届かない声の逝く先
この喉を掻き毟って 吐き出して 掻き毟って
繰り返し、繰り返し、君の名前だけを叫んだら――
聞いて、くれましたか?
君の名を呼んでも応えてくれない。それがどんなに寂しいことか、僕は気付けなかったんだ。気付く切っ掛けは目の前に転がっていたのに、拾い上げることもせず無惨に踏み潰したのは僕自身で。それでも諦めず差し出してくれていた君をも僕は砕いていた(気付くのが遅かっただけなんだ今度はちゃんと気付くからだから置いていかないで傍にいて)並べた言い訳、一つ一つ口にしたけど君の耳には届かない。もっと早く伝えていたら、なんて、今更すぎる後悔。脳裏を鮮やかに過ぎる君の微笑みが今では凍てついた眠り顔にすり替わる(そこまで苦しめていたなんて思わなかったんだ君なら大丈夫だと信じていたんだ同じくらい君も僕を信じて――)ふと、口を噤む。信じてくれていたから諦めず傍にいてくれたのに、傲慢な僕が彼女を振り返らなかった。信じていなかったのは(――僕の方だ。)
愚かな過ちに気付けど、彼女は帰らない。感情のままに叫んだ名前は喉を嗄らし、潰し、声を無くした。それでも諦めず叫び続ける彼を人は滑稽と笑うか、哀れと嘆くか――解るのは、彼の傍で躯となり果てた彼女の声が、永遠に彼に届くことはないという事実だけである。