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おつかい道中記  作者: Ash Rabbit
40/55

意地

 夢魔の長く鋭い刃の切っ先は、ビーの目前でその動きを止めていた。

 カチカチと力の拮抗する音と、ゴウゴウと唸る炎が揺らめく。


「間一髪、間に合った」

「シャイナ!」


 ムーデナールの刃を止めたのは、シャイナの炎の剣だった。

 シャイナは力を受け流すようにして、刃を払う。


 夢魔から目を離さず、ビーはシャイナに尋ねる。


「シャイナ、マーは無事なのか?」

「うん、大丈夫。バリアってーの? それでほとんど無傷だよ」

「そうか、魔術障壁か。マーはそんなのも使えたんだな」 


 ビーは安堵の息を吐いた。


 シャイナはその様子を横目で捉える。


「エチルスからの伝言なんだけどさ。ビー、あいつの右手の違和感気づいてた?」

「右手の刃物、親指と人差し指がない。あと微妙にかばうな」

「お、さすが。それね、エチルスのおかげだよ」

「マーが?」

「その魔術なんたら、バリアー?」

「魔術障壁」

「そうそう、それ。あいつと土煙の中で鉢合わせた時、咄嗟にそれをぶつけたんだって」

「それで、あいつの刃は折れたのか」

「そう。きっと右手全体にもダメージは残ってるはずだって」

「意外と根性あんな、マーのやつ」

「だろ? オレもそう思った!」

「マーのおかげだな。傷ついた足はヤツの動きにさして影響がない。足よりも手を気にしてる。突破口はそこだな」

「おっしゃ!」


 シャイナが気合を入れたその時、先に動いたのはムーデナールだった。

 二人の間を裂くように、五本の刃が空を切る。


 ビーは飛び退き様に、ムーデナールの頭に照準を合わせるが、すぐに右手の刃が追ってきた。

 軽く舌打ちをしながら、着地したその足でさらに後退する。


「こっちも忘れないでよ!」


 シャイナが大きく振りかぶり、ムーデナールの背後から後頭部を狙う。

 再び高い金属音がし、今度は夢魔の刃が炎の剣を防ぐ。


「邪魔スルなァアアあぁッ」

「邪魔してんのはそっちだろ、炎・火花(スパーク)!!」


 シャイナの掛け声とともに、炎の剣から複数の火の玉が生まれた。

 ムーデナールの左腕に触れると弾けて爆発する。


 思わずムーデナールは左手をひく。しかし同時に、三本の右手の刃をシャイナに繰り出した。


 それはシャイナの着地点を穿つ。

 足場が不安定になり、シャイナはバランスを崩した。


 狙い定めたように、夢魔の五本の牙がシャイナを狙う。


「させるかっ!――雷電弾(ライジング・ブリット)


 光り輝く雷球は勢いよくムーデナールの刃に当たると、シャイナに向けられたその矛先を変えた。


「サンキュ、ビー!」


 体勢を整えたシャイナが、再びムーデナールへ剣を振るう。


 しかし、ムーデナールは左手をぐわっと開き、剣ごとシャイナを握りつぶそうと動く。


 すかさずビーが仕掛けた。


「雷の流星群(ライジング・メトロ)!!」


 ムーデナールの右腕に、星が降るように雷が落ちる。


「ぎャイヤァアアアアァあーーーーー!!」


 肩から右腕が、焼け焦げた炭のように黒くなった。


 間髪入れず、シャイナが跳躍する。


「――紅竜の(レッド・クロウ)っ!!」


 ムーデナールの脳天に炎の剣を振り下ろした。


 ガキーーーィィイインッ!!


 金属音が空気を振動させる。


 夢魔の肌が再び硬化していた。

 シャイナの剣は届かない。


 剣を受けたことをきっかけに、頭部から足先に向って硬化の波が広がっていく。


 ビーはすぐさま引き金をひいた。


天雷矢(ライジング・アロー)!!」

 二本の矢がムーデナール目がけて飛ぶ。

 今度は目標に到達するも、雷の矢は鋼鉄の肌に跳ね返されてしまう。


 ――まずいっ!


 すばやく空になった試験管を入れかえる。


 黒の波は一気に夢魔の全身に広がり、硬い金属がムーデナールの表面を覆っていた。

 動かなければ、そういう材質で作り上げたオブジェにも見えたかもしれない。


 シャイナの剣を二度も受け止め、魔術さえも歯が立たない。


 ――あの状態だと攻撃が効かないっ! 


 硬化は最終手段のように思えた。ぎりぎりのライン、致命傷を避けるために使う。

 ただし、これまではすぐ元に戻っていた。

 つまり、その状態のままでいることは夢魔にとって能力負荷が大きいか、硬化したままでは不利な点があるかだ。


 マーが魔術障壁で相手にダメージを与えたということだったが、それは相手も油断していた、ノーガードだったからこそ効いたのではないか。


 残念ながら、ビーは魔術障壁を作り出す術を持っていなかった。

 なんとなく想像できるものの、それを試すには持ち球が少なすぎる。


 銃を握る手が汗ばむ。


 シャイナの炎の剣ならば、彼が力尽きない限りは使用可能だ。

 接近戦でシャイナをサポートしながら、隙をみて強力な魔術を打ち込む。

 マーがいつ復帰できるのかはわからないが、その場合彼の持つビー球を共有できれば凌げるか。


 頭の中でさまざまなシミュレーションが飛び交う。

 考えることに集中して、目の前の些細な動きをビーは見落とした。


「ビー!!」


 シャイナの悲鳴に近い声が耳を貫く。

 刹那、ムーデナールがすぐ目の前に立っていた。


 奇妙に長い腕が、大きく振り上げられる。

 夢魔の口は、裂けたように笑っていた。


 ――避けられないっ!


 ビーは咄嗟に銃を前に突き出す。


 ドンッと身体に強い力が加わったと思った瞬間、黒い影が前をよぎる。


 ザシュゥキイィイインッ――


 強い引力に引っ張られるかのように、ビーの身体は一気に壁まで吹っ飛ばされた。


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