妻が不倫、僕は五里霧中、でも、僕の友人が最強だった件。
妻が不倫した。
2年ほどの単身赴任から帰ってきた僕を待っていたのは、そんな事実だった。
ここから飛行機の距離の場所にある都内に2年、3ヶ月に1回は帰って来ていたというのに、気づいたのは帰ってきた当日。
事前に連絡していたはずなのに、間男と致していたところに帰ってきたしまった僕の不運と、これからの真っ暗さは語る事ができない。
とにかく全裸の2人が半狂乱になって僕を追い出し、僕は僕で混乱して玄関に広げていた自分の荷物と‥‥僅かな理性で台所に放り出されていた妻のスマホをひったくって逃げ出した。
それから、妻のスマホから見つかる大量の真っ黒なライン。
裏切られた、騙された、弄ばれた。
結婚する前から続く仲を思わせるそれに、自分が妻からATM扱いされていたことを知る。
‥‥夜の街で僕は思わず泣いた。
純粋に愛を育んで結婚したと思い、幸せな家庭を築いて、遠方への単身赴任を終えてやっと落ち着けると思ったのに。
ところで、僕と妻との間にはもうすぐ4歳になる3歳の息子が家にいる筈だった。
‥‥さっき、僕が帰ってきた時にはいなかった。どうしていなかったのか、まさか‥‥
僕は青ざめて、自分の家に逆戻りした。
すると、家の門の前で泣かずに、心ここに在らずという感じで呆然と立っている息子がいた。
しかも、1月の寒空の下、長袖1枚で。
慌てて僕は息子に駆け寄り、自分の上着を着せて、間男がまだいるだろう家から息子を抱き上げて、近くのファミレスまで逃げた。
息子はまだ呆然としていた。
息子はもっと小さい頃はよく笑い泣く子どもだったが、僕が単身赴任してから寡黙になった。表情も固く、僕はいないし、妻もパートしていたし、寂しい思いをしていたかもしれない。‥‥もしかしたら、間男とばかり妻が構っていて‥‥
そこまで考えて僕は憂鬱になってしまった。怒りだってこみ上げる。しかし、息子が戸惑うのを見て、必死に抑えた。
「‥‥おとうさんのところにいけ、って言われた。」
席に座ってすぐ息子がそう言った。
僕は思わず、ポカンとした。そして、妻が息子に対して思い入れが無いのに気づいた。そして、息子は半ば捨てられたことに。
とても恥ずかしい話だが、息子のことは全部、妻に任せていた。オムツ替えや風呂入れなんて1度だってしたことがない。離乳食がどんなものかも、子ども服が売られているところだって知らない。たまに遊んだり出かけたり‥‥自分にとって楽な事しかしてこなかった。
夕飯はまだだと言う息子にお子様ランチを食べさせながら、僕はほとほと困り果てた。
妻のこと、息子のこと、これからのこと‥‥人って困り果てると頭が真っ白になることを初めて知った。
息子と二人で路頭に迷う事になるなんて思わなかった。
今日泊まるところも無い。ホテルは探せばあるかもしれないが、移動に使う車もその鍵も妻のところだった。
そこで僕は郊外だが近くに住む友人に頼ることに事にした。
自分の家族はもう父しかいない。だが、入院中で頼ることは出来ない。だから、彼を頼ることにした。
とはいえ、高校の頃からの付き合いがある友人だが、連絡したのは本当に数年ぶりだった。でも、唯一地元に残っている僕の友人はそいつだけ。
断られる確率の方が高いと思いつつ、ダメ元で連絡した。
「嫁が浮気で、息子共々追い出された?‥‥ちょっと待ってろ。」
友人は何十分か経ってやって来た。傍らには友人妻もいた。
「息子くんは私が見とくから。」
友人妻のその言葉に甘えて俺は数年ぶりに直接話して、友人に頼み込んだ。
とにかく一晩でいいから、泊めてくれないか?と。
友人は有難いことに最初から俺と息子を泊める気でいたようだ。
「財布とスマホがありゃ、何とかなるって。ひとまず息子の面倒は教えてやるし、みてもやるから‥‥その大変だったな。」
その言葉に僕は耐えていた色んなものが涙として出てきた。音もなく大号泣する俺はさぞかし友人を困らせたと思う。
友人は僕と息子を自宅にすぐさま連れてってくれた。
友人妻は本当に良い人で、息子をお風呂に入れてくれたり、中学生になる友人の息子さんが小さい頃に着ていた服を貸してくれたりしてくれた。
息子は終始、戸惑った様子だった。
「離婚するのか?」
友人にそう聞かれて、友人妻の行為に申し訳無さそうな、人見知りをしているような顔の息子を見ながら僕は迷いなく言った。
「‥‥僕と結婚する前から不倫して、息子を長袖1枚で放り出した人だ。離婚する。」
友人はまあ、そうだよなと言いつつ、酒を出してきて。
「幾らでも愚痴を聞いてやるから、まあ呑めよ。」
それから友人に今までの全てを話した気がするくらい話した。今までのことやこれからのこと‥‥情けないことに今まで息子の世話をやったことが無く、妻はおそらく息子を捨てたこと (息子の下りは友人妻が息子を寝かせに行った後に話した。)‥‥こんな話を長々と話した。
「妻から連絡は?」
「妻のスマホを持って来てしまったから、無い。」
「じゃあしばらくは静かだな。因みに妻の職業は?」
「パート。」
「義実家に泣きつくだろうか?」
「‥‥さあ、お互い無関心だからな。俺の方が仲が良いくらい。」
「ほう。」
友人はそうヤケに冷静に話を聞いて、僕に質問していった。友人は妻を結婚式の時に見たぐらいで、知らないからそんなことをしているんだろうと思って全部答えていた。
義実家と妻の仲は妙に不仲だ。義実家には義父母と義姉が3人で暮らしているが、何だか3人とも妻には無関心で、お盆と正月しか妻は帰りたがらない。僕は彼氏だった頃から父が入院しているのもあってお世話になっていて、義父と趣味も合うのもあるけど義実家とは積極的に仲良くしてもらっている。
ただ県外住まいであることと、無関心とはいえ妻の実家でもある為、すぐすぐ頼ることはできなかった。
そうして、大方話し終えた僕に友人は頼りになる事に色々やるべき事を教えてくれた。
明日は会社を休むこと。
持って来てしまった妻の携帯から真っ暗なメールを浮気の証拠として確保すること。
離婚届を役所から貰うこと。
離婚を言い渡す為と、自分の通帳 (これは流石に持って来てなかった)を確保する為に自宅に帰ること。
自分と息子の荷物をまとめること。
まとめる中で証拠になりそうなものは全て写真に収めること。
妻と話す時は録音すること。
父と義実家には連絡を入れること。
やることはいっぱいあった。
とにかく友人に謝って感謝した。
高校の頃から生徒会とかやってただけあって、友人は本当にしっかりしていた。ただ離婚したことないだろうにどうしてこんなに詳しいんだろうと思った。 気にする余裕はなかった。
その日は息子と2人、客間を貸してもらって寝た。
幾らか喋ったら楽になった。
幸い単身赴任中に使っていた家具や荷物はまだ向こうにある。引越し業者の予約が取れなくて止む無く、2週間程後に運び出す予定だった。
家から出よう。
暮らしに必要なものはだいたいある。通帳もカードもこちら。夫婦共通の預金もあるが、自分は自分で貯めた金もある。 (妻は浪費家まで行かないが食費に10万とかかけるため、自分の金を守っていた。)
‥‥問題は息子だ。
どう接すればいいのだろう。世話しなかったせいで、特別懐いてもいない。聞き分けは良いが、まだ小さくてやらないといけないことはいっぱいあるだろうし、働きながら育てられるだろうか?
僕は既に息子を引き取るつもりだった。寒空の下に小さい子を1人で放り出すような妻に預けられない。
‥‥そう言えば、息子は幼稚園とか保育園とか入っていただろうか?
仕事一辺倒だった自分のことが恥ずかしい。待機児童がどうたらで妻が苦戦していたのは知っていたが、入ったかどうかさえも知らないなんて。
翌日。
息子を友人妻がみてくれるというので、僕は会社を休み、市役所が開くと同時に離婚届を確保し、引越し業者に、父がいなくなってからずっと無人が数年経つ実家に家具と荷物を送るよう手配した。実家は職場からかなり遠いところにあるから通勤が不便になるが背に腹は変えられない。
そして、家に帰った。
‥‥家に妻はいなかった。
その間に息子の荷物や妻の不倫の証拠を探した。
息子の荷物は少なかった。子ども用の皿はあったけど、僕がクリスマスに買ってあげた玩具は何故か壊れていて、ゴミになっていたし、服は数える程しかなかった。同じものを何日も着るしかないぐらいの量、冬物は長袖しかなかった。子ども服代として先月渡したお金は若しかしたらデート代になったのかもしれない。そう考えると腸が煮えくり返った。
その代わり不倫の証拠は大量に見つかった。パソコン、アルバム、溜まった領収書、ホテルのサービス券‥‥間男の物らしきパンツや服、コン〇ームまであった。日常的に男を連れ込んでいたらしい。吐き気がした。
僕は全て確保すると、自分所有の車も奪還して一旦、友人宅に帰った。
息子は友人妻作のクッキーが余程気に入ったのか、独り占めして食べていた。でもなんだかんだ言って、僕に一枚くれた。美味しかった。
「僕さんも大変ね。」
見つかった証拠を友人妻は見て、労わってくれた。僕は離婚届に判を押しつつ、友人妻と話した。
「弁護士を雇うことをお勧めするわ。慰謝料と養育費を貰わなきゃ。」
「え?弁護士?」
僕は間抜けにも弁護士を雇う=大事だと思って、萎縮した。第三者を入れてまで事を荒立てたくなかったのだ。
「弁護士なんてそんな‥‥。自分たちでどうにかしますよ。」
「どうにかできないこともあるのよ。頭の片隅にでも選択肢として入れていてね。」
友人妻は穏やかな笑顔でそう言ったが、友人といいその奥さんといいどうしてこんなに離婚に妙に詳しく的確な対処を知っているのか‥‥疑問に思ったが、それでも頼りになる人達だ。頼らせて貰う事にした。
その夜、夕飯の作り方、主に子どもの健康重視の料理の作り方を友人妻に教えて貰った。
妻との話し合いは義実家を交えてする事になった。
昼間、専業主婦の義母に連絡し事情を話した結果だ。自営業の店をわざわざ休んで電話に出てくれた義父からはひたすら謝られた。うちのバカ娘がすまない、君の味方をする、娘は〆ると言いながら泣いていて、申し訳無かった。
そして、(既に証拠となるデータコピー済みの)妻のスマホを家に返していたから、妻から連絡が鬼のように来た。
「別れないで。愛してる。」
「昨日は間男がいたから、ああせざる得なかった。」
「息子と一緒に帰ってきて。」
‥‥君のスマホには僕のことはATM、手のひらの上で転がっている男、私には間男が一番、遊ぶ金欲しい時に騙されてくれる都合の良い男‥‥としか書いてなかったのに、どの口が言うんだか。
だから、僕はきっぱり。
「明日、義父達を交えて話す。夜7時から家で。離婚するつもりだからよろしく。」
と言ってガチャ切りした。妻の発言は全部録音した。友人から不倫の証拠は本人と義両親の前で初めて見せろ、それから彼女を追い詰めろと言われたから妻に不倫を問い詰めるのを我慢した。
翌日。
僕は出社して上司に理由を話すだけ話した。上司は妻有責の離婚歴があったから、とても理解してくれた。そして、もし妻が会社に突撃しても取り合わないように手配してくれた。
離婚は揉めるから、だそうだ。
「別れたくないと相手がぶっ飛んだ行動を取る事があるんだよ。」
と言われた。
その夜、義父義母と落ち合ってから、妻との話し合いをした。
妻は義父母から「なんてことをしたのか」と責められたが、妻は誤解だ!何だの言い訳して離婚に反対した。
「私は貴方だけよ。向こうから言い寄ってきたのよ!」
「お父さん、お母さんも貴方も誤解してるだけ!」
「息子は間男が勝手にやったこと!」
「私を信じて!」
何だか話が終わりそうに無かった為、僕はそこで不倫の証拠となるラインの内容を印刷したものと、昨日見つけた領収書、ポイントカードを見せた。
ラインの中での妻に義父母は顔面蒼白になり、妻は先程までの悲劇のお姫様みたいな気色悪い演技から、本性を現したように怒り狂った。
「何よコレ!プライベート侵害だ!」
それを言うなら、プライバシーな。
「じゃあどう言い逃れする気だ?」
半狂乱になる妻に僕は務めて冷静に出来るだけ、彼女に問い詰める。
「君は僕からの仕送りを全部デート代にして、間男をこの家に頻繁に呼んでいたんだろう。証拠は腐るほどあるよ。」
「息子は僕が引き取る。君は本命の間男と一緒になれば?」
僕は知っていた。いや、彼女と間男のラインを見ればわかるけど、間男はフリーターでヒモ。それでも妻に惚れられているのは元ホストだったから。妻は間男がホストだった頃から熱を上げていたようだ。
後に分かった事だが、間男がホストを辞めた理由は、客から金を騙し取るようなことをして店から解雇されたから。真正のクズだった。
それに妻は渋る渋る。
間男が金のかかるクズなのをよく分かっているようだ。何で好きなんだか分からないが、今まで夫婦の貯金がなかなかたまらなかったのは、妻が間男に横流ししていたから、というのは事実だ。
「慰謝料も養育費も君から取る。もちろん間男からも。」
「(絶叫、何を言ってるか分からないぐらい発狂した。)」
結局、妻があまりにも渋って抵抗し、慰謝料やら養育費やら取るんじゃねえ!私達は夫婦()だー!と暴れ出した為、義実家に引き取って貰う形で一旦、お開きにした。
結局、義実家が間男実家に (間男を既に勘当していたが)突撃して、間男と妻を両実家で〆て、やっと離婚届に名前を書いてくれた。慰謝料を数百万円(慰謝料相場?と同じだけ)ふたりは払う事になった。
間男の分は間男実家から一括で受け取り、その数百万円分、間男は県外の知り合いの工場でただ働き同然に仕事することになった。
妻は養育費を含め、分割で働きながら払うことになったが、離婚届を書いてもずっと「離婚したくない!」と喚き続け、最後には逆切れして「お前なんか金しか取り柄がない!」、「仕事ばっか面白くないバカ!」、「アンタなんか女に嫌われる!」「ブサイク!非モテ男!」とか言った。全部録音した。立派な誹謗中傷だった。とりあえず一言。
「ああ、だから、離婚出来て嬉しいだろう?」
と言ったら、泣き出した。
結婚した頃はあんなに好きだった彼女のそんな姿を見て、何も思わない自分がいた。これが冷めたってやつなんだな‥‥。さらに幻滅することに‥‥最後まで妻は息子を案じたり、面会を希望しなかった。間男に言われて追い出したとか言っていたのに、息子じゃなくて金ばかり気にしていた。離婚しても生活費は送るんでしょうね!?と言われた時の僕の顔は酷かった筈だ。
そして、容赦なく家が借家だったから解約して、妻を強制的に実家に返した。妻にはそれが最大の罰だろう。実家両親と妻は仲が悪い。特に今回で決定的になった。妻は義姉にも説教され、死ね!と家族全員に叫んだそうだ。
妻は最後まで家に文字通りしがみついていたが、大家さんと義父に引き剥がされ連れてかれた。
これで全て終わるかと思った。
だが、これからだった。
離婚が成立して数カ月後だった。
僕は長年放置されていた実家に息子2人で住んでいた。通勤がとにかく大変だが、何とかやっていた。
一体どうやって妻が息子を育てていたか離婚した今は分からないが、息子は保育園に入れられてなかった為、友人妻にも手伝って貰って、近所の保育園にいれた。
そして、友人と友人妻は本当に神だった。本当に頭が上がらない。息子の子育ての悩みを聞いてくれたり、休日出勤の時に息子をみてくれたり‥‥協力してくれて、夕飯をご馳走してくれる時もあった。
おかげでか、細身だった息子が最近、ふっくらして外で遊ぶぐらい明るくなった。風呂入れも分からなった僕はやっと風呂入れも食事も作れるようになった。それもこれも二人のおかげだ。
そんなある日。
仕事中に保育園から電話がきた。
「息子くんのお母さんとおばあちゃんを名乗る人が、息子くんを迎えに来ました。あまりに怪しいのでお引き取り願いましたが、息子くんがとても怯えていて‥‥。」
定時で仕事を切り上げてすぐ保育園に行った。息子が涙も流さずに震えていた。僕を見たら初めてぴったりくっついて離れなくなった。息子は泣かずにずっとしがみついて怯えていて見ていられないくらいだった。
何が起こったのか詳しく聞くと。
息子くんのクラスが帰りの会している時に妻と義母じゃないBBAがやって来て、迎えに来たと言っていたらしい。保育園には僕の事情を少し話していて、息子に母はいないことになっていたのでお引き取り願ったとのことだった。しかし、帰りの会が終わったばかりの息子のクラスに息子がいるのに妻が気づいて、教室に無理やり入った。息子が顔面蒼白で怯えてるのに無理やり連れ出そうする妻を先生二人がかりで抑え、園長先生が「警察呼ぶ!」と叫んでやっと逃げるように息子を置いて保育園から出ていったらしい。
妻はずっと「あいつの子じゃない。」とか、「私の子だ」とか、「あいつが奪ったんだ!」とか叫んでいたらしい。
その話を聞きながら、僕は妻が僕の子どもじゃないと叫んでいたことがずっと頭の中をぐるぐるしていた。
後に友人のところに駆け込んだ。
わけを話して、どうすればいいか相談した。友人は一緒に親身になって考えてくれた。
「とりあえず妻側の実家とは連絡を取りな。この数カ月で何が起こったか把握しろ。」
「‥‥そ、そうだな。」
「保育園には妻が来たら容赦なく警察を呼んでほしいことを頼む。」
「ああ。」
「あとしばらくうちに泊まり込んだ方が良いかもしれない。」
「え?何で。」
「息子くんが〇〇保育園に通っていることを知っているのは、お前と俺達だけの筈だろう?何故、向こうが知っているんだ。」
離婚した時点で義実家とは縁を切っている。だから、妻が息子が通う保育園を知るはずが無かったのだ。
「若しかしたら、興信所でも使ったのかもしれない。」
「こーしんじょ?」
初めて聞いたが探偵事務所みたいなものらしい。初めて知った。友人は何故知っているんだろうか?とにかく妻は興信所か何かを使って息子の居場所を突き止めて、息子を連れて行こうとしたらしい。妻は僕の実家は知らないから突撃されることは無いだろうと愚かにも僕は思っていたが、保育園が何故かバレてしまった以上、実家にも来るかもしれないのは目に見えていた。
それからすぐに僕は軽く荷物をまとめて、息子と一緒に友人宅に避難した。
そして、翌日から大変なことになった。
妻と正体不明のBBA、そして、BBAの息子らしき若い男が毎日のように保育園に来て、息子を連れて行こうとした。2日目くらいから息子は友人妻に預かってもらい、保育園には息子はいなかったのだが、それでも来て騒いでは警察を呼ばれた。(保育園に僕は平謝りしたが、負けたらダメ、これからも息子くんは見るからと言われて泣けた。)
警察沙汰になってからBBAの目撃情報はなくなったが、2人で今度は俺の職場に来るようになった。僕の上司が事前に妻とは取り合わないように手配してくれていたのもあって大事件にならなかったが、僕は今度は会社に謝罪した。(上司からは「ほらぁ~言っただろ?」と妙に得意げに言われた。)
僕の実家にも案の定来て、セコムが発動。父が入院前に、いなくなってから泥棒に入られても困るからと付けていたから良かった。
周りの人達のおかげで、息子も僕も助かった。
そして、義実家とやっと連絡が取れて、事情が聞けた。
曰く、しばらく前に元彼を頼って義実家を逃げ出したらしい。まさかのここに来て第3の男が登場した。元彼の母がとんでもない人で物を盗んだり、言われない誹謗中傷をしたりして近所でも鼻つまみ者だったそうで、何故か妻だけはそんな人に好かれ、義実家が嫌だと妻がいえば、飛んできて口論になったらしい。それで妻と義実家が不仲だったというわけだ。また、妻は元彼と付き合っていた頃、この人の名前を盾にして地元を牛耳ったりしていたようだ。
また迷惑かけてゴメンなと義父に謝られた。結婚した身だが、こんな人間だとは思わなかった。どうして自分はこんな妻を好きになったんだろう。‥‥見る目がなさすぎる。
それよりも何故あんなに無関心だったのに、今になって息子を‥‥?
気になって俺と息子はDNA鑑定した。友人から勧められたのもある。
すると血縁関係が無かった。
妻似だったから気づかなかっただけで、息子は俺の子じゃなかった。でも。
「血縁が親子にするわけじゃねえよ。」
友人がそう言ってくれた。
そこで初めて知ったのだが、友人と友人妻の間にいる中学生の息子は養子だった。のっぴきならない理由で親戚から引き取った子どもで、血の繋がりは薄いし、最初は友人妻に懐かなくて大変だったらしい。
最初は信じられな無かった。中学生の養子は友人妻と一緒に家事したり、友人も含め3人でテレビを見ていたりしていたから、家族全員仲良しの普通の親子だとしか思えなかった。
「僕も君らみたいな家族になれると思うかい?」
「なれるさ。というより‥‥もうなってんじゃねえの?」
そうして僕はまたもや友人に励まされて、息子を守る決意を更に固めた。
そんな日々が慌ただしく過ぎる中、とうとうその日が来た。
朝のことだった。職場の駐車場から会社に入ろうとした時に妻と見知らぬ男に突撃された。
「息子を返せ!」
「お前が奪ったんだろう!」
男が胸ぐらを掴んで殴って、妻が僕の鞄を奪おうとして、そりゃもう大変な事態になった。幸い、近くにいた警備員が駆けつけて、同僚が警察を呼んで逮捕されたから良かったものの、僕は当たりどころが悪くて病院行きになった。顔は腫れた。
とんでもない人間に会ったものだ。
そして、妻と久方ぶりに話すことになったのだ。
曰く、元彼と復縁した。
息子は元彼の実子。
元彼の実家の跡取りになる。
元彼実家が息子を待っている。
奪ったんだから、返せ!
頭沸いてるとしか思えないそれに僕は、お前が捨てたんだろう?と言ったら元彼に殴られた。嘘つくな!と。
どうやらあの間男とは違って元彼が妻に執着しているようだった。
息子は無事だったから良かったものの、困った。エスカレートする予感しかしない。警察は傷害罪で一時男を拘留してくれているが、しばらく経てば男は解放される。今まで保育園から警察呼ばれて何度も捕まっているのに、へこたれない彼らだ。すぐに次の行動を起こすだろう。むしろ、逆恨みしてくるかもしれない。
と、悩む俺に病院に見舞いに来た友人が「息の根を止めよう。」と言ってきた。
「俺とお前と二人であの犯罪者スレスレカップルと会おう。」
「え?」
「任せろ、勝算しかねえから。」
妙に自信満々な彼に僕は戸惑い、最初こそ巻き込みたくない一心で止めたが、友人に結局、「早期解決しないと息子が危ねぇぞ。」と押し切られてしまった。
「警察が出てもくたばらない奴はくたばらないんだよ。だが、警察以外にも抑止力はある。それで徹底的に〆よう。」
「‥‥お前、本当に頼りになるけど何なの?」
「あれ?言って無かったか?なら、当日までのお楽しみってことで。」
友人は悪戯する子どもみたいに俺に秘密だ、秘密と隠した。
後日。
話し合いをする為、ホテルに場所(友人が手配した)を用意して、妻と元彼を呼んだ。そして、何故か、BBA (本当に呼んでいない)まで来た。
BBAは本当に骨と皮しかなくて老い先短そうなのに、目だけが釣り上がって妖怪みたいだった。
そんな妖怪BBAが俺達を視認した途端、喚き出した。
「可愛い元彼タンの孫を手元に (聞き取れないため省略)元彼タン長男なのにどうしてお前が奪ったのか (超誤解)お前が元彼タンとの仲に嫉妬して元彼タンの未来を潰す為に奪ったんだろろううう!!! (あとは聞き取れない。)」
妖怪BBAはあの義実家と揉めた元彼の母だった。あまりの迫力に僕が目が点になってるが、友人は冷静で淡々としたもので。
「要求は後にして下さい。先に経緯の詳しい内容をお話ください。」
そう言った。その言葉に今度は元彼が得意げにこちらを見て笑いながら言った。
まとめると。
妻とはお前が結婚する前から付き合っていた。
元彼と思っているのは妻の実家だけ。
BBAが義実家と仲が悪くて、僕と結婚する前、絶縁騒ぎになって今でも揉めている。
元ホスト間男はヒモクズで嫁を脅していて今まで別れられなかった。(全然そんな感じしなかったけど。)
正社員に元彼がなれなくて結婚できなかった。子どもは出来たが、養育費を稼げない→僕と結婚。
それが今、僕とも離婚し、間男からも妻が解放され、元彼はいいとこの会社に正社員になったので寄りを正式に戻すことにした。
しかし、息子を僕が連れていってしまった→妻曰く、奪われた。
で、息子を取り戻すため、興信所を使い、息子と僕の居場所を突き止めた。
「しかも、イシャリョウなんて妻から金を巻き上げるようなことをして、ケイザイDVだ!」
言ってやったぜ、みたいな顔して元彼は話し終えた。その頃には妻の顔も見たくなかった。言ってる事がおかしい。いや、どこから突っ込めばいいんだろうか。とにかく、こんな奴らのせいで友人に迷惑かけ、何より息子の生活が脅かされているのが許せなかった。
怒りに任せて口を開きかけたが、それは友人に制されてしまった。
だが。
「〇〇(僕の名字)さん、落ち着いて下さい。」
いつもは下の名前呼び捨て、敬語だって使われたことがないのに、そう言われて思わず目を見張ってしまう。
そんな僕に構わず、実に淡々と友人は話し出した。
「では、息子くんは貴方と妻の子どもであると断言するのですね?」
「ああ、だから、さっきから言っているだろ!!」
「‥‥本当にそうですかね?」
「はあ?」
元彼とBBAが目を点ににした。何を言ってるんだ!と元彼とBBAが騒ぎ出そうとした瞬間、友人は立ち上がって部屋の扉を開いた。すると、若いリーマンが1人そこにいた。
元彼とBBAポカン。妻の顔が引き攣った
リーマンは居心地悪そうに入ると友人の隣に座り、小さく礼をして。
「はじめまして、✕✕です。‥‥妻さんとは結婚前提で付き合ってました。」
ここに来てまさかの第4の男が登場した。僕はくらっとした。
元彼が「どういうことだ。」とか、「もう他に男は作ってないって。」とか叫んで、BBAが「話が違う!!」と金切り声を出した。
それを友人は制すことなく、ある書類‥‥1度見たことがある、そうDNA鑑定の書類を出して、部屋に響くほどの声で言った。
「こちらの方が息子くんの実の父です。鑑定して明確な親子関係が実証され、この書類はそれを示すものです。」
元彼とBBAは友人からDNA鑑定の書類を受け取って確認し、真っ青になっている妻を激しく責め立てた。
「嘘つき!」
「息子タンとの子どもだから今まで警察に追われても諦めなかったのに!」
ぎゃあぎゃあ凄い騒ぎになる中、妻、子どもみたいに大号泣。
「私は元彼の子だと思って!!」
とそこへリーマンが参戦。
「そういう妻さんは、俺の子だから養育費払えって言ってましたよね?」
このリーマン気弱そうにしながらも、言うことは言う人間だった。
曰く、このリーマンは妻がパートしている職場の正社員で、新人だった時に、既に結婚していたに関わらず妻が独身と偽って近づき、新人で右も左も分からない時に優しくされてコロッと関係を持ってしまったらしい。妻の事情を知らないまま、妻に言われるまま会社に内緒で婚約をし、付き合っていた。
だが、つい最近、妻を不審に思っていた友達から、旦那がいる近所の人が妻に似ていて調べたらどうか?と言われて、興信所を使ったら妻が既婚者で不倫で離婚したビッ○であることが分かり、目が覚めたそうだ。
「最低です。」
リーマンはきっぱりと言った。
「俺は貴方と結婚の為、両親を説得し、出来婚を受け入れ、戸建てを買う為に仕事を頑張ってきました。やたら、生まれたという子どもを見せてくれないな、と思っていたら、捨てていたなんて。この半年以上払い続けた養育費は貴方、どうしていたんですか?」
僕は頭を抱えた。どうしてこんな女と(ryと何度でも思った。
曰く、リーマンは妻と4年以上付き合いがあり、最近になって養育費をせびるようになったらしい。その時点で不審に思っていたが、既に自分の両親と会わせていたから、このぐらいのことで不審に思うのも‥‥と悩んでいたが、おかげで助かったと言っていた。
僕がこのリーマンを知らなかったのは、リーマンが妻にスマホを買い与えていたから。誕生日に欲しいと強請られたそうだ。
元彼とBBAが唖然とする中、妻は自分の嘘がどんどん明るみになるのに、げっそりしながら泣いていた。
同情なんて出来ない。やるせない怒りとどうしようもない呆れしか感じなかった。
そして、友人はまた別の書類を取り出した。
そこからは友人の独壇場だった。
「‥‥妻さん。貴方は浮気に不倫に虚言に‥‥児童虐待の疑いがあります。」
「はあ?」
リーマンと僕と元彼の声が綺麗に重なった。
友人が出したのは医師の診断書。そこには息子に妻がしたことの全てが記されていた。初めて知った。息子が虐待、ネグレクトに遭っていたなんて。
背中や太ももなどの見えないところに複数の虐待痕、極度の栄養失調、それに伴う発達の遅れ、三歳児健診には行かせておらず、3歳迄に受けるはずだった予防接種は全部していなかった。
僕が世話をしていなかったせいだ。
気づきもしなかった。いや、確かに他の子より身体が小さいし、表情だって固いのは知っていた。その上、最近だが一緒に風呂に入ったりしていたから、気づける筈だった。‥‥そう言えば家に息子のものは少なかったのは‥‥そもそも育児放棄されていたから、買われていなかったのだ。僕は本当に自分が如何に能天気だったか気づいて、診断書を見て、自分が情けなくて泣いてしまった。出来れば、今すぐ息子に謝りたかった。
更に友人は元住んでいた近所の人からの証言も読み上げた。
その実、息子は頻繁に家の外に追い出され、近所の人間に押し付けられたり、深夜にフラフラしていたところを警察に保護されたこともあったそうだ。
押し付けられた近所の人達は妻に押しかけられ、子どもを置いてかれた上に物を集られたり、拒否されると暴言を吐いて脅したりされて、息子を煙たがるようになって、僕が単身赴任から帰って来た頃には近所中から妻と息子はシカトされていた。
ただ警察や児相に近所の人の何人かが相談していたのは事実だ、と友人は話した。完全に無視されていたわけではないと。だが、警察は児相に相談しろとの一点張りで、その児相は何故か「証拠不十分。」と取り合わず、息子は長々と放置される事になったということだ。
友人は全員、妻を気持ち悪いものを見ている目で見ている中で、妻に言った。
「‥‥そして、妻さん、あなたは離婚した時、〇〇 (僕の名字)さんが息子は自分が育てると言った時に引きとめませんでした。奪われたと嘘吐きましたね。」
それに妻は泣き叫びながら否定した。
「嘘ついてません!」
「確認の為、当時の録音を聞きますか?」
だが、一瞬で友人に木っ端微塵にされた。泣いてやめてやめてと言う妻に構わず、友人は僕が当時録音したそれを流した。
息子の名前が全く出ず、妻が金しか興味が無いのがよく分かる会話が部屋に流れた。
今まで黙っていたBBAが妻に詰め寄った。
「よくも騙したわね!!!!」
激しい往復ビンタ。止める人間はいなかった。元彼は呆然と「母さんに孝行やっとできるとか‥‥言ってたのに‥‥。まさか育児放棄とか‥‥。」みたいなことを呟いていた。リーマンは既に知らされていたのか、無表情だった。
と、そこで妻はBBAを振り切って、何を思ったか、友人に怒りの表情を見せた。
「全部嘘よ!この男の嘘、でっち上げ!!」
いやいや何を言い出すんだ。診断書もあるし、証拠となるものは腐るほど出ているのに。
妻は喚いた。
「裁判よ、裁判!!貴方をめいよいそんとかで訴える!!」
それを言うなら名誉毀損だ。
と、その妻の言葉に今まで殆ど無表情だった友人がニッコリと笑みを浮かべた。
「‥‥ええ、やってみてはどうです?まず貴方の弁護なんて誰もしたくないでしょうから、弁護士が見つからないでしょうがね。」
「はあ?何様のつもりよ!」
「ああ、申し遅れました。私、こういうものでして。」
そう言って友人が妻に差し出したのは名刺。そして、友人は徐ろに今まで着ていた上着を脱いで、スーツ姿になった。その胸に輝くそれはドラマでしか見たことが無い‥‥弁護士バッチだった。その名刺には弁護士事務所の名前と友人の名前が。
そう、なんと友人は弁護士だった。
そう言えば前にそんなことを言っていた気がする。無知な僕はまたしても自分が嫌いになった。何故忘れてたんだろう。同窓会か何かで試験に受かったって言ってたじゃんか。てか、あんなにお世話になっていたのに、気づいて、自分‥‥。
今まで自分のことしか考えて無かったのが悔しかった。
友人はニコニコとしながら、青ざめる妻を更に追い詰めた。
「さて、ここからは慰謝料の話をしましょう。元彼さんとBBAさんにも慰謝料を請求しますので、覚悟してくださいね。」
そこから元彼とBBAさんが散々騒いだが、そこに友人が呼んだ元彼父と、元彼の会社の上司が召喚され、更に大量にある被害届 (もちろん僕の件も入ってる。)という事実を突きつけられ、逃げることができなくなって、最後は請求に応じることを了承し、後に妻を訴えると断言した。
リーマンは最初からそうするつもりだったのだろう慰謝料を請求せずに今まで養育費だなんだと払わせられた金の全返還を妻に求めた。約200万~300万、騙された俺も悪いけど、だからといって容赦はしない、と言った。
僕については友人が全てしてくれたんだが、元彼と妻、BBAに息子と僕への接近禁止命令と、ここ何日かの息子や僕に対する全てに対する慰謝料を請求された。
元々妻はもう僕への慰謝料と養育費だけで手一杯だった筈、今や首が回らなくなったどころか、首がなくなったようなものだろう。
「許して、許して‥‥。」
と泣きついているが、そこに妻の味方は誰一人いない。後に義実家もやってきて、BBAと罵りあいしながらも、妻に慰謝料と養育費、今までリーマンに出してもらったお金を全て支払うという念書を書かせた。
僕はその間終始、妻が息子へ虐待していたことに気づけなかった罪悪感で死んでいた。
おそらく僕が3ヶ月に1回帰って来る時だけ、妻はいい顔して 僕はそれに気づかなかった。騙されたとも言えるけど、やっぱり自分が馬鹿すぎて自己嫌悪ものだった。
一方、友人は混乱する室内でテキパキ要領良く問題を片付け、これから僕達が何をすべきかまとめ、最後にダメ押しとばかりに。
「支払いが滞った場合は如何なる処置も辞さない。」
と言って、全員黙らせた。
後日、正式に妻、元彼、BBAはそれぞれ慰謝料を請求され、リーマンは婚約解消して、妻に僕と息子と同じく接近禁止命令を出した。
そして、意外にもあんなに非常識な行動をしていた元彼とBBAだったが、妻が虐待及びネグレクトしていたことに関しては実に良識的で。「自分達はもう息子くんを引き取る気は無いが、あんなに小さいのに虐待は可哀想だ。本当は慰謝料なんて払いたくはないが、払った金が息子くんの未来の良いものになるなら、払う。」と言って一括で払ってくれた。
虐待は可哀想という良心があるなら保育園に押しかけるような真似するなよ‥‥と言ったら揉めるので言わなかったが、今思えば、言えば良かった。
リーマンに1度自分の息子がみたいと言われて、ファミレスで会わせた。二人並ぶとやはり似ていた。全体的には妻似なので、妻似の中にリーマンに似た部分がある感じだったが、十分親子だった。
そう伝えるとリーマンは。
「でも、もう俺の子ではなく、貴方の子ですよ。ほら、口元の拭い方一緒ですよ。」
と言って、息子の方を見たらその通りだった。
またリーマンは後日言った。
「息子くんを引き取ることはしません。息子くんは今が幸せそうですから。引き裂いたらこれからずっと引き摺るでしょう。それに、また人の間をたらい回しにするようなことをしたら、妻さんと一緒です。でも、もし無いとは思いますが、貴方が育児放棄したら、何が何でも引き取りますから。」
彼は実に真面目でしっかりしていた。そんな彼の言葉を僕は肝に銘じた。
そうして、全てが終わった後、俺は友人に問い質した。
特に息子の児童虐待の案件と‥‥僕が忘れていたとはいえ、弁護士であることを言わなかったことだ。
それを友人は本当にあっさりと打ち明けてくれた。
まず僕が友人は弁護士であることを知っていると勘違いしていたことを前提にしつつ、事の始まりを話してくれた。
僕が息子共々放り出されて放心状態になって友人に泣きついた夜、友人妻さんは息子を初見で児童虐待されていると見抜いたらしい。
友人に僕を揺するよう頼み込み、息子に近づいた。
そして、案の定、息子をお風呂に入れた時に虐待痕を見つけ、更にそれとなく問い詰めると、お父さんには内緒だという約束でお母さんによく殴られたり、家の外に出される話をした。また、お父さんは僕の事要らないんだとお母さんは言っていたとも話した。
僕と息子の就寝後、友人と友人妻は話し合い、息子と僕を調べることにした。この時、僕にもネグレクトの疑いがあったから、友人妻が僕に息子の虐待痕を言うのを躊躇ったらしい。逃げられたら困るから。
そして、僕が妻との離婚で慌ただしくしていた頃、息子を病院に連れていって虐待による栄養失調だとか色々調べて、医師の診断書を貰ったそうだ。
そして、友人妻の実家はなんと興信所。(元彼が頼んだ興信所ではない。) 友人妻は自身の実家に頼んで、息子と僕周辺を洗い出した。
すると、出るわ出るわ妻が行ったぶっ飛んだ行動。近所の人達からの証言だけでも目眩がしたそうだ。
そして、近所の人達には僕は2年前に離婚し、間男が新しい妻の旦那だと認識されていたようだ。間男が度々息子を家の外に出しているのを目撃されており、「あの家の旦那も妻も関わらんがマシ。どっちも息子をお荷物や思っとる。」と言われていた。
僕が息子に必死になっていたのもあって、ここで友人と友人妻の間で僕の言い分が確かで、息子が虐待されていたのを僕が知らないと明らかになった。
そして、いざ打ち明けようとしたのだが、その前に僕が義実家と間男実家の協力もあって離婚し、親権を得たことから言う機会を逃した。
その上タイミングがいい事に僕が離婚したのと前後して、友人妻の実家の興信所にリーマンがやってきて、妻の内情を探るよう依頼があり、息子がリーマンの息子ではないかという疑惑が出たことで尚のこと、話すタイミングが延びてしまった。
特に僕が息子と引っ越したり、息子の保育園の入園で忙しかったりで、友人妻が「今そんな余裕無いし、気が動転してしまいそうだから。」と延ばすことを勧め、友人もそれに同意したから。
一方、妻の調べは進み、あの話し合いの場では伏せられたが、妻はコロコロと相手を変えながら何人もの男と付き合っていたそうだ。リーマンからの金も僕の仕送りも全てデート代や服やアクセサリー代、そして、主にホテル代になっていた。
ただ家に連れ込んでいたのは間男だけ。本当の意味で間男が彼女の本命だったようだ。後はホテルや車の中で逢瀬を重ねていたようで、腐るほどホテルの入口の防犯カメラに映っていた。
魔性の女だったんだな妻は。
興信所はリーマンに、友人を事情もある程度知っていたことから弁護士として紹介し、友人はリーマンと協力して裁判も辞さない覚悟で妻を追い詰めようとした。
だが、妻は離婚後、義実家から失踪。話し合い以前に、リーマンの電話に出ない。ではどうするかと話し合っていたところ、僕の息子の事件が起きたわけだ。
友人はこの際、息子の件共々事実を突きつけて徹底的に妻を追い詰めようと決めたらしい。
証拠をひたすら集め、友人妻実家と協力しながら、算段を立てた。行政や警察とも連携を取り、息子の行っている保育園とも話し合っていたから膨大な時間がかかってしまったが何とか形にし、そして、あの話し合いになったのだ。
僕が殴られるぐらい事件が大きくなる前に止められなくて済まないと謝られた。
また、話し合いで自分が弁護士だと途中まで隠していた理由は、僕が、友人=弁護士だと知らずに関わっていたことに気づき、驚かせてやろうと思ったから、あと、単にそうでもしないとやってられなかったから。妻を追い詰める前に、自分が追い詰められそうだったから。
「友人妻実家から送られる証拠品のえげつなさがやばかった。あの時期にどうやって入手したのか、あからさまに真っ最中の動画も大量にあったし‥‥それで渡されると同時に義父から『友人妻以外で○○したら、どうなるか分かってるな。』と低い声で言われるし、仕事がやりづらいの何の‥‥。」
妻の動画と聞いて目眩がしたが、それよりも興信所と弁護士が結婚すると大変らしいことを察して、友人をいたわりたくなった。
そして、そんな愚痴をこぼす友人に僕は頭を下げた。
今回の件は本当に全て友人のおかげだった。息子の件も妻の件も全て片付けてくれた。お金は手に入ったが失うものが多かった今回の件を乗り切れたのは友人と友人妻がいたからこそだった。無知で鈍感で、妻の不倫も息子の虐待も気づかなかった僕だが、友人という幸運だけはあったようだ。
弁護料というのだろうかそれを押し付けて、ひたすら謝って感謝して頭を下げた。
何が恩返しになるのか分からない。というより、何を返しても足りない。この友人にはそれだけのことをしてくれたのだから。
「いやいや、俺はただやるべき事をやっただけだから。俺達に恩返ししたいなら、息子を幸せにしろよ。俺達はそれだけでいい。」
友人がそう言って、僕の涙腺は崩壊した。
あれから妻と会うことも何かされることも無くなった。妻から毎月養育費が来るから生きてはいるんだろうが、このまま一生会いたくない。
息子は僕が育て始めてから妻に会いたいとも恋しいとも言わなかった。その代わり、よく一緒に出かけようと息子が休みの日に強請るようになった。別に買い物したり外食するわけじゃなくて、河川敷や近くの山をひたすら探検する。そして、大量のどんぐりを集める。最近の息子のブームのようだ。
今の息子はよく笑う。時々昔を思い出すのか夜泣きしたり、夜が苦手だったりするが、保育園が本当に楽しそうだ。背だって伸びてきて、体重も同じ歳の子どもに少しずつ近づいている。
男二人、まだ自信はないが息子と何とかやっている。貰った慰謝料は全て息子の学資保険にあてた。今まで息子の世話をしなかった僕が使うのはおかしいし、もしかしなくても僕の行動はネグレクトにあたるだろう。他人から違うと言われても、そうとしか思えない。だから、息子の将来が絶対に困らないようにする。
実家はまた突撃されると困るので引っ越した。たまたま通勤にも保育園や小学校にも近い物件が空いていたから、これからまた心機一転だ。