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おつかい道中記  作者: Ash Rabbit
14/55

真夜中の森(2)

 シャイナとエチルスが川から上がって走っていくのを見届けながら、ビーは素早く球の補充を行う。


「これで足止めになるといいんだがな」


 耳慣れた操作音が夜に吸い込まれる。


 川の向こうは深い闇だ。暗い森から黒い川が流れていた。


 姿は見えないが、荒々しく水を蹴散らす音は確実にこちらに向かっている。

 それが近づくにつれて、黒く蠢めく塊がビーのいる位置からも確認できるようになった。

 獣たちの息遣いや鳴き声も耳に届く。


 ビーは頭の中で考える

 ――全体のどのくらいの割合が、今こちらに向かっているのだろう

 ――球の残数を考えると、使う時を慎重に選ばなければならない

 ――質ではなく量で攻められている

 ――全部を相手にしていては切りがない

 ――やつらを足止めしたら、自分もすぐにこの場を離れ、前を行く二人と合流しなければ

 ――まだ追いつかれるわけにはいかない


 岩の上で足場を整え、銃を構えた。


 逃げる間合いも考えると敵に近づかれすぎてもいけない、かといって遠すぎては足止めにならない。

 距離とタイミングが重要だ。


 深く息を吸って、はいた。


 属性、術の選択、照準、敵のスピード、数、まとまり、引き金を引いた後の自分の行動、逃げ道、正面以外からの攻撃、奇襲の可能性、先に行った二人の安否――ビーの頭の中を、様々なシミュレーションがすさまじい勢いで行き交う。あらゆる状況を思い描き、知り得る情報から可能性を排除していく。


 それはやがて一つの明確なビジョンを導き出す。 


 ビーの心は決まった。


 ――失敗はしない――






 段々と黒い塊を形成しているモノの姿が分かるようになる。


 やはり普通の獣ではない。


 狼のような四肢で頭部に角を掲げるもの。

 熊のような巨体に鋭く伸びた牙。

 虎のようなしなやかな動きに不気味な光を帯びた眼光。

 尋常ではない早さで進む蛇。

 夜なのに自在に飛ぶ怪鳥。



 狂気や悪意といった淀んだ感情が手足をつけて、姿を持ったようだ。


 それは昼間決して表に出てこない、魔獣と呼ばれるモノたちだった。

 





 ビーはその姿を捉えても、動揺はしなかった。

 自分のするべき事はもう決まっていて、相手が異形の生物であれ、出方がどうであれ、それはすでに織り込み済みのこと。


 いつものように、その時を見極める。


 自分の描く少し先の未来と寸分違うことのない、攻撃の瞬間を。




 シミュレーションの中で定めた攻撃の起点に敵が到達するまで、あと十メートル。

 相手もこちらを認識しており、真っ直ぐに向かってくる。


 あと七メートル。

 川を進む音に混じって、仲間を誘導する呼び声が木霊する。


 三メートル。

 自分の間合いを確保できる、その距離まで。


 一メートル。

「……静かなる水の 冷たき怒りを知れ」


 〇メートル!

烈波流(カトゥラクト)――!!」


 銃声とともに飛び出した弾丸三発は、勢いよく川に突き刺さった。

 そして次の瞬間、巨大な水柱がいくつも立ち上がる。

 水柱は壁となって魔獣たちを飲み込みながら、一気に川を遡り始めた。


 川縁を進んでいたモノ、川中を行くモノ、空にいたモノも、水の壁に喰われていく。

 一部は逃げ出し、押し戻される。

 足腰が強靭なモノは、荒波をその場に留まって何とかやり過ごす。


 ビーは間髪入れず、次弾を放つ。


「走れ! 雷蛇撃(スネイクサンダー)――!!」


 声高に叫んで引き金を引いた。


 激しい炸裂音をともなって弾き出された二つのビー球は、空を切り黄金色の輝きを放ちながら着水、蛇のようにうねる雷となり、水中を光の速さで駆け抜ける。


 水を得た魚のように、雷蛇は急速にその領域を広げ、次々と敵を討つ。

 雷の牙にかかった魔獣たちは、全身を駆け巡る衝撃に苦痛の雄叫びを上げた。


 ビーは雷球を放った時点で、岩場から離れ始めていた。

 川の中に入らぬように、水に触れないように岩から岩へジャンプしながら河原まで退却する。

 

 自分の放った攻撃が彼らに打撃を与えたことを、横目に確認した。


 これでしばらく時間を稼げる。

 そう思い、前を行く二人に追いつくようスピードを上げようとした時だった。

 全身に覆い被さるような寒気を感じ、ビーは銃を構えながら振り返った。


 キシャ―ッと甲高い鳴き声を上げ、一羽の怪鳥が頭上に迫ってくる。

 鋭くとがったくちばしに、翼を広げた大きさは優にビーの身長を超える。


 ビーは迷わず、撃った。


鎌鼬(ウィンドバースト)!」


 振り向きざまに一発。


 放たれた球は、まっすぐに怪鳥の胸に突き刺さった。

 瞬く間にするどい刃舞う風へと姿を変え、その身体や翼をばっさりと切り裂く。

 怪鳥はより高くひと声鳴くと、羽を散らしながら失墜していった。


 残り二発。


 足を止めたビーにさらなる刺客が襲い来る。

 ビーの右手側の茂みから数匹のネズミが牙を向いて飛び出してきた。

 ビーは、反射的に銃口を下へ向け叫んだ。


旋突嵐(ブラスト)っ!」


 ビー球は地面に当たる。

 間髪入れず、それは激しく渦巻く砂塵の風と化した。

 周辺の土や小石を巻き上げ、ネズミたちからビーを守る盾となる。


 ネズミたちは、突如現れた舞い上がる土砂になす術なく飲み込まれていく。


 その間に、ビーは空になった銃槍を素早く入れ替えた。

 そして、再度地面に向けて力強く唱える。


旋突嵐(ブラスト)!」


 追加で同じ術をぶつけることで、先程の土砂の壁を更に強固な盾とした。


 ビーは、すばやく身をひるがえすと再び河原を走り出す。


 ある程度足止めはできただろう。

 しかし、このまま一人残って追っ手を防いでいるより、三人一緒の方が勝機はある。

 また他の場所で待ち伏せされている可能性も十分にあった。

 シャイナ一人ならば問題ないだろうが、戦いに不慣れなエチルスもいる。


 踏み出す足に自然と力が入った。





「ビービーは、よっと大丈夫で、しょうか?」

「んー、大丈夫だと思うよ〜」


 エチルスとシャイナは獣道を進んでいた。

 シャイナが先を歩き、エチルスがその後に続く。


 シャイナの腰にくくり付けられたランタンの薄ぼんやりとした光が、二人の足元を照らしている。


 ランタンの中には光る虫が入っていた。

 それは、先程シャイナが捕まえた夜光虫だった。

 夕方から朝にかけて光を放つ夜光虫は、夜の森では貴重だ。


 少しでも足元を照らせるものがないかと二人が悩んでいる時に、たまたま目の前を通り過ぎたのだ。

 苦肉の策ではあるが、虫の放つ光ならば相手に悟られにくく、明かりが確保できる。


 シャイナは持ち前の反射神経を活かして、難なく光る虫を捉えると持っていたランタンに放り込んだ。


 少し向こうに川の流れる音が聞こえる。

 川沿いを進んでいれば、いずれビーも合流するだろう。


 エチルスが少し前の岩に手をかけ、ぐっと力をいれて身体を前へと進める。


「お二人とも、本当に、お強いですしっ、ねっとと」


 進む道の先を視認しながら、シャイナは答えた。


「まぁ、ビーに任しとけば何とかしてくれるよ」

「心配になったりしません?」

「心配してないわけじゃないけど……。

 ビーってすごい頑張り屋さんでさ、本もたくさん読むし、勉強もするし、身体だって鍛えてるし、オレより強いんだよね。

 ビーのじいちゃんが持ち込む事件ややっかいごと、困った時やピンチの時も、なんだかんだでビーが何とかしてくれるからさ」


 ビーは誰かに頼るのではなく、できるだけ自分で解決しようとする。

 誰かを頼らなくていいように、自分の能力を高めようと努力する。

 

 そんな姿を、シャイナはいつも隣で見ていた。


 最初に出会ったころと比べると、ビーはとても強くなった(信じられないほどに)。

 みんなからも一目置かれている。

 責任感も強い。


 でも、強がりだから誰かに弱いところを見せられない性格だ。

 ビーが時々息がつまりそうになるほど抱え込んでいるのを、シャイナは知っていた。

 

 そんな時にすぐに手を差し伸べられるように、その苦しみが少しでも減るように、そばにいたいとシャイナは思っていた。

 単に、ビーが人との付き合い方が下手だから放っておけない、というのもある。


「ビービーのこと、信頼してるんですね」

「うん、もちろん! オレの自慢の幼馴染」


 そういって、シャイナはエチルスを振り返って笑った。


 その屈託のない笑顔は、エチルスを安心させた。

 少年の裏表のない言動は、人を惹きつける何かがある。

 おそらくビーも常日頃からそういうことを感じているのだろう、とエチルスは思った。


 シャイナは再び前を向いて、歩き出す。


「敵の数が多いから、ビー球の残数が気になってるかな。多分あとで作ると思うんだけど」

「え、作れるんですか?」

「う「ここにいたのか」


 ガサガサと草木をかき分けながら、ビーが横から二人に近づいた。


「ビービー無事だったんですね」

「あれ、よく分かったね。そろそろ合図かと思ったけど」

「……お前らの声がデカイんだよ」


 二人の会話は、だいぶ前からビーの耳にも届いていた。

 毎回毎回恥ずかしげもなくいってくれる。


「あれ、なんか照「うっせぇ。ほら、これ。マーも付けとけ」


 シャイナの話を遮りながら、ビーは二人に白い花を手渡した。

 その花を見たシャイナは、すぐにそれが何かわかったようだ。


「お、いいの見つけたじゃん」

「お前も夜光虫捕まえたんだな」

「ちゃちゃっとね」


 シャイナは貰った花を腰の後ろにつけた。

 ランタンと同じ位置になる。

 ビーもすでにホルスターに挿している。


 エチルスは受け取ったがいいが、どうすればいいのかわからなかった。

 一輪咲きの、ただ香りの良い花にしか見えない。


 首を傾げて、ビーに尋ねた。


「これは……?」

「ああ、これか。

 人間には無害なんだか、どういうわけか獣たちはこいつの匂いを嫌うんだ。

 だから、この花を身につけていれば、自然とアイツらから身を隠せる」

「手に持つと不便だから、オレみたいに腰紐に挿すとかして、どっかに付けとくといいよ」

「そうなんですね。本当に今日は教えられる事ばかりで、二人の方が先生ですね」

「たまたまだろ」

「そうそう。俺たち、学校の授業はわかんない事ばっかだよ。

 それにエチルスが使ってた回復魔術はできた事ないし、落ち着いたら教えてよ」

「あ、俺もそれは知りたい」

「やっぱビーも気になってた? オレたち回復系はからっきしだもんなぁ」


 エチルスは鞄に花をつけながら、そこは僕も先生になれそうですね、と誇らしげにほほえんだ。


「さて」


とビーは改めて2人を見据える。


「敵の数は思ったより多かった。

 理由は分かんねぇが、俺たちを狙ってるのは間違いなさそうだ。

 追っ手の大半が川からきたのもあって、時間稼ぎはできてると思う」


「敵の種類は?」

「いわゆる魔獣だな。大小の獣、バカでかい鳥、蛇、魚みたいなのもいた」

「え~、バリエーション豊富だなぁ」

「こ、これからどうしたらいいんでしょう??」


 シャイナの呑気な感想とは対照的に、エチルスは不安げだ。


「俺に考えがある。

 マー、捨ててもいいようなタオルかハンカチあるか? 使ったやつなら尚いい」

「は、はい」


 そういって、エチルスは鞄の中を探し始める。

 その間にビーはシャイナの方を向いて、


「シャイナ、念の為聞くけど、光属性の球持ってないよな」

「うん、火属性しか持ってなーい」

「やっぱりか。お前少しは持ってきとけよ」


 いつもそうじゃん、とシャイナは口を尖らせる。


「道具は持ってきてんだろ」

「うん、それは持ってきてる」


「ビービーこれでいいですか? 今日一日使ってたやつですけど。

 あと、光属性なら僕持ってますよ」


 エチルスは、鞄から取り出したハンカチをビーに渡す。


「これ、失くしても大丈夫か?」

「え、ええ、全然かまわないのですが……、すみません、汚いですよ」


 エチルスはビーの意図がわからず、困惑したまま答えた。


「いや、そのほうがいい。悪いがこれを使わせてもらう。あと光球はいくつある?」

「えっと、三つですね」

「じゃぁ、ひとつ貸してくれ。

 残りは後で使うかもしれねぇから、持っててくれ。予備がないと心許ない」


 ビーはエチルスからハンカチと光球を受け取ると、そのままハンカチで球を包み固く結んだ。

 何度か力を込めて、ほどけないよう念入りに。


「今度は何をするんですか?」

「囮にするんだ」

「おとり?」

「そうだ。ほら、シャイナ、お前も」

「へいへい」


 ビーにいわれて、シャイナはズボンのポケットからスカーフのような薄い布を取り出し、手渡す。

 受け取ったビーは自分の鞄からビー球を取り出した。


「俺が持ってる光球はこれで最後だ」


 先ほどと同じようにビー球をスカーフで包んでしっかりと結ぶ。

 包んだ対象が小さい為、結び目以降のリボン部分が大きい。少し不恰好な包みだ。


「じゃぁ、シャイナ頼むな」

「はいはーい。じゃ、カバン待ってて」

「ん」


 ビーは包みを二つともシャイナに手渡し、シャイナも当然のように受け取る。


 エチルスはまた、二人のやりとりをただ見ていることしかできなかった。


 二人は何かを相談するそぶりもない。


 これまで何度か二人が協力しているところを見てきたエチルスは、これが阿吽の呼吸というものだろうかと思った。親兄弟や親友よりもっと特別な間柄のようだった。

それは幼い頃からともに育ち、長い時間を共有し、背中を預けて何度も危険な状況を乗り越えてきたからこそできるものなのだろう。


「それ、どうするんですか?」


 苦笑いをしながら、シャイナが包みを持ち上げる。


「まぁ、これに引っかかるやつらなら問題ないんだけどなぁ〜」


 意味深な発言に、エチルスはさらに訝しんだ。

 質問には答えず、ビーはエチルスに尋ねる。


「マー、これから先の川の流れの向きはどっちだ? 俺たちが進む方角は?」

「あ、えーと、確か南の方……最終的には南西方向に行くはずですね」


 ビーはその答えに頷くと、シャイナの方に顔を向けた。


「だってよ」

「んーと、たぶん北がこっちだから、こっちらへんがいいかな」


 シャイナは指差し確認をしながら、「こっち」といった方向に少し歩く。


「この木ならいけるかな」


 目の前に立ちはだかる大きな木を見上げると、「よっと」と軽い掛け声とともに跳躍し、その木の一番低い枝に飛び乗った。


「えっ?」


 一番低い枝といっても、シャイナの身長の二倍はあった。


 エチルスが驚いている間にするすると登っていき、すぐに姿が見えなくなる。


 太陽色の髪を見送りながら、ビーは呟いた。


「相変わらず早ぇな」

「はや、すぎ、です」


 エチルスは開いた口がふさがらなかった。






「おっ、出たっ」


木のてっぺん付近まで登ったシャイナの横を、強い風が吹き抜けていく。

選んだ木が良かったようで、周囲の木々よりも少し高い位置にいた。


辺りを見回すと空よりも暗い闇のような森が四方に広がっているのが目に映る。


あまり顔を出すと敵に見つかると思い、枝葉に身を隠しながら方角を探った。

雲間から覗く星と月の方向、ぬるりと光を反射する川、闇の濃淡で森の端を測る。


「この森広いなぁ」


 シャイナの正面は、森が大地を覆い、更に連なる山々へと繋がっている。

 村のすぐそばにも森や山があったが、自分のテリトリーという事もあり、ここまでの広さはなかったように思えた。


 前後左右を見回し、明日着くはずの村を探す。


「えっと南西方向だったよな、で川が流れてく先」


 先程下でビーたちと確認したことを呟きながら、シャイナは目を凝らす。森が終わったその先の草原に、かすかだが確かな明かりを発見した。


「お、あれかな。てことは、こっちの方向に行くから、その反対が良いか」


 目標を定めると、頂上から少し降りる。


 手ごろな枝の上で身体の向きを変え、姿勢を固定するため幹に背を預けた。

 そうしてポケットから愛用のパチンコを取り出す。

 普段は友人たちと遊ぶ(いたずらする)時に使っているのだが、何かと役に立つので持ち歩くクセがついていた。


 こういうフェイクを使うのは久しぶりだ。

 昔みんなで遊んでいて、こんな風に野犬に追われたことがあった。

 その時に、シャイナとビーで野犬の気をそらせないかとひねり出した方法だった。


 その時から設置する役目を任されることが多い。

 木登りが仲間内で一番早いことと、目がいいからだ。

 これはビーにも勝てる。


 預かった包みをセットし、やや斜め上の角度をつけて構える。

 腕を引くと、ゴムが収縮しようとキリキリ音を立てる。


「灯火よ(ライト)!」


 呪文と共に右手を離した。

 ゴムの反動で飛び出した包みは、狙い通り放物線を描いて飛んでいく。

 そして直ぐさま暗い森に吸い込まれて見えなくなった。


 シャイナは確認するように頷くと、もう一つの包みを取り出す。

 先程とは方向を少し変えて構える。


「二個目っと。灯火よ(ライト)!」


 パシュッと、風を切りながらこちらも夜の森へと消えていく。

 シャイナは再び頂上付近へ上ると、ビー球を放った方向に目をこらした。

 暗い暗い森の中、2つの場所でチラチラと発光する灯りが見える。


「おしっ」


 軽くガッツポーズをすると、確認も早々に、シャイナは登ってきた時と同じ身軽さで木を降りる。

 

 早く下に戻ったほうがいい気がしたからだ。

 あの人見知りなビーがエチルスと朗らかに会話している場面が浮かばない。

 

 ビーの様子を見ていると、無理やりにでもついてきてよかったと思う。いろんな意味で。






 地上ではビーとエチルスが、シャイナが戻ってくるのを待っていた。

 よくしゃべるシャイナがいなくなると、二人の間に沈黙が流れた。


 ビーは何もいわず、ただシャイナがいる木を見上げている。

 エチルスは、この空気に落ち着かなくなり、先程の質問をビーの横顔に投げかけた。


「あの、ビービー、おとりっていってましたけど」

「あぁ、説明してなかったな。

 魔獣の中には臭いを辿って追っかけてくるヤツもいるだろ。

 だから、他の場所にも俺たちの臭いが付いたものをばら撒いとくんだ。

 尚且つ光球を使って目立つようにすれば、全部とはいわないが一部の魔獣の注意はそっちに逸れる」


 エチルスは右こぶしを左てのひらの上に軽く落とす。


「なるほど、だから使ったハンカチが必要だったんですね」

「あぁ、匂いが付いてないと意味ないから……」


 ビーが答えている最中に、バサバサッと上から音が降ってくる。

 気がついて見上げたのも束の間、シャイナが二人の間に飛び降りてきた。


「とうちゃーく」

「わっ! シャ、シャイナ君、おかえりなさい」

「たっだいま〜」


 今し方、木の根元から頂上まで往復したというのに、シャイナは息切れのひとつもせず涼しい顔をしていた。


「いけたか?」

「ばっちし!」

「よし。森の広さはわかったか?」

「うん、たぶん歩きで半日かかんないぐらい」

「わかった。あいつらに追いつかれないうちに行くぞ」

「あいあいさー」

「は、はい!」


2018年11月27日 修正しました。

2021年10月9日 修正しました。

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