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黒龍の詩  作者: ばいくのひと
出逢いと旅立ち
3/4

Boy meets girl (2)

魔力が枯渇したわけではないが、全力で畳み掛けたので疲労が襲い掛かってきた。抵抗もなくへなへなと地面と平行になる。冷えた地面が、熱くなった体を徐々に冷ましてくれ気持ちがいい。

横になりながら夜空を見上げていると、綺麗な顔が現れた。


「お疲れ様。魔力をあんな感じに使う人を初めて見たわ。魔法を使えなくても立派に戦えるじゃない」

「まあな。何とかなって良かったよ。こんなところで死ぬのはごめんだし、君を死なせるのもごめんだったからね」

「そう言ってかなり余裕そうに見えたけれど?」

「余裕だったらこんな疲れてへばってないっての。まあ、手段は他にもなかったわけではないが」

「なら先にそれをして頂戴よ。無駄に疲れた気がしたわ」

そう言って彼女は俺の横に腰掛ける。

「風が気持ちいわねえ」

「そうだな。ところで君は一体いくつの属性を使えるんだ? その魔力の量、連発した上位魔法を見るとかなりの腕だとお見受けするけれど」

「ヴィーラよ。そう呼んで頂戴。そうね、四元魔法は全部使えるわ」

「なんだそれすごいじゃないか。人種は基本的に一つの属性しか持たないはずだろ?」

「属性自体は風よ。他と違って水属性以外も使えるだけだわ。血筋的に光属性を行使できるようになるはずなんだけど、今のところ難しいわ」

「それでもすごいことだろ。さすがラグナロク皇国の第二王女様だ」

「えっ⁉ 気づいてたの? いつからよ!」


大声を出し、目を見開き、先ほどまでとは違った驚きに満ちた表情となった。って近い近い。


「確信したのは名前を聞いた時だ。その魔力量に、黄昏みたいな綺麗なブロンド色の髪、整った顔。名前まで聞いてわからないはずないだろ」

「気づいてたなら先に言いなさいよ! もう!」


怒っているような、恥ずかしがっているような、どちらにも見える表情で、そう言った。


「ごめんごめん。しかし、四元属性すべてか。もう少しで“術式王”だな。いや“術式王女”ってとこか」

「私なんてまだまだよ。術式王は“龍の国”の王子でしょ……」


元気だった彼女の声が突然と弱弱しくなり。違和感を覚える。不思議になって、彼女の顔を覗き込むと、ふいとずらされた。一瞬見えたその眼にはうっすらと涙が見えたような気がした。


「どうかしたのか? いきなり萎んで」

「彼が亡くなったって聞いてから、私の時間が止まっているのよ。あの人が“黒の災厄”を引き起こしたなんて信じられないし、処刑されたなんて話も信じたくない」

「彼との間になにかあったのか?」

「いいえ。小さいころにお会いしたくらいよ。彼はその時からまっすぐな目をしていた。そして力も持っていたし、憧れの人だったわ。」


遠い過去を見るように、夜空を見上げている彼女に、何を言ったらいいのかとすごく迷った。

答えに迷って答えが出ないというのは凄くもどかしい気分なのだが、如何せんこのような状況を潜り抜ける方法を俺は持ち合わせていない。そして結局導き出された答えは、なにも言わず、彼女の隣にいてあげるということだけだった。


数分が経ち静寂を破ったのは彼女の声だった。


「ごめんなさい。変な空気を作ってしまって」


それは、彼女の声とは思えないほどの、弱弱しい声音だった。こんな状況でも、彼女の求める言葉、掛けてあげるべき言葉が導き出せない。だから、思った言葉をそのまま添えてやった。


「そのな、なんて言えばいいのか分らんのだが。ヴィーラが頑張っていることは、多分彼にとって嬉しいことだと思うよ。そして君が元気でいるということも、ね」


少しの沈黙の後、彼女は再び口を開いた。


「ごめんなさい。そしてありがとう。なんか元気になったわ」


そう言って彼女は世界一美しい笑顔を向けてくれた。

彼女を元気にさせてあげられた幸福感と付きまとう罪悪感。絡み合う複雑なその感情を押し込めて、こちらも笑顔で答えた。


「いいってことよ。さて、皇女様がここにいるということは、かなりヤバいことだと思うんだが。そこらへんはどうなんだろう」

「ええ、多分非常にまずいわ。でも私は旅がしたいの。即位する前に世界を自分の目で見て、そして感じたいの。それって駄目なことなのかしら」


不安と愚痴が混ざり、子供っぽさを感じる目を向けてくる。


「いや、俺もそのうちの一人だし。目標は強くなること、守りたいと思えるものを探すことだけど、そういった考えも持っているよ」


「そう! やっぱりそうよね」


目を輝かす彼女には悪いが言わなければならないことは、いくつもある。


「だが、城を抜け出して一人で彷徨うのは少し、意識が足りないんじゃないのか? ヴィーラみたいな女の子が一人で歩いていたら危険だろう」

「へぇ……。こんなにも強い私に何が足りないのかしら?」


怒っていらっしゃった。


「美少女がほっつき歩いていたら、そりゃ危ないだろう。一対一ならまだしも、力ある者が同時に襲い掛かってきたらどうする。せめて一人歩きは辞めてほしいものだ」

「そう。なら、一人じゃなきゃいいのよね?」

「ん? まあそういうことになるな。良くはないが、一人でほっつき歩いているよりはましだ」


その言葉を待っていたと言わんばかりに、目をギラギラさせ、急接近してきた。だから顔が近いって。息がかかる息が。


「ならば、あなたに護衛してらうことにするわ。よろしくね」

「おいおい、よろしくってなぁ……」

「なによ、ラグナロク皇国第二王女、ヴィーラ・ラグナロクの言うことが聞けないっていうの? それにあなたがさっき言ったんじゃない」

「ここで、その名を出すか……。わかった。わかったよ。無茶しない、一人で行動しない、言うことを聞く、の三つを守ってくれたら、俺の度に同行させる。いいか、旅の同行だからな。行先は俺が決めるし、宿も俺が決める。それでいいな?」


ここらへんは確実に守ってもらわなければならない。ただでさえ皇女を連れまわす形となるのだ、危険にさらすようなことになってはいけない。


「いいわよ、なぜか上から目線なのが気に食わないけど。旅がしたいもの。ここは我慢だわ」


納得してなさそうな声音だが、了解は得たので良しとする。


「それで、まだあなたの名前を伺っていなかったわ。名は何というのかしら」

「ラギアだ。よろしくな、ヴィーラ」

「ら、ラギア? し、下の名前は何なのかしら……」


驚き、不安、そして期待に満ちたその問いにこう答える。


「下の名前なんかねぇよ。ただのラギアだ」

「そ、そう……。そうね。よろしく、ラギア。それと敬語だけれど……」

「そんなものいらない、だろ?」

「よく解っているじゃない」

「こういうことに関しては察しがいいんだ」


そういって彼女に笑顔を向ける。


「ほんと、変な人。それで今晩はどうするの?」


彼女も笑顔で答えてくれる。コミュニケーションはバッチリなのかもしれない。


「そうだな。ここで寝るか」


 そして沈黙が走った。そして数秒後。


「ここで野宿ですって⁉ ありえない! どうしてそんな考えになるのかしら」


コミュニケーションがバッチリ? 前言撤回、相性最悪でした。


「うるせぇな。言うことを聞け。深い夜の中、この先に進むのは危険だ。それにもうほとんど体が動かん。寝ているところを誰かさんに叩き起こされたこともあってな」

「た、叩き起こしてはいないでしょ! 大声を出しただけよ!」

「同じようなものだ、阿呆。いいか寝るぞ。言うこと聞かないとパーティー解散だからな」

「分かったわよ。ここで寝るわ」


ふてくされた声を上げ、彼女は荷物を漁る。が、何も出て来やしない。


「あの、あのね。寝るものがないの。毛布とか余っているものない?」

「残念ながらそんなものはない。俺も一人旅をしていたからな。最小限の物しか持ち歩いていない」


しばし沈黙が流れ、彼女は恥ずかしそうに口を開いた。


「な、なら。その。その毛布に、一緒に入れてくれたりしないかしら」


きっとかなりの勇気を振り絞ったのだろう。暗がりに見える彼女はふるふると震えており、顔を背けてはいるが、真っ赤になっているのが分かる。


「いいよ。おいで」


そう答えると、一瞬パッと明るい表情になり、またすぐにいつもの表情に戻る。


「へ、変なことしないでよね! 添い寝するからって、そこまで許したわけではないから!」


「分かっているよ。そんな心配するな。寒いだろう、早くこっちにこい」


そう言うと、彼女はしぶしぶと毛布の中に入ってくる。


「こっちに顔向けないでよね」

「はいはい」

「バカ……」

「おう」


その会話の後には何も続かず、静寂に支配された。時折吹く風が、遠くにある木々を揺らし、ざわざわと心地よい音を響かせる。大自然の中、澄み切った夜空とその星々の下、毛布の中で男女が体を寄せ合う。

こうしてラギアが眠った後、小さな声がした。


「ありがとう。そしてあなたは“ラギア”?」


そう言い終わる前に、森を通り過ぎる風の音に、小さな声は掻き消されるのだった。


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