旅の終わり(2)
程なくして、ビーは見つかった。
広場の端の方に倒れていたのだ。
不幸中の幸いか、爆発の中心部にいたにもかかわらず、ビーに火傷等の外傷は見当たらなかった。
ただその前に、夢魔から受けた傷はそのままだったので、瀕死の状態であることには変わりなく、
「どうしよう、エチルス……。このままじゃ、このままじゃビーが……!」
「……シャイナくん、ビービーから少し離れて」
エチルスはビーをできるだけ静かに仰向けに寝かせると、自分の耳飾りの片方の水晶を取った。
小さく呪文を呟いて、その水晶をビーの胸の上に置く。
すると水晶から光の帯が出現し、見る見るうちにビーの身体を優しく包んでいく。
まるで薄い卵の殻の中にビーが横たわっているような状況だ。
「エチルス、これって……」
「この水晶は普段身につけることで、僕の魔力を蓄積してくれる道具です。
助けを呼びに行くには時間がありません。
今魔力が底をついている僕にできるのはここまでです……」
「よかった! ありがとう、エチルス!」
シャイナの笑顔に対して、エチルスは苦い顔をしたままだ。
「……これを実際につかうのは、初めてなんです。だからどこまで助けられるのか……」
「!!」
二人は魔術道具に願い、ビーを信じて待った。
ビーは、あらためて自分の身体を確かめた。
ムーデナールにやられた腕の傷や、体の内側から突き上げるような痛みもほとんどない。
息を吸っても苦しくないし、呼吸もちゃんとできている。
試しに足先や指を動かしてみると、ちゃんと感覚もある。
その時手に馴染んだ感触がないことに、ビーの視線が宙をさまよった。
ビーが何かを探していることに気がついたシャイナは、
「あるある。ちゃんとここに置いてあるよ」
そういってビーの傍らを指した。
黄金色の銃が相変わらずの姿で、地面に置かれている。
「……」
ビーは二人の顔をあらためて眺めた。
ムーデナールに打ち勝ったこと、そして三人とも生きていること――身体だけでなく、心臓の奥の方がじんわりと温かくなってくる。
「……ありがとう、な。……シャイナ、マー」
二人は、鳩が豆鉄砲を食ったようなような顔をする。
特にエチルスは、かなり驚愕していた。
「……い、いま……、ビービー……」
「……なんだ?」
エチルスの反応に釈然としないビーは、眉間に皺を寄せる。
シャイナは白い膜に触れないように、ビーを覗き込んだ。
「なんか、久々に見たな~。ビーの笑った顔」
「は?」
「そう! そうですよ、今笑いましたよね? いや微笑みましたよね!?」
「はぁ?」
「はははっ、明日は雨かな」
「おい、どういう意味だ!」
「あ、ビービー起きちゃだめですって」
エチルスに制されて、ビーは大人しく姿勢を戻した。
「ちっ!」
「ビーも元気になってきたし、そろそろ戻らないとな」
「……そうだな、家に帰ろう」
「おう!」
「はい!」




