人でなしの恋
人でなしの恋と笑いたければ笑えばいい。
心を知らぬまま育ち、人を人とも思わず利用価値、障害となるか否かで見分けては切り捨て、使い捨てしてきた私なのだ。この想いが正しい恋である等と誰が言えようか。
そう、まさしく人でなしの恋である。そうと知って「愛してる」と囁いた声に偽りなど無いのに、君は悲しそうに笑うだけ。
「その嘘を愛しいと想えるほどにお慕い出来ないのです」
告げた声は哀れな程に震えていて悲しい――あぁ、愛しいのだ。嘘と言われて傷つく心はない。私には心が無いのだから。ただ愛しているという感情だけがこの身に宿っているのだと訴えたら――信じてもらえただろうか?
今となってはもう、無意味な問いかけだ。愛した君はあの日の微笑みを浮かべたまま、私の眼の前で消えたのだから。脳裏に刻み込んだ君との想い出だけが、私に与えられた君からの「愛」なのだとするなら、それこそ「愛しい」ものはない。それを君は、知らないのだろうね。
優しく語りかける老人の声を聞く者はおらず、唯一の聴き手は身体無くした頭蓋骨だけ。誰の頭かなど、老人のみが知る答え。あぁ、愛しきかな――呟いた老人はやんわりと、唇に笑みを描いた。