表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おつかい道中記  作者: Ash Rabbit
35/55

回避不能(2)

「後ろに下がれ」

 

 できる限り冷淡に告げると、ビーは二人に背を向け、前傾姿勢をとった。

 頭のなかで、ムーデナールを引き離す算段を始める。


 ビーはもう、二人の話を聞く気はなかった。

 この態度を貫けば、しぶしぶながらでも応じてくれるだろうと考えていたからだ。


 そんなビーの背中に突き刺すような言葉が飛んだ。


「嫌です!!」


 予想外の声に、ビーは思わず振り返る。


 雨に濡れた小鳥のようにエチルスの身体は小刻みに震えていた。それなのに、いつも木漏れ日のような穏やかな栗色の瞳は、熱を帯びて真っ直ぐにビーを見つめている。


「僕もビービーと一緒に戦います!

 あなたを残して、ここから離れるなんてできません!」

「ふざけんな! 死ぬかもしれないんだぞ!」

「それを言うなら、ビービーだってそうじゃないですか! 

 嫌です、ぜーったいに譲りませんからね。ビービーの言うことは聞きません!

 なんで僕だけ安全な場所にいなきゃならないんですか」

「お前には無理だ、戦えない」

「戦える、戦えないんじゃないです。僕は嫌なんです!」

「はあ!? なに子どもみたいなことを」

「そうです! 

 ビービーは子どもじゃないですか。子どもが危ないことに首を突っ込んじゃダメです!

 僕のほうが大人なんですからね、しかも先生なんです!ビービーこそ言うことを聞きなさいっ!」

「お前、弱いだろうがっ!」

「弱いですよ、体力もありませんよ! でも、君たちよりは大人です!」

「今はそういうこと言ってる場合じゃないだろ」

「そういうことなんです! ビービーが折れてください!」

「今までほいほい指示に従ってたのは誰だよ」

「僕ですよ。

 当たり前じゃないですが、旅に出るのも、野宿するのも、戦うのもほとんど初めてなんですから!」

「だったら」

「大人には大人の意地があります! 僕はここから一歩も動きませんからね!」

「いい加減に……」

「ぷっ」


 シャイナが思わず吹き出した。


「ははははっ」

「お前、何笑ってんだ!」

「いや、なんか緊迫感無くて」

「あぁ!?」

「ごめんごめん。いや、思ってたよりエチルスって頑固なんだね。

 エチルスはじーちゃんに頼まれてたけど、オレは勝手についてきたんだよね」


 不機嫌な口調でビーは答える。


「ああ、そうだな。勝手についてきたからこんなことになってんだ」

「じゃあ、オレも自分の好きにしようっと」

「は!?」

「オレもエチルスとおんなじ。ビーだけ戦わせるなんて、ぜーったいヤダ」


 苛立ちを発散させるように、ビーは帽子の上から頭をがしがしと掻いた。


「お前な」

「わかってる」

「わかってない!」

「わかってないのはビーの方」


 シャイナはビーの方に一歩足を踏みだす。


「オレだってビーが傷つくのは見たくない。

 まだまだ死にたくもないし、美味しいものも食べたいし、楽しいこともおもしろいこともビーと一緒にいっぱいしたい。だから三人で村に帰る、それしかない」

「そんなこと」

「無理じゃない。それに、ビーを見捨てる自分なんて、オレはぜーったい許さないね」


 シャイナの言葉に、ビーは肩から力が抜けた気がした。


 頭はまだ、二人を戦いに参加させてはいけないと警鐘を鳴らしている。

 反対に、心は彼らを説得するのを半ばあきらめていた。


 先ほどまで閉じられた箱の中にいるような気分だったのに、今では箱のふたは取り払われ、光が射している。

 ひとりじゃない、それがこんなにも心強いと思ったのはいつぶりだろうか。


 状況は何一つ変わっていないのに、ビーの心は温かかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ