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おつかい道中記  作者: Ash Rabbit
23/55

伝令局にて

「えー、やっぱオレも一緒に行きたいー!」

「わがままいうな」


 サルサン村の伝令局の前でシャイナとビーはいい合いになっていた。


 伝令局に来た理由は二つ。


 一つは、レフュジ村に手紙を出してシャイナの居場所を知らせ、迎えに来てもらうこと。

 二つ目は、村を旅立つ前に自分たち宛てに伝言や荷物が届いていないかを確かめるためだった。


 伝令局は、主に街道沿いや大きな街に設置され、手紙や簡単な荷物を運んでくれる。依頼した荷物や自分宛ての書信は、伝令局に顔を出して受け取るシステムになっていた。

もちろん、レフュジ村にはない施設だ。送達物がある場合は一週間に一度レフュジ村を訪れる伝令係に預ける。


「二人ともそんなケンカしないで。ひとまず手紙が送れるかどうか聞いてみましょう」


 エチルスが伝令局の中へと進んだ。二人もあとに続いて扉をくぐる。


 中はあわただしい様相を呈していた。

 飛び交う掛け声、積み下ろされる荷物、裏口と中を行ったり来たり走る職員。


 先程まで口論していた二人は圧倒されて、言葉もでない。


 そんな中、エチルスは慣れた様子でカウンターへと進んだ。

 恐ろしく長い書類に目を通している男に話しかける。


「すみません、手紙を送りたいのですが」

「はいはい。こちらの用紙に記入お願いします。あ、筆記用具がありますんで使ってください」


 書類からすばやく顔を上げると、男性は取り出した道具を机にテキパキと置いていく。

 エチルスが羽ペンを動かしている間にも、男性は他の職員に指示を出して忙しない。


「それはそこに置いておいて。今朝のリストちょうだい。あ、書き終わられました? すみません、バタバタしてて。朝は何かと荷物が多いもんで。記入用紙はこちらにいただきますね。手紙はもうお持ちですか? まだでしたらそこの……」


 エチルスが手続きをしている間、少し後ろで見学していた二人は、その光景に何度も目をまばたかせていた。


「……なんか、俺たちの村とぜんぜん違うな」

「……ほんと、だね」


 エチルスが書き終わると、男性職員が素早くチェックする。


「えーと、行き先はレフュジ村。あ、はいはい、森向こうの村ですね。あて先はグック家、差出人はマー・エチルスさん……マー・エチルスさん?」

「はい。何か書き間違えてましたか?」

「いえいえいえ、大丈夫ですよ。確かさっき届いてたリストの中に……」


 男性は、先程ほかの職員から渡された長いリストを手に取ると、上から下へ素早く文字を追っていく。長いはずの書類は、あっという間に最後のほうに送られた。

 その作業は、ビーたちが何度か目をパチパチさせている間に完了する。


「あー、やっぱり、あったありましたよ。荷物が届いてますよ、ついさっきですね、えーと急ぎだから確かこのあたりに置いて、あ、あった。はい、マー・エチルスさん宛てに」

「僕に、ですか?」

「ええ。間違いないです、グック・ソウラさんから」

「グック?」


 エチルスは渡された重めの包みを受けとり、後ろを振りむいた。


「げ、父ちゃんの名前じゃん」


 そういってシャイナは後ずさる。


 逃げようとする幼馴染の腕を、ビーはつかんだ。


「ま、バレないはずないよな」

「えー、まじで」


 シャイナは青ざめる。

 ビーといい合いをしていた時の勢いは、もうない。


「これ、開けてもいいですか?」

「……エチルスに来てるんだし、開けてほしくないけどムリだよね……?」

「そうですね、さすがに……」


 シャイナは一度頭を抱えると、半ばやけになった口調で、自分を納得させるようにいった。


「あーもう、仕方ないじゃん! 開けて、エチルス」

「じゃぁ。すみません、ここで開けても大丈夫ですか?」

「ええ、問題ないですよ」


 職員に確認をとると、エチルスは包みを開いた。


 そこには、封書が二通入っていた。

 厚みがある方がエチルス、もう一通は……。


「シャイナ君にも来てますよ」


 耳を塞ぐような姿勢で、シャイナはエチルスを見あげる。


「……いらない」

「だめですよ。僕も一緒に開けますから」

「今さらびびっても仕方ないだろ」


 ビーに背中を押され、そこに自分の父親がいるわけでもないのに叱られにいくように、シャイナは恐る恐る封筒を受け取った。


 ゆっくりと中を開けると、便箋が一枚だけ入っている。

 二つ折りにされた便箋をつまんで取り出す。


「なんて書いてあるんだ?」

「急かさないでよ。オレ今めっちゃ緊張してる……。これなら森で魔獣と戦ってた方がましだよ」

「バカいうな、早く読め」


 ビーも手紙をのぞきこむ。


 シャイナが手紙を読む間に、エチルスも重たい封筒を開く。

 シャイナ宛のものとは対照的に、エチルスの便箋は何枚にも及んでいた。

 そして手紙以外の物も入っている。


 シャイナへの手紙の約半分は、大きな文字で占められていた。


『このバカ息子!! 帰ってきたら覚悟しとけ!』


 その一文を読んで、シャイナは座りこんだ。

 今にも倒れそうなくらい精気のない顔をしている。


「あー……、やっべぇ……」

「ある程度予想できてただろうが」

「想像してた時と、実際に起こるとまた別っていうか、本気でやばい気がする……」


 先に手紙を読み終えたエチルスが、シャイナに促す。


「最後まで手紙読みましたか?」

「え?」


 エチルスの含みをもった言い方に、ビーは何かを感じてシャイナから手紙を奪うように掴んで、続きを読み上げた。



『……と、オレに怒られるのはお前も分かってるだろう。

 話はビーさんたちから聞いてる。

 自分で決めて行動したんだ、最後までその責任を果たせ。

 くれぐれも二人に迷惑をかけるんじゃないぞ。


                             グック・ソウラ』



「まじか……」


 手紙を最後まで読み終えて、今度はビーがため息をつく番だった。


「へ? え、どういうこと?」


 まだ父親の意図がわからずにいるシャイナは、あきらめ顔のビーと笑顔のエチルスを見くらべる。


「つまり、シャイナ君は僕たちと旅を続けていいってことですよ」

「ほんと!?」


 シャイナは跳びあがる。


「ええ、本当ですよ。僕の手紙のほうには息子さんをよろしく頼むって書いてありましたし、一緒にお金も入ってました」

「やったー!!」


 ビーはエチルス宛ての手紙も読むと、観念したようにシャイナに返した。


「ほんとだな」

「なんでそんな嫌そうな顔してんの。オレがいれば百人力じゃん」

「どっからでてくるんだ、そのセリフ」


 表面上は素直に喜べないビーだったが、シャイナがいったように心強いのは確かだった。 

 湧き上がってくるうれしさをうまく受け止められず、自分に対してなんだかんだといい訳をしてしまう。

 ――戦う時は連携がとれるし、エチルスとの間も持つ。


 エチルスが手紙を書き直している間、二人は壁ぎわで待った。


 シャイナは上機嫌で鼻歌を歌いながら、そのリズムに合わせて身体を揺らす。


 その様子を見ていたビーは、シャイナが散歩に行く直前の飼い犬のように思えた。

 隠しきれないうれしさを、身体で表現している。こちらも悪い気はしない。


「ま、親父さんの許可が下りてよかったな」

「ほんと、このままここに残されないでよかったよー」

「そうだな、残しても黙ってついてくるつもりだったろ」

「ばれてたか」

「その時は宿屋に縛り上げてから行くつもりだったからな」

「げっ、まじでよかった」


 胸をなでおろすシャイナに、ビーは苦笑する。


「エチルスまだかな~。次はどんな街だろ、楽しみだよな」


 シャイナに次の街の話をふられた時、ビーはポケットに入っているものを思い出した。

 取り出したのは、あのソルという男から別れ際に渡された小袋だ。


「何それ?」


 シャイナが首を傾げた。

 エチルスも手紙を出し終えて戻ってくる。


「すみません、書き直すのに時間かかっちゃって……どうしたんですか?」


 二人に袋をかざしながら、ビーは答えた。


「あいつ、あのソルからもらってたの忘れてた」

「ソルさんから?」

「ああ、別れ際に渡されたんだ」

「何が入ってるのかな」

「さあな」

「開けてみましょうか」


 ビーは袋を逆さにして、中身をてのひらの上に広げる。


 いくつかのお菓子の中にまじって、一つだけ見慣れない金色に光るものが混じっている。


「なんだ、これ?」

「きらきらしてんね」

「マー、これ何か知って「え、え、ええーっ!? ビービー! これ本当に貰っちゃたんですか!?」


 ビーがいい終わらないうちに、エチルスの驚いた声が伝令局に響きわたる。


「「?」」


「あぁっ、すみません。つい大声出しちゃって……」


 周囲を気にしながら、エチルスは軽く屈むと声を抑えながらいった。


「あの、驚かないでくださいね。これ、金ですよ、金貨です。めちゃくちゃ高価なやつですよ」

「はっ!?」


 ビーは咄嗟に自分の口をふさいだ。


 シャイナは状況がわからず、指でつつく。


「金?」

「ばかっ! まじで貴重なやつだぞっ」


 ビーはシャイナから隠すように、てのひらを握りしめると、身体のほうに引いた。


「ビービー、ひとまずここから出ましょう」

「そ、そうだな。用事はもう終わったんだし」


 職員たちの窺うような視線を感じて、三人はそそくさと伝令局を後にした。






 人込みから離れて静かな場所にくると、三人は改めてソルから貰ったものを凝視する。


「これは、たしかに金貨ですね……。少し変わった模様が入ってますが。

 ソルさん、入れ間違えちゃったんですかね」

「そうかもな、あのおっさんならありそうだ。やっぱりつき返しとけばよかったな」


 ビーとエチルスが話し込んでいると、シャイナがお菓子を口にほうりこみながら尋ねた。


「ね、なんで金って高価なの?」


 エチルスはちらりとビーに視線を投げかけてから、説明をはじめた。


「えーとですね、『金』というのは滅多にない鉱石なんですけど、使い勝手がよくて、重宝されてるんです。そうですね、例えばシャイナ君の好きな食べ物を思い浮かべてください。それが年に一回しか食べられなくなったらどうしますか?」

「めっちゃ困る。その一回をすごーく大事にするか、できるかぎり取っておこうって思うかな」

「ちょっと変な例え方かもしれませんが、金もそういうことです。

 みんなが欲しがっているけど、なかなか手に入らないものなので価値が高いんです」

「ふーん、そっかぁ」

「それに金は、さまざまなものに加工することもできます。

 溶かすこともできますし、装飾品にしたり、他の鉱石と混ぜたり」


 ビーがエチルスの言葉をついで話す。


「魔力との相性もいいらしい。

 うちにもほんの少しだけ砂金があったけど、じじいが厳重に管理してたぞ」

「そんないいもの、ソルのおっちゃんくれたの?」


 エチルスは頭を捻る。


「うーん……。あっ、ビービー、ソルさんは渡されるとき何かおっしゃってましたか?」

「確か、役に立つからあとで使うといいい、とかいってたな」

「お礼として受け取るにはちょっと高価すぎますかね。もしかしたら、本当に間違えて入れられたのかもしれません」

「返してあげた方がいいんじゃない。ソルのおっちゃん、この村にいるんだろ?」


 シャイナの投げかけに、エチルスは首を横に振った。


「この村には宿屋が二軒あるんですが、どちらにも滞在されたことはなかったようです」

「伝令局にはもう聞いたのか?」

「はい、先程手紙を出すときに。ソルさんがこの村にしばらくいらっしゃったというようなことをいわれてましたから、伝令局には顔を出されてたと思ったんですけど、そういう人はいなかったみたいで」

「誰か知り合いの家に泊ってるとか?」

「約束があるっていってたからな」


 ビーは腕を組んで思案する。

 ソルを探している時間はあまりなかった。


 自分たちも目的の場所があり、学校の春休み中におつかいを済ませて、村に戻らなければならない。

祖父の情報がだいぶ適当だったこともあり、初日の時点で遅れている行程を少しでも取り戻す必要があった。


「俺たちもあまりのんびりしてられない。仕方がない、先に進もう」

「そうですね、これは一時的にお預かりしましょう。

 また帰りもこの村に立ち寄るはずですから、その時にまたお探ししましょう」


 エチルスの提案で、宿屋と伝令局にメッセージを残していくことにした。






 食糧を買いそろえて宿屋に戻る途中、シャイナがふと気づいたことを口にする。


「そういえばさ、ビーの銃も金色じゃない?」

「……そういや、そうだな」


 三人の視線がビーの腰に収められた黄金色の銃に向かう。


「え、まさか……。いえ、さすがに金は加工しやすい分柔らかいので武器にはむかないですし、そんな大きな金があるわけないですよ。色もちょっと違いますしね」

「だよねー」

「もし金だったら、今頃キズだらけだ」

「ビー、使い方荒いもんね」

「うるさい」

「でも、目立つのでこういう人が多い場所では出さない方がよさそうですね」

 ビーはキズ一つない滑らかな光沢を放つ愛用の銃を眺めると、そうだなと返した。


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