始末---2
サブタイトルを、エピローグから始末に変更しました。
一真が目を覚ましたのは、とっぷり日も暮れてからだった。
身体を起こすと、そこは見覚えのある一室。
足下で、瑞希と織姫がトランプに興じていた。
「あ、起きたねかずま」
「おはよー、ねぼすけ」
トランプを置いて、二人は一真へとにじり寄っていく。
夕日が窓から差し込み、二人を照らし出している。
「まったく手こずらせてくれちゃって!」
「一発殴るまで、あんなにかかるとは思ってなかったわー」
「一発なぐったら終わりにしようと思ってたのにね~」
「ねー」
言い合いながら、膝の辺りで座り込む。
ため息をつきながら一真が口を開いた。
「初撃、二人とも明らかに殺す気だったじゃねぇかよ。あれは食らってたら一発で逝っちまうヤツだった」
「当たらないことはわかってたしね~」
「当たったとしてもどーせ、ダメージがないように何か仕込んでたでしょ」
「……まぁ」
「あたしは一真をぶん殴りたかったの! 一年間の鬱憤をぶつけるために!」
「おなじくー!!」
「ゆえに初撃はあれ以外の選択肢はなかった」
「おなじく!」
もう一度、一真はため息をついた。
唐突に背筋を伸ばし、二人に目を合わせる。
そのまま頭を下げた。
「ふたりとも、悪かったよ」
二人は顔を見合わせ、ぷっと噴き出す。
「似合わない真似すると思ったらー!」
「かずまはかずまで、わたしたちと一緒にいるために、必死だったんでしょ」
「正直戦い方がめっちゃ洗練されてて、あたしたち後手後手でしか動けなかったわ」
「あのネットを避けた後の速度とか、全然捉えられなかったもんね~!」
だからまぁ。
そう言って二人は一真を抱きしめる。
「許してあげるよ」
「わたしたち、まだかずまと一緒に旅したいからね」
「なんかあったら言うんだぞ、すれ違うのはもうイヤだ」
一真は何も言えず、二人の背中をそっと撫でた。
二人はぎゅうっと力を込めると、一真の身体を解放する。
一真は、トランプの並びを壊さないように丁寧に足を抜き、ベッドから足を降ろした。
部屋の隅では、道具で張られた結界の中で祈りを捧げていたセレナが、道具を端に寄せて立ち上がっている。
にっこり笑って、口を開く。
「改めてこんにちは。この度はありがとうございました」
「どうも。オレのせいで一年間も手間をかけた」
一真が立ち上がろうと腰を上げ、こめかみを押さえてベッドに手をつく。しかし腰をつくことなくそのまま立ち上がり、セレナに手を差し出してみせる。
セレナはその手を握り、笑ったまま瑞希たちの方に視線を流した。
「あの二人、本当にショックを受けていたので、絶対に埋め合わせをしてあげてくださいね」
「……それについては追々考えさせてくれ。何がいいかも思い付いてねぇし、その他にも挨拶してこなきゃなんねぇところがいくつかあってな。セレナイトさんにもなにがしかやるつもりではあるので、まぁ期待せずに待っててくれや」
「はーい、期待せずに待ってます」
おっとりとした包容力を見せるセレナ。
緩く手が発光しており、一真に癒やしの力を流しているのが分かる。
一真は手を放し、ふっと不器用に笑いかけた。
振り返って部屋を見渡し、今まで話していた三人、そして窓際で沈黙しているアムに向けて質問を投げかける。
「あれからどれくらい?」
「半日だよ~!」
「オレとアムは即金持ってねぇし、今晩はここには泊まれねぇ」
「ふーん」
「座長の所にご厄介になってくるよ」
そう言った後、何かに気づいた様子で、ピクリと眉を動かす一真。
アムがすかさず口を開く。
「……それで。キミはみんなに何が言いたいの」
「詫びに瓶一本ずつ程度なら奢る。座長と飲む約束もしてるし、みんな来ねぇか」
その場にいる全員が、一斉に破顔した。
「行くに決まってるでしょ、ばーか!」
「ひさしぶりだなぁ! 姐さんたちとご飯食べるの!!」
「……ボクの成長も、なんとか見せられるかな」
「流れの傀儡師とご一緒できるなんて、旅をしていれば珍しい体験ができるものですね」
それぞれの反応だが、拒否するような様子はない。
「さぁて、行こうか」
一真は、現在身につけている麻の服の上から、黒いコートを引っ掛けた。
全員、外套一つのみを持って宿を出る。
空に浮かぶのは、二つの月。片方はとても綺麗な真円を形作っている。
目指すは村の中心だ。
他愛のない言葉を交わしながら、みんな、顔には笑みを浮かべていた。
遠く広場では、盛大に焚かれたかがり火の下から、陽気な笛の音が大気に溶け出している。
期待に胸を膨らませつつ、五人は広場へと駆けてゆく。
普通では知り得ない、楽しい宴が始まる。
もう一度、全員が笑い合った。
異界に落ちた三人は、定まった土地に腰を据えない、自由な生き方を選択した。
その選択ゆえにできなくなったことももちろん多い。しかしその選択ゆえに、前の世界では知り得なかった、素晴らしい景色を知ることができた。
後悔はない。
これから先もきっとそれぞれに楽しみを見つけ、したいことをする人生を送ることだろう。
しかしもう心は離れない。
彼らの旅は、ここから始まる。
一応これで完結とします。
消化不良も多いとは思いますが、リアルが忙しくなかなか続きが書けません。
これ以上放置したくないための、完結という措置です。
改稿もしますし、未回収のフラグを回収しに行かなければいけません。
そのため書くことはやめません。というかやめられません。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。




