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落ち来るは数理を極めし  作者: 竜堂 酔仙
エピローグ
27/28

始末---1

字数がかさんでちょっと長めです。

サブタイトルを、エピローグから始末に変更しました。

 翌日、朝日が斜めに差し込んだ森の中で、一真と瑞希たちは向かい合っていた。

 瑞希たちが攫われた場所の近く、開けた木々のない所で、三人が立ち尽くしている。

 広場の片隅で、樹にもたれながらそれを眺めるのは、アムとセレナの二人。

 最初に口を開いたのは、瑞希だった。


「覚悟はできてるよね」


 背中の大剣を引き抜き、地面に突き刺してその柄頭で手を組む。

 それに続いて、織姫がライフルのボルトを引いた。


「死なない程度には威力を抑えるけど、全力でいくからね」


 一真はそれに対し、懐から葉巻を取り出し、ジッポで火を付け始めた。

 片方の眉をつり上げ、それを睨み付ける瑞希。

 その視線に気付き、一真は葉巻から視線を上げた。

 指の間に葉巻を挟み、紫煙を吐きながらその手を振る一真。


「あぁ、これは馬鹿にしてるわけじゃねぇ。二人みたいな特級戦力と凡人のオレが勝負するために必要な仕込みだよ」


 首の骨を鳴らしながら、腰に下げた剣の柄――元素刃ブレードを手に取る。

 瑞希が織姫を確認すると、織姫は目を見開いて呆気にとられている。


「あれは?」

「もーのすごい高濃度の魔力が宿ってる。それに火を付けて煙にすることで、魔力を扱いやすくしてるんだ」

「……あんな葉巻一本にそんなすごい魔力が秘められてるの?」

「どこであんなもの仕入れてきたんだか……」

「そんなにか……」


 そのやり取りを聞いていた一真は、愉快そうに笑った。


「あははは! 国と真正面から戦争しても『割といい勝負』な~んてトコロに持ち込んじまう規格外だからなぁ。このレベルのドーピングをいくつも利用しねぇと、オレじゃ相手になんねーんだよ」


 楽しそうに唇を歪め、葉巻をくわえ直す一真。左手の元素刃を投げて遊びながら、スッと目を細める。

 一気に緊張感が張り詰めた。

 真剣なまなざしで、瑞希は剣を振り上げ、織姫は銃口をスッと下げる。


  パァン!


 織姫の砲号を合図にして、三者三様に動き始めた。

 一番最初に動いたのは瑞希。

 振り上げた剣をそのままに、一気に距離を詰める。

 織姫は後ろに跳び退りながら、懐からリボルバーを抜き出し、その銃口を自分のこめかみに突きつけた。

 ためらいなく引き金を引く。


  パァン!


 姿を溶け込ませる術式が発動し、織姫の身体が虚空と同化していく。

 それを尻目に、瑞希は一真に向けて、大帝の剣を振り下ろした。

 じっと一連の動きを見詰めていた一真は、同時に葉巻の煙を目一杯肺の中に落とし込んでいる。

 圧倒的な葉巻の魔力を体内に取り込み、自身の魔力と馴染ませる。

 調整した魔力ごと、紫煙を瑞希に吹き付けた。

 そして口から出た瞬間に、紫煙の魔力ほとんどを対価として、()()()()()()()()()()()()

 カバラによる価数変換により、多く見積もっても肺に満ちる程度の体積しかなかった煙が、スモークグレネード顔負けの煙幕に化ける。

 体積が増大する副次効果として、途轍もない爆風が真正面から瑞希を捉え、身体を押し戻した。

 同時に一真は、大気に満ちる木の気を元素刃に込め、即席で作った木刀で以て瑞希の振り下ろしをいなす。

 なんとか振り下ろしを敢行した瑞希だが、剣は空を切り、煙に紛れた一真を見失ってしまう。

 次の瞬間、横合いから煙を裂いてナイフが飛んできた。

 咄嗟に手を引き戻し、最小限の動きでナイフを避ける。次の瞬間、瑞希の首に腕が巻き付き、ヘッドロックがかけられた。

 呼吸ができず、さらに血流まで遮られて、剣を取り落としてもがく瑞希。

 後ろに向けて肘を打ち付けるが、コートの素材である革に阻まれて、有効打には至らない。

 流石の瑞希も、剣を介さない近接格闘までは、一年では修得し切れていなかった。

 朦朧とする意識の中、後ろに手を伸ばし、一真の首元を掴む。

 その手にありったけの魔力を込めた。

 即座に腕を放し、瑞希の手を振り払う一真。

 身体を離した瞬間、二人の身体の間を、かなりの密度を誇る気弾が走り抜けた。

 一真は煙幕を追加しながら、煙の中に消えていった。




 姿を消してすぐ、織姫は鞄から、人一人が乗れる程度の絨毯を取り出した。

 魔力を流し込めば直ちに揚力が生じ、宙に浮かび上がった絨毯に寝そべってライフルを構える。

 フィジカルに弱い織姫が、文字通り()()()()()狙撃スタイル。

 しかしそれらの準備を終えた頃には、一真が煙幕で全てを覆い尽くし、織姫には手出しができない状態になっていた。

 通常の煙幕であれば、魔力を視認することができる織姫にとっては問題ではない。しかし一真が自身の魔力を紫煙に乗せ、さらに魔力が消えない程度の絶妙な塩梅で価数変換をかけたため、その煙幕は織姫に対するジャミングとしても正しく機能していた。

 それでも狙撃手として成長してきた織姫は、辛抱強く機会を待つ。

 狙撃のタイミングは、いつでも突然に現れるものなのだ。

 焦って闇雲に銃を撃つと、居場所が捕捉されて狙い撃ちされる。

 同じ所に居続けては、偶然居場所がバレたときに狙い撃ちされる。煙幕を中心に、等速円運動でゆっくりと移動する。

 ……と、一真の魔力がちらつく煙幕の中で、瑞希の青白い魔力がぼうっと燃え上がった。

 急いでポジションを変えると、手と思しき末端部分と身体の間に、ちょうど人一人分ほどの隙間が空いている。


「捉えた」


 即座に、引き金が落ちた。


  ドゴォォォォォォン


 その直前、瑞希の手が振り解かれる。

 手応えはなく、見つけていた特に魔力の濃い部分―おそらく一真の本体も、分散された魔力の中に溶け込んで見えなくなってしまった。

 煙幕はさらに体積を増やしていく。

 近接では勝負にならないことが分かりきっているので、煙の外でひたすら次のタイミングを待つ。

 狙撃手の戦い方は、忍耐力が命だった。




 物理的に煙に巻いたことで、一真の取れる戦術はだいぶ広がった。

 姿を消した織姫対策として煙幕に自身の魔力が散布されるようにしておいたし、体積を増やしても煙の濃度はかなり濃いものにしてある。

 これで織姫は下手に手が出せないし、瑞希も周囲の状況が分からず大きな動きはできない。

 瑞希の剣から逃れた直後後、一真はしゃがみ込んだ姿勢で着地し、その流れで自身の靴にきちんと魔石が据えられているかどうかを確認し直す。

 一真の装備は、戦闘用のパワードスーツそのものだった。

 羽織っているコートは内側に魔法陣が刺繍されており、魔力を流せば身体強化魔術が発動するようになっている。そして数多あるそのポケットには、術の素材や触媒となる品物がごまんと内蔵されていた。

 この靴には、魔石を消費して蹴る力を大幅に増幅させる術式が仕込まれている。

 これを移動に使えば、25メートル程度の崖をひとっ飛びで飛び越えられるし、これを攻撃に使えば、ゴツいアウトドア車に轢かれるのと同じだけのダメージを与えられる。

 いわば、カートリッジ式の空気砲のようなものだった。

 今回はこれを移動に使う。

 狙い澄まして瑞希の手許にナイフを投げ、瑞希の背後、少し距離のある位置に向けて跳ぶ。

 剣を跳ね上げて避けたのを確認し、剣が下がり始めた瞬間に後ろから襲いかかった。

 綺麗にかかったヘッドロックにより、瑞希は呼吸もままならない。

 それでも、締め落とすまでの短い間に、顔面を殴ろうとしたり、肘鉄を食らわせたりして抵抗してきた。しかし頭は瑞希の後頭部に付ける形で守っており、コートは鈍器でパワードスーツとして作られているので衝撃耐性に優れている。

 苦し紛れではビクともしない。

 すると瑞希は、何を思ったのか、一真の後ろ首に手を伸ばし、ぐっと襟を掴んだ。

 背負い投げでも狙っているのかと重心を落とすが、瑞希の魔力が活性化していることに気付き、一瞬で冷や汗が吹き出す。

 すぐさま手を振り払って身体を剥がすと、先程まで頭があった位置をバレーボール大の気弾が走り抜けた。

 狙撃された角度から織姫の位置に当たりを付け、逆側に逃れる。

 織姫に位置を捕捉されないための煙幕だが、その原理は自身の魔力に紛れ込む形で知覚を誤魔化しているのみ。外からでも、瑞希の魔力は比較的簡単に認識できるはずだった。

 ゲホゲホと息を荒げている瑞希だが、手に集めた魔力をそのまま自身の回りに散布し、即席の結界を作り上げている。

 障壁としての機能は皆無だが、一歩でも踏み込めば直ちに捕捉され、神速の剣が肉を引き裂きに来るだろう。

 一真はもう一度、靴を確認した。

 左足に三つ、右足に二つ魔石が填まっている。

 元素刃に空気中を漂う風の魔力を取り込み、内側から一気に煙幕を散らしにかかる。

 濃度が薄くなる代わりに、煙の存在する領域が広くなり、狙い通り、織姫が煙に巻き込まれる。

 その位置を正確におさえた後、一真は靴を使い、瑞希の結界に一瞬で踏み込んだ。

 予想を遙かに上回る速さに、瑞希の振り降ろしがワンテンポ遅れる。

 その胴体にヤクザキックよろしく右足を添え、織姫の方に蹴り出した。

 織姫の狙撃精度を見ていると、味方を受け止めるのに必死な状態でも、ヘッドショットを撃ち込まれかねない。

 もう一度大跳躍で跳び退り、木々の中へと紛れ込んだ。

 織姫は、煙の中から車よりも早い速度で打ち出されてきた瑞希に、慌てて絨毯の向きを変える。

 トランポリンのようにして瑞希を受け止め、ついでとばかりにノールックで瑞希が飛んできた位置に気弾を撃ち込んだ。

 しかし一真は既に移動した後で、気弾は空を裂くのみ。

 周囲を警戒しつつ、瑞希の背中をさする。

 掌から自身の魔力を流し込み、それを操作して体内の魔力の流れを正常化させてやる。しばらくすれば、呼吸と気位きぐらいは回復するはずだった。

 煙幕が晴れた広場には、一真の姿は見当たらない。

 瑞希の様子を窺えば、左手で胸を押さえているものの、顔を上げて織姫に頷きかける。

 織姫は瑞希の背中から手を離し、立ち上がって目を瞑った。

 ライフルのボルトを引き、晶頭弾しょうとうだんという、クリスタルが弾頭に使われている特殊弾を装填する。

 この弾丸は魔術に対する親和性が高く、弾頭部分に術式を込めて、普通では考えられないほど少ない消耗で、遠距離に術を作用させられるという機能を有していた。

 目を瞑った状態で、第六感をフル活用して一真の所在を探る。

 じっと集中していると、唐突に、梢の間を猿のように飛び回っている一真の映像ビジョンが脳裏に浮かんぶ。

 咄嗟に右側に銃口を下げ、右手のみで発砲した。


  ドゴォォォォォォン


 銃口から飛び出していくクリスタルの銃弾は、内側に込められた太陽のような魔力を輝かせながら、一直線に木々の間へ飛んでいく。

 すれすれで木の幹を抜け、梢の中を走る黒い影へと、吸い込まれるように近づいていく。

 一真はそれを、右目の端で捉えていた。

 握っていた紙に向けて、葉巻を吹き出す。

 なにやら書き込まれた紙に、葉巻の火が触れた、次の瞬間。

 葉巻ごと紙が燃え上がり、一真の動きが加速した。

 それと同時に銃弾に込められた魔術が発動し、黄色い光のネットが開く。

 尾を引くような速さで広がりゆくネットを迂回し、そのまま二人へ飛び込んでゆく。

 半分も消費していないくらいの、まだ長い葉巻に含まれる膨大な魔力を全て対価とし、初めて成立する超加速。自身の時間の流れを世界線に対して相対的に加速させる、神速の大魔術だ。

 遅かれ早かれ織姫に気付かれるだろうと、大跳躍で逃れた直後から準備していたからこそできた、さらに言うならこの展開を見越して前日から仕込んでいたからこそできた、一瞬の術式発動だった。

 なりふり構っていられないと、速さについて来られていない織姫に寄っていく一真。

 不確定要素である織姫から落とすつもりだった。

 しかしその間に、身体を引きずるようにして瑞希が割り込む。

 その目は一真を見てはいなかったが、意識は正確に一真を捉えていた。


刹那ゾーン!」


 思わず叫ぶ一真。

 瑞希のスキルであり、一時的に脳のリミッターを外すという、規格外のユニークスキル。

 貴重な葉巻を対価として得た神速も、これで瑞希と同じ土俵でしかなくなった。

 即座に覚悟を決め、腕を自然に垂らした無形の構えで、瑞希との距離を詰めていく一真。元素刃に土の魔力を込め、土の刀身を形成する。

 瑞希の身体から泉のように魔力が湧き出し、ゲルのように粘度を上げ、鎧となった。

 これもまたユニークスキル。

 魔力をまとって衝撃を散らす、防御ガード

 垂らしていた手がブレたかと思うと、両手での鋭い切り降ろしが一真に襲いかかってきていた。

 土の刀身を跳ね上げ、瑞希の剣を刷り上げる一真。

 コートの刺繍に魔力を通し、身体強化魔術を発動させて、瑞希の喉元に突きかかる。

 渾身の一撃だが、防御ガードによって、その威力は抑え込まれる。瑞希は平然と、振り下ろした剣を逆袈裟に切り上げてきた。

 咄嗟に瑞希の頭上を跳び越え、瑞希から目を離さずに、柔道の受け身よろしく身体を横にして着地する。

 地面を蹴って、少し先についた右手を軸として、回転するように瑞希の周りを回る。身体は地面と平行なままだ。

 通常人間は地面と身体が垂直になるように動く。

 一瞬だけ、瑞希は一真を見失う。

 振り向いた瑞希の膝に、一真は思い切り元素刃を叩き込んだ。

 防御ガードのせいで大したダメージはならないが、関節を攻撃されてたまらず膝をつく瑞希。

 沈み込んだ瑞希の頭を、一真は背後から抱え込んだ。

 再度のヘッドロック。

 腕に力を込めた、その瞬間。

 一真を強烈な脱力感が襲った。

 神速の魔術が切れたのだ。

 それでもなんとか首を押さえ込み、瑞希を落とそうとする一真。

 そのこめかみに、織姫のリボルバーが突きつけられる。

 同時に首筋に、瑞希が腰から引き抜いたナイフを突きつけた。

 カチリと撃鉄が上がる。


「みずきちゃんを放して」


 腕の力を抜き、瑞希を解放する。

 膝をついたまま後ろに数歩下がると、織姫が銃把で一真のこめかみをどつく。

 インパクトの瞬間に逆方向へ顔を逃した一真だが、完全には勢いを殺しきれず、半分脳震盪を起こして倒れ込む。

 肘をつき、顔を上げた瞬間。

 視界に飛び込んできたのは、膝をつき、高々と剣を振りかぶっている瑞希だった。

 強烈に視界が揺れてすぐ、一真の意識は闇に落ちた。

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