表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おつかい道中記  作者: Ash Rabbit
42/55

一対一(1)

ビーは銃をホルスターに収めた。

代わりに、左手にシャイナの剣を握る。

いつもと違う感触に、少し戸惑う。


この炎の剣を振るったことはなかった。

自分には銃があったし、この剣はシャイナしか認めていない。

彼だけが、剣から炎を引き出すことができるのだ。


以前シャイナから借りて試してみたが、炎は頑なに顔を出してはくれなかった。

シャイナ曰く、身体の内側から剣に手を伸ばす感じ、と言っていたが、その感覚はさっぱりわからなかった。


今も剣はこちらの呼びかけには応えてくれそうにない。


それでも、短剣としては使える。

時間を稼ぐためにも、ビー球以外で夢魔への対抗手段は持っておきたい。


ちらりと後ろを盗み見る。

淡い光の繭の中で、シャイナは相変わらず青い顔をしていた。


胸が痛むのと同時に、強く思う。


 ――助けたい。必ず、シャイナを助ける――


「シャイナ、悪いけど剣借りとくな。お前みたいにうまく使えないけど」


 マーは回復術を維持しながら、不安げな目をこちらに向けていた。

 その視線を受けて、ビーはうなずく。


 再びムーデナールを見据えると、ヤツはにやりと笑った気がした。

 ビーは駆け出す。

 スピードを上げて、一気にムーデナールに詰め寄った。


 五本の牙がビーを捕らえんと動く。

 スピードは多少落ちたものの、硬化したからといって動作へのデメリットはないようだ。


 ビーは刃が届く寸前に身を伏せ、そのままムーデナールの股をスライディングで抜けた。

 夢魔はビーの姿を目で追えていない。


 その隙を逃さず、ビーは夢魔の背中を斬った。


 ガキィィイイイイン


 剣を握る手にしびれが伝わってくる。

 やはり、剣は通じない。


 人間ではありえない方向に夢魔の両腕の関節が曲がって、背後にいるビーを狙う。


 おぞましさを覚えながらも、ビーはそれを後方宙返りでかわした。


 獲物を逃がすまいと、ムーデナールがビーを追う。


 一定の距離を保ちながら、ビーは応戦する。

 応戦しながらも、徐々にシャイナたちから離れるようにムーデナールを誘導していく。


 チャンスがあれば、ビーは銃を手にするつもりだった。

 しかし、夢魔の硬化が解けるまでは剣で応戦し、その刃から逃げ続けるしかない。

 それは同時に、マーがシャイナの止血をする時間を稼ぐことにつながる。


 ムーデナールの硬化が解けるか、マーの治療の一段階が終わるのが先か。

 

 猫女の存在を忘れたわけではない。

 あの女はやけに自分を挑発していた。

 解呪したのも自分、ムーデナールは愛銃に見覚えがあるという。

 おそらく、自分さえ残れば二人は見逃してもらえる可能性が高い。


 ムーデナールをかつて封印したのは――

 この銃の元の持ち主は――


 確証はどこにもない。

 ビーは、全神経を夢魔に向けた。

 しなる刃の動きを読み、合間を見ては仕掛ける。

 先は考えない。今この瞬間を凌ぐ。






 長い時間はかからなかったように思われる。

 夢魔の向こう側で、マーが動いた。

 シャイナを抱え、走り出す。

 

 迫りくる刃をやり過ごしながら、ビーは心の中でよかったと呟いた。

 ひとまず止血はできたと考えていいだろう。

 

 ムーデナールの注意をこちらに引きつけるために、一太刀を浴びせる。

 少しは手応えがあればと思うが、剣は夢魔の肌を滑るだけだ。


 ――まだ安心はできない。


 シャイナの怪我は、止血をしただけで何とかなるようなものではないだろう。

 シャイナのバカみたいな体力と運の良さと、マーの治癒能力を信じるしかない。


 相変わらず、ムーデナールの身体は鋼鉄を保っていた。

 瞬間的に移動スピードがあがることは、今のところない。

 硬化の間は使えないのか?――

 自分でコントロールできているものか、それともなにかきっかけが必要なのか。


 ビーは、夢魔の動きを観察する。

 硬化直前の攻撃で右腕の動きはだいぶ鈍くなっていた。

 ただ、あれだけの攻撃を受けても動かせるのには素直に驚く。

 

 二人が逃げおおせたのを見計らって、何か手を打ちたい。

 

 ビーは、タダでやられてやるつもりなど毛頭なかった。

 攻めるのならば、右側、右腕、右手だ。

 

 マーが与えたダメージ、それがきっかけとなっている。

 右手の刃物、欠けたままの親指と人差し指。


 ――狙うならそこだ。

 

 まもなくシャイナを抱えたマーが、入ってきた洞窟へたどり着く。

 猫女は出てきていない。

 このまま見過ごしてくれることを、ビーは願った。

 

 ムーデナールはこちらに殺意を向けていて、シャイナたちのことは頭にないようだ。

 ビーは、わざとらしく大げさに切りかかってみたりもする。


 視界の奥で、マーがこちらを一瞬振り返った。


 ――立ち止まるな、行け。そのまま行ってくれ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ