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落ち来るは数理を極めし  作者: 竜堂 酔仙
エピローグ
28/28

始末---2

サブタイトルを、エピローグから始末に変更しました。

 一真が目を覚ましたのは、とっぷり日も暮れてからだった。

 身体を起こすと、そこは見覚えのある一室。

 足下で、瑞希と織姫がトランプに興じていた。


「あ、起きたねかずま」

「おはよー、ねぼすけ」


 トランプを置いて、二人は一真へとにじり寄っていく。

 夕日が窓から差し込み、二人を照らし出している。


「まったく手こずらせてくれちゃって!」

「一発殴るまで、あんなにかかるとは思ってなかったわー」

「一発なぐったら終わりにしようと思ってたのにね~」

「ねー」


 言い合いながら、膝の辺りで座り込む。

 ため息をつきながら一真が口を開いた。


「初撃、二人とも明らかに殺す気だったじゃねぇかよ。あれは食らってたら一発で逝っちまうヤツだった」

「当たらないことはわかってたしね~」

「当たったとしてもどーせ、ダメージがないように何か仕込んでたでしょ」

「……まぁ」

「あたしは一真をぶん殴りたかったの! 一年間の鬱憤をぶつけるために!」

「おなじくー!!」

「ゆえに初撃はあれ以外の選択肢はなかった」

「おなじく!」


 もう一度、一真はため息をついた。

 唐突に背筋を伸ばし、二人に目を合わせる。

 そのまま頭を下げた。


「ふたりとも、悪かったよ」


 二人は顔を見合わせ、ぷっと噴き出す。


「似合わない真似すると思ったらー!」

「かずまはかずまで、わたしたちと一緒にいるために、必死だったんでしょ」

「正直戦い方がめっちゃ洗練されてて、あたしたち後手後手でしか動けなかったわ」

「あのネットを避けた後の速度とか、全然捉えられなかったもんね~!」


 だからまぁ。

 そう言って二人は一真を抱きしめる。


「許してあげるよ」

「わたしたち、まだかずまと一緒に旅したいからね」

「なんかあったら言うんだぞ、すれ違うのはもうイヤだ」


 一真は何も言えず、二人の背中をそっと撫でた。

 二人はぎゅうっと力を込めると、一真の身体を解放する。

 

 一真は、トランプの並びを壊さないように丁寧に足を抜き、ベッドから足を降ろした。

 部屋の隅では、道具で張られた結界の中で祈りを捧げていたセレナが、道具を端に寄せて立ち上がっている。

 にっこり笑って、口を開く。


「改めてこんにちは。この度はありがとうございました」

「どうも。オレのせいで一年間も手間をかけた」


 一真が立ち上がろうと腰を上げ、こめかみを押さえてベッドに手をつく。しかし腰をつくことなくそのまま立ち上がり、セレナに手を差し出してみせる。

 セレナはその手を握り、笑ったまま瑞希たちの方に視線を流した。


「あの二人、本当にショックを受けていたので、絶対に埋め合わせをしてあげてくださいね」

「……それについては追々考えさせてくれ。何がいいかも思い付いてねぇし、その他にも挨拶してこなきゃなんねぇところがいくつかあってな。セレナイトさんにもなにがしかやるつもりではあるので、まぁ期待せずに待っててくれや」

「はーい、期待せずに待ってます」


 おっとりとした包容力を見せるセレナ。

 緩く手が発光しており、一真に癒やしの力を流しているのが分かる。

 一真は手を放し、ふっと不器用に笑いかけた。

 振り返って部屋を見渡し、今まで話していた三人、そして窓際で沈黙しているアムに向けて質問を投げかける。


「あれからどれくらい?」

「半日だよ~!」

「オレとアムは即金持ってねぇし、今晩はここには泊まれねぇ」

「ふーん」

「座長の所にご厄介になってくるよ」


 そう言った後、何かに気づいた様子で、ピクリと眉を動かす一真。

 アムがすかさず口を開く。


「……それで。キミはみんなに何が言いたいの」

「詫びに瓶一本ずつ程度なら奢る。座長と飲む約束もしてるし、みんな来ねぇか」


 その場にいる全員が、一斉に破顔した。


「行くに決まってるでしょ、ばーか!」

「ひさしぶりだなぁ! 姐さんたちとご飯食べるの!!」

「……ボクの成長も、なんとか見せられるかな」

「流れの傀儡師とご一緒できるなんて、旅をしていれば珍しい体験ができるものですね」


 それぞれの反応だが、拒否するような様子はない。


「さぁて、行こうか」


 一真は、現在身につけている麻の服の上から、黒いコートを引っ掛けた。

 全員、外套一つのみを持って宿を出る。

 空に浮かぶのは、二つの月。片方はとても綺麗な真円を形作っている。

 目指すは村の中心だ。

 他愛のない言葉を交わしながら、みんな、顔には笑みを浮かべていた。

 遠く広場では、盛大に焚かれたかがり火の下から、陽気な笛の音が大気に溶け出している。

 期待に胸を膨らませつつ、五人は広場へと駆けてゆく。

 普通では知り得ない、楽しい宴が始まる。

 もう一度、全員が笑い合った。




 異界に落ちた三人は、定まった土地に腰を据えない、自由な生き方を選択した。

 その選択ゆえにできなくなったことももちろん多い。しかしその選択ゆえに、前の世界では知り得なかった、素晴らしい景色を知ることができた。

 後悔はない。

 これから先もきっとそれぞれに楽しみを見つけ、したいことをする人生を送ることだろう。

 しかしもう心は離れない。

 彼らの旅は、ここから始まる。

一応これで完結とします。

消化不良も多いとは思いますが、リアルが忙しくなかなか続きが書けません。

これ以上放置したくないための、完結という措置です。

改稿もしますし、未回収のフラグを回収しに行かなければいけません。

そのため書くことはやめません。というかやめられません。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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