プロローグ
それは嵐の夜だった。
豪雨と暴風、時折雷が鳴り響く。
ドンドンドンドンッ!
誰かが、店の外からドアを激しく叩いていた。
ドンドンッ!!
「――っ! ――――いっ!!」
暴風雨に混じるその声に、老店主チェロベックは聞き覚えがあった。
長年連れ添った妻カローシェに目配せすると、互いに頷き合う。
二人は急いで鍵を外し、ドアを開けた。
行き先を見つけた激しい風がゴウッと勢いよく、雨を伴って店内に入り込む。
二人が羽織っているガウンがバタバタとなびいた。
そこには一人の青年が立っていた。
外套はぐっしょりと濡れ、絶え間なく雫が滴っている。
その腕には、毛布にくるまれた幼い子どもを一人抱きかかえていた。
「すみません、この子を、ビーをお願いします!」
「な、何があったんじゃ」
「話してる時間はありません、僕はもう行かないと」
青年は早口でそうまくしたてると、自分の胸に抱いていた子どもをカローシェに押し付けた。
取り落とすまいと、老女は慌てて手を伸ばす。
「一体どうしたんじゃ!?」
「二人にしか頼めないんです! すみません、ビーをお願いします」
チェロベックが止めるのも聞かず、青年は再び嵐の中へ飛び出していった。
読んでいただき、ありがとうございます。
週1で更新予定です。
つたない部分も多いと思いますが、これからも読んでいただければ嬉しいです。
よろしくお願いいたします。