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おつかい道中記  作者: Ash Rabbit
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黄金色の銃

 ブンブンッと激しい風の流れが、ビーの髪の少し先を疾走する。

 それは足元をすくおうと、左腕をもぎ取ろうと襲い来る。

 ムーデナールの両手から繰り出される刃の舞の中、ビーは一人巧みに身をひるがえす。


 防戦一方だが、反撃のチャンスを狙っていた。


 攻撃パターンを観察している中で、ビーは気づいたことがある。

 ムーデナールの右手の刃が二本無くなっているのだ。

 指に例えるのならば、親指と人差し指。

 なぜそうなっているか、どの時点からだったのかはわからない。

 土煙の中から出てきた時は、すでにそうだったようだ。


 相手の右側からなんとか突破口を開けないか。

 蹴りや殴打で相手のリズムを崩そうとするが、そんなことで倒れるようなやわな相手ではない。

 そこに集中しすぎれば、逆にこちらの隙をつかれてしまう。


 また生身の身体では、硬化という特性を持つ相手に対して不利であった。

 子どものパワーでは、威力が足りなさ過ぎた。


 ――ちっ! いちかばちか――


 ビーはすばやくムーデナールの背後に回ると、間合いを詰めるべく大地を蹴る。


 関節をいびつに曲げて、ムーデナールが振り返った。


 ビーが跳躍した先に、振り返ったムーデナールの顔面がくる。


 銃を強く握りしめたまま、ビーは相手のこめかみめがけて拳をふるった。


 次の瞬間、ムーデナールの顔がへしゃげる。

 ビーの拳ごと、黄金色の銃がその生気のない肌にめり込んだ。

 





 黄金色の銃は、特殊な性質を備えていた。


 ビーが常に携帯し、祖父の後始末という名の戦闘で幾度となく活躍しているにも関わらず、その輝きが曇ることはない。この銃がビーの手の中に収まって早数年、常に新品同様の状態を維持している。


 ビーも好奇心が手伝い、わざと落としたり、雑に扱ってみたり、ハンマーで叩いてみたりもした。

 しかし、少しも欠けることなく、その表面に小さな傷を作ることさえない。


 祖父の分析によると、とてつもなく硬い金属で作られているのではないか、ということだった。




 どういう経緯で祖父のもとにこの銃があったのかを、ビーは聞けずにいる。


 この銃を初めて手にしたとき、それがずっと前から自分のものだったように手になじんだ。

 祖父はビーが魔術に関わることを嫌っていたので、当然この銃もすぐに取り上げられてしまうだろうと思った。返したくなかったビーは、無理を承知で祖父にごねる。


 祖父の反応は予想外だった。

 何か懐かしそうな、悲しそうな複雑な顔をして、最後は仕方がないのう、と少し嬉しそうに言ったのだ。


 こうして、この不思議な銃はビーのものとなる。






 この銃が元々誰のものだったのか――

 年齢を重ねるにつれて、子ども心にも何となく想像できた。

 祖父が許した理由も。


 しかし、はっきりと面と向かって尋ねたことはなかった。

 わかったところでどうにもならないし、知らなくても支障はないからだ。


 今この銃は自分のものだし、過去に誰が使っていようが、どんな因縁があろうが、関係ないはずだ。


  




 鈍器として使用した銃の効果は、十分だったようだ。


 ムーデナールは顔から地面に突っ伏した。

 すぐに起き上がるが、こめかみの部分がいびつにへこんでいる。

 激しい憎悪の色がその目に宿っていた。

 石臼を引いたような、ごりごりとした歯ぎしりがはっきりと聞こえてくる。


「そレ、ソれ、嫌ぃダアぁーーー!

前も、マえも同じ。デもぉウ思いダせナァイ」


「――前、だと?」


「ソウダそうだ、昔シッてル! 見テイるハズだ」


 ムーデナールが、闇雲に近くの地面を自らの刃で何度も穿つ。


「ドうしてダ! ナぜ、知ってイる! ココにある!?」


 自分自身を罵倒するように、ひとり言を叫びながら右手をふり下ろす。


「知らナイ、シッてイル! シッテいる! 嫌ダ、イケなィ、なぜワカラナイのダッ! 

キッテ! 切っテしまうキッテシマわなケレバ切ってシマェェ! キっテしまえーー!!」 


 ムーデナールが再びビーとの距離を一足飛びに詰める。


 狂気じみたその言動に、ビーは反応が遅れた。


 ギラリと光る刃が、頭上から一気に降り注ぐ。


ガキィィィィイイイーーン!


 硬質な物体同士が激しくぶつかり合った。


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