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黒龍の詩  作者: ばいくのひと
出逢いと旅立ち
4/4

始まる皇女との旅

 暖かい光が心地よく、どこからか鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 「うーん……」


 隣からは、甘ったるい声と匂い。右腕と足は暖かく、ふにふにとしたものに包まれている。

 重い瞼を開きピントを合わせると、隣には優しい顔ですやすやと眠っている少女がいた。


 「うわっ。近い」


 皇女がこんなにも無防備で良いのだろうか。いろいろと心配になってくる。

というかなんという体勢だ、これ。足が絡み合い、腕を抱き枕のように抱えられている。完全に抱え込まれており、抜け出そうにも抜け出せない。

朝ということ。寝起きだということ。このダブルパンチの上に美少女に纏わりつかれている。男性の諸君

らならわかるであろう。

 

 「やばい。これ以上は勃つ」


 僧侶のように無意識をイメージする。

 そう、ここは真っ白な空間だ。何も見えないし、何も聞こえやない。あるのは、ただの白。空白であり虚無。感じるのは己の心の律動だけ。


 「う、うーん……」


 吐息が顔に当たる。

 あああああああ。駄目だこれ。意識しないしないとか無理にもほどがあるぞ。

 もう限界だと、彼女を突き放そうと考えると同時に、彼女の整った顔が、艶めかしい唇が迫ってくる。

 我慢することはもう出来ず、彼女を受け入れようと目を閉じた瞬間、小さな悲鳴が上がった。


 「ひっ……」


 目をゆっくりと開くと、顔を真っ赤にした彼女が目を開けてこちらを見ていた。


 「な、ななな。なんでこんなことになっているのよ」

 「いったん落ち着け。冷静になろう。何もしてないし、何もされていない。うん、それでいいじゃない

か。万事オーケーだ。何も心配あるまい。はははは」


 言葉をまくしたてる。そして思わず、薄ら笑いがこぼれる。

 斯くいう彼女はふるふると子ヤギのように震え、羞恥で頭が沸騰している。涙目になりながらこちらを見て、大声を出した。


 「ば、ばかああああああああああ」


 危険を察知し、一目散に毛布から飛び出る。


 「す、すみませえええええん」


 どちらも悪くないのだ。夏といえども、夜は気温が下がる。その中で、寄り添って寝ればこんなことにもなる。女性の方が、体温が高いっていうし、寒さを紛らわせるためにくっついてくるのも致し方あるまい。

 そして、朝一番は、男の部分も、おはようすることも仕方がないのだ。

 彼女が大声を上げた理由が、後者であったことをラギアは知る由もなかった。



 青空の下、彼と彼女は歩く。道も開けてきて、町まであと少しといったところだろうか。


 「もうああいうことは一切なしね。いい? 分かった?」

 「いつまで怒ってるんだよ……。次の町で寝具を買おう。それならもう問題ないだろ?」


 なだめるような口調で彼女に言うと、ようやく怒りが収まったようだ。何事も頭を下げれば解決するものだ。たとえそれが納得できないことだとしても、それが器を持つ者だ。そう言い聞かせると、心が軽くならないでもない。


 「そうね、そうすればあんなことにもならないわ。でも、宿に泊まるっていう選択肢はないのね……」

 「毎回、町に着けば宿だが、着かなければ残念だが野宿だな。しかし、野宿だっていいものだろう。これが分からなきゃ旅人としては半人前だ」

 「そういうものなのかしら」

 「そういうもんだ」


 特に何もない道を進む。商業者が使う大通りではないため、人通りは少ない。しかし、国や町の警備隊がしっかりと仕事をしているためか、モンスターとの遭遇は全くなかった。


 「お、見えてきたな。あれがハーメイか」

 「あの町がそうなのね。私、ラグナロクから出たことがなかったから、他国の領土の町って新鮮だわ」


 国境を越えたことを意識したのか、彼女は大きく深呼吸した。


 「言語は変わらないから。そこらへんは安心するといい」

 「それは知っているわよ。言語が違うなんて、辺境の部落ぐらいじゃないの」

 「国から出なくても、それくらいは知っているんだな」

 「当然よ。あなた、私を何だと思っているのよ」

 「え? 箱入り娘」


 咄嗟のことだったため、ついつい正直に答えてしまった。


 「あなたねぇ……」


 どうやらご立腹のようだ。


 「まあいいじゃないか。その方が、旅のし甲斐があるだろう?」

 「それもそうね」


 お、落ち着いたようだ。やっとのこと、彼女の扱い方が分かって来た気がした。


 「今思ったのだけれど。あなたはどこの国の出身なの? その様子だと、旅に慣れているというか、国境を越えることに慣れている気がするのだけど」

 「俺はドラゴニアの人間だ。子供の時に、いろいろと連れまわされてな。こういう、大通り以外の道は使うのが初めてだから、そこらへんはかなり新鮮な気がする」

 「へぇ。どこまで行ったことがあるの?」


 旅のことがかなり好きなのか、かなり突っ込んで聞いてくる。


 「確か工業都市のグランダルまでかな。ミュールはまだ行ったことがない。だから、この旅のメインはミュールかもしれん」

 「ミュールって水の都市よね? 私もあそこ楽しみだわ」

 「スケジュールとしては、古代都市レーニアス。工業都市グランダル。水の都ミュール。そんで、聖都市ラグナロクの順番だな」

 「結局ラグナロクに戻るのね……」

 「帰るつもりがないのか、この皇女様は……。まああれだ。各都市にゆっくりと滞在すればいい。俺もそれを望んでいたしな。」


 はあ、と息をつく彼女にそう投げかけてやる。


 「そうね。ゆっくり滞在しましょう。この際、各都市に1年ずつでもいいわ」


励ました途端にこれである。


 「それは長すぎだ、阿呆が。ドラゴニアには行かなくていいのか?」

 「ええ、あなたに付いていくだけですもの。それに、ドラゴニアには何度も行ったことがあるし。最近、良からぬことをしようとしているという噂も聞いたし」

 「帝国が? 何をするつもりなんだ?」

 「ちょっと! 顔が近いわよ」

 「す、すまん」


 ついつい熱くなってしまった。


 「それ以上のことは何も知らないわ。ただ、黒の災厄以降、幹部が国を支配するようになってから、いい噂は聞かないわ」

 「そうか……。分かった。突っ込んでしまい、すまなかった」

 「いいわよ別に。気にしてないわ」


 彼女はそう言って優しく微笑んでくれた。



町の門が見える。やっとのこと、レーニアス領、ハーメイに到着した。


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