったとはいえ、うちの孫がそんなミスするわけないじゃろー。

 なぁ、ビービーや」


 これを敢えて、叱られた腹いせに言っているのならば、まだ救いはあった。

 しかし、祖父はおそらく本気でそう思っている。


 三人が黙ったまま答えないので、祖父は首を傾げた。


「……え、もしや……」


 ゴトンッ!


 祖父が暗い空気に気が付きかけたその時、ビーがポケットから取り出した袋を机の上に無造作に置いた。

 その場にいた誰もが、その手のひらサイズの麻袋に注目する。


「……これが、その品だ。……先に謝っとく」


 ビーは静かにそういうと、袋を祖父のほうに押し出した。


「こんなになっちゃってごめんな、じいちゃん」

「謝って済む問題ではないとは思うんですが、申し訳ないです」


 ビーに続いて、旅に同行していた二人も頭を下げる。


「ど、どうしたんじゃ? 急に」


 三人の態度を訝しく思いながらも、祖父はそれを自分の方へ引き寄せ紐を解くと、中を覗き込んだ。


「……んんん? こ、これは」


「おじいさん、何が入ってるんです?」


 言葉に詰まった祖父に、祖母が思わず声をかけた。

 中身が全員に見えるように、祖父は袋を開く。

 

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