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事件---2

 職業訓練、最後のミッションは、三人で一緒に大猪ボアを倒してくること。

 アイシスからそのように告げられた三人は、これまで別々に訓練をこなしていたことを踏まえ、連携を調整するために小鬼ゴブリン討伐の依頼を合わせて受注する事にした。

 今さら小鬼に苦戦することもなく、難なくそれを達成。

 まだ太陽が南中しないうちに、本格的に卒業ミッションに取りかかれることになった。


「さて、どうやってボアを探そっかー」


 討伐した小鬼の魔石を拾い集めながら、全身鎧を装備した瑞希が同じく魔石を集めている二人へ問いかける。

 顔を上げずに一真が言った。


「ここから見て村を挟んで反対側に、よく出没するようスよ。ゴブリンやオークのように群を作る習性があるわけでもないので、ボアに連続で襲われるなんてことには、ならないと思います」

「へー、それじゃそっちに向けて移動していくのがいいのかなぁ。……織姫ちゃんはどう思う?」


 手許の魔石は全て拾ったので、身体を起こして織姫の方に向き直る。

 視線に気付いた織姫が、魔石を拾う手を止めて立ち上がる。

 うーん、と難しい顔をして、斜め上を見上げた。


「ボアって魔物をわたしが見たわけでもないし、ちょっと分かんないなぁ。たぶんなにかの兆しがあっても、よっぽどはっきりした物じゃないかぎり、わたしの方がつかめないと思うの」


 ごめんね、と眉尻を下げる織姫に、瑞希は気にしないでと手を振って返す。


「すると一真の言うとおりに移動するのが良さそうだねー」


 三人で集めたつごう十個の魔石を袋に入れ、一真がそれを預かる。

 三人は村の方へ向けて歩き始めた。

 瑞希が一真に問いかける。


「他に、何か知っておいた方がいいことってあるかな。ボアを見つけたときの討伐方法とかも打ち合わせておきたいねー」


 織姫も周囲に視線をやりながら、その話に耳を傾けていた。


「そうスね……。ボアは耐久力が強く、また純粋に力も強いので、生半可なハンターでは傷一つつけられません。セオリーとしては、遠距離から眉間を狙撃、あるいは鈍器等で頭を叩き潰すということになります」


 ただし、と言葉を続ける。


「頭を叩き潰す場合、突進をボアに許してしまうと、その馬力と鋭い牙がかなり危険な武器に化けます。普通は罠で足止めなど掛けてから取る選択肢スね」


 瑞希があごに手を当て、眉間にシワを寄せながらうなる。


「その罠って、一真に用意できるものなの?」

「……罠の種類にもよります。例えば落とし穴は、大規模なものは無理スけど、片足がハマる程度の小さい物なら可能です」


 上の方を見ながら、淡々と可能性を羅列しはじめる。


「トラバサミは道具がないので無理。火薬の持ち合わせがあるので即席の地雷なら準備可能……。即席のマキビシや槍衾やりぶすまは、材料さえあれば作れます。……思い付くのはこんな所スかねぇ」

「お、おう……。もう戦略は一真に任せたわー。どんな風に動けばいいのか、決まったら教えてくれる?」

「……考えときます」


 そのまましばらく、三人は無言で足を運ぶ。

 村を通り抜け、再び森の中に入った頃、一真が二人に話し掛けた。


「単純に行きましょう」


 立ち止まって、地面に絵を描きながら説明を始める。

 一真の発案は次のような物。

 まず大猪ボアを見つけたら風下に回り込み、織姫の射線が通る位置を探す。

 次に気付かれないギリギリまで一真が近寄り、射線上に落とし穴や地雷などを設置していく。それが終われば一真は樹上で待機。

 準備が整ったら織姫が気弾で大猪を狙撃。ここで眉間を撃ち抜けるならそこで作戦終了。

 狙撃が通用しない場合、追加狙撃や地雷、落とし穴等で大猪の勢いを殺しつつ、織姫を退避させ、瑞希がスキルをフルに活用して大猪を迎え撃つ。

 大上段からの最大攻撃力を叩き付け、大猪の脳天を叩き潰す。

 まだ大猪が生き延びた場合には、一真が樹上から飛び降りる勢いを利用して大猪の頭にナイフを叩き込む。


「アタシじゃそんなに考え抜いた作戦は立てらんないわー。織姫ちゃんどう思う?」


 説明を聞いて目を白黒させた瑞希が、隣に居る織姫に問いかける。

 織姫は笑いながらもちょっと考えて、おもむろに口を開いた。


「単純って言うほど単純じゃなくてビックリしたよ~。三段階で攻撃を構成するっていうのは、念を入れるって意味ではすごく良いと思う。ケモノの生への執念ってすごいって聞くし、かずまくんのナイフが決定打にならない場合はわたしがリボルバーで撃ってもいいよね」

「手数は多い方がいい。その手筈でよろしくお願いします。……罠として、瑞希さんの水魔法を利用できますか」

「え? ……ボアが突っ込んでくる間に、目の前の地面をぬかるませるくらいのことならできるよー」

「罠にそれも追加しましょう。……今のところ、我々にできることはこの程度ですかね」


 一真は立ち上がり、眼鏡を押し上げた。

 他の二人は、移動中でここまで作戦を練り上げた一真に感嘆の声を上げている。

 結果、そのような手筈になった。

 あとは大猪ボアを見つけるのみ。

 森の中を、周りの風景を楽しみながらゆっくりと進んでゆく。

 下生えが途切れた所で、一真がしゃがみ込んだ。

 他の二人が一真の手許を覗き込む。


「どうかしたー?」

「何か見つけたの~?」

「……たぶん、ボアの足跡です」


 一真が指差した先には、手のひらほども大きい足跡が。

 縦方向に大きく二本の線が走り、その下に線を囲うようにしてさらに二つ、土がえぐれた跡がある。

 蹄の跡であることは確実であり、その上で体高が人間ほどもある大猪であれば、このくらいは大きな足をしているだろうという推量をかさねている。

 嬉しそうに、瑞希が声を大きくする。


「この足跡を追いかければ、ボアの所に辿り着けるの!?」

「……さほど簡単ではないでしょう」


 あくまで冷静に、一真が返す。


「この場所を大猪が通ったことはこれにより分かりますが、近くに住処があるとは限らない」

「確かに、近くに大きな生き物がいる感じはしないかな~」

「この調子で、ボアに近づけたら織姫ちゃんが気付くでしょう。この足跡を頼りに、ボアが近づきそうな場所を洗い出していくのが現実的かと思います」

「やっぱり卒業ミッションは簡単にはいかないかー」


 さして気落ちした様子もなく、あっけらかんと言い放つ瑞希。


「まぁ、今日中に終わらせないといけないって訳でもないし、気長にやるしかないねー」


 三人は、足跡を辿って森の中へと踏み入っていった。

 一真が足下を調べ、織姫は周囲を見渡す。

 瑞希はいつ想定外が起きても対処できるよう、全方位に気を配って歩いていた。

 しばらく、そのままで進んでいく。

 と……、織姫がピクンと背筋を伸ばした。

 瑞希がそれに合わせて立ち止まり、背後の気配が離れたことで先頭を進んでいた一真が振り返る。


「いた」


 織姫が声を潜めて言った。

 瑞希が頷くと、織姫が先頭に立って木々を分け入っていく。

 一分と経たず、緑の向こうに巨影が見え始める。

 大猪が丸まって横になっていた。

 視線が一真に集まる。

 一真は指を濡らして風向きを調べ、風下の方をさしながら織姫に頷きかける。

 織姫は頷き返し、指し示された方、大猪の尻の方にゆっくりと移動を始めた。

 大猪の巨体からだいたい四十五度になる辺りで、二人に向けて手を挙げる。

 一真が罠の設置を開始した。

 織姫から数歩進んだ位置にしゃがむと、ベルトに引っ掛けていたモノ、この世界で初めて気がついたときに、唯一持たされていた、剣の柄のような物を逆手に掴み、つばの方を地面に向ける。

 目を細め、その鍔をグッと地面に押しつけた。

 突き立ったその柄を中心に、地面が、地に満ちる土の魔力が渦を巻き始める。

 柄を持ち上げると、その先に土を押し固めて作られた刃が形成されていた。

 元の地面には、足がハマる程度の穴が開く。

 柄を振って魔力を解き放つと、刃は崩れ、土塊となって地上に散る。

 また少し進んで同じ事をし、今度はその穴に懐から出した球を落とし、その上に土を被せた。

 同じような作業を何度も繰り返し、最終的に瑞希たちの下へ戻ってくる。

 二人の方をポンポンと叩くと、三角飛びで頭上の枝に吊り下がり、あっという間に木を登っていってしまう。

 残された二人は顔を見合わせて、こぼれた笑みを見せ合いながら各々に武器を構える。

 織姫は、ボルトを引いてライフルを構え、照準を合わせる。

 まずは大猪を叩き起こすため、その大きな尻に気弾をぶち込んだ。


  パァァァァン!


 予想通りに飛び起きる大猪。次弾を装填し、今度はこちらを向かせるためにもう一度尻を撃つ。


  パァァァァン!


 大猪がこちらに向き直った瞬間、全力で魔力を込めた気弾を装填し、突っ込んで来る大猪の眉間に向けて、引き金を引いた。


 ドゴォォォォォォン


 今までにないほど大きな銃声が響き渡り、気弾は見事、大猪の眉間に命中する。

 大猪の巨体が、グラリと揺れた。

 ……しかし。

 大猪の勢いは止まらない。

 額から血を垂らしながら、鬼気迫る形相で駆け寄ってくる。

 刹那、その足下が爆発した。

 一真が地雷を起爆させたのだ。

 ガクンと大きく大猪が傾く。

 まだ駆ける。

 落とし穴にハマる。

 土を蹴り込んで足を抜き、まだまだ駆ける。

 刻々と迫り来る大猪。

 もう一発、織姫は全力の気弾を撃ち込むが、大猪は止まらない。

 織姫の肩に、手が置かれた。

 瑞希が背中の大剣に手を掛け、織姫の前に出ようとしている。

 織姫が素直に下がると、肩に置いていた手を地に向け、そこに水の魔力をほとばしらせる。


  バシャァン!


 バケツをひっくり返したように水が落ち、目の前の地面がドロドロにぬかるむ。

 スラリと剣を抜き放つと、鍔が後ろ首につくほど大きく振りかぶる。

 ボソリと呟く。


「“刹那ゾーン”“防御ガード”」


 瑞希のまとう空気が、目に見えて変わる。

 魔力が炎のように瑞希を覆い、その瞳は全てを見通すかのように透明度が高くなる。

 揺らめく魔力が練り上げられ、さながら一つの刃のように、鋭く尖る。

 大猪が、間合いに入る刹那……。


「“大切断スラッシュ”」


 研ぎ澄まされた魔力が一気に大剣に流れ込み、剣の鋭さに鎚の破壊力が追加される。

 これ以上ないほど良い一撃が、大猪の頭蓋骨に加わっていた。

 強烈に頭を叩き下ろされ、足下のぬかるみで一回転しそうなほど足を滑らせる大猪。

 振り下ろした大剣で大猪を抑え込んだ瑞希は、大猪が光塵に帰してしまった所で、残心を解く。

 薄くなったとはいえ、身体を覆っていた魔力がかき消えた。

 振り返った瑞希は、いつも通りの明るい瞳を喜色に弾ませ、満面の笑みを浮かべてピースした。


「いぇいっ! ボアの討伐、完了!」

「やったぁ~!」


 織姫が瑞希に飛びつき、背中をバンバンと叩いて喜びを表す。

 その横に、一真が降ってきた。

 危うげも音もなく着地した一真は、珍しくその口許に笑みを溜めている。

 織姫がそんな一真を抱き寄せ、瑞希と同じく背中を叩く。

 いつも通りなされるがままかと思いきや、一真は二人をぎゅっと抱きしめた。

 今までにない一真の反応に、瑞希も織姫も目を瞠る。

 硬直した二人の耳に、一真が囁きかけた。


「おめでとうございます、二人とも」


 耳に息がかかるこそばゆさと、それ以外の何かによって、二人の背筋がぞわぞわと震える。顔が若干赤らんでいる。


「怪我がなくて本当によかった」


 抱きしめる力が、よりいっそう強くなる。


「これで、一人前なんスよね……」


 押し黙る一真。

 しめっぽいような、なんとなく不穏な空気を感じ取り、先程とは違う意味で身体を硬くする二人。

 一真は二人を離した。

 その瞳はなんの感情も映しておらず、無機質なカメラレンズのように虚ろに光っている。


「今回の報酬は二人で山分けしてください。私は別に依頼をこなしているので心配は要りません。これから私は一人で旅に出ますので、今後は二人で依頼をこなしていくようお願いします」


 小鬼の魔石と大猪の魔石、さらにドロップ品である大猪の毛皮を二人に持たせ、踵を返す一真。


「あ……」

「ちょ、ちょっと……」


 あまりに突然の出来事に、瑞希と織姫は茫然自失の体で立ち尽くしている。


「……待ってよぉ!」


 絞り出された瑞希の声。


「なんで……?」


 かすれた声に一真は立ち止まり、首だけで振り返る。

 半分しか見えないその顔からは、やはりどのような感情も読み取れない。


「価値がないので」


 淡々とそれだけ言い置いて、一真はスタスタと足を進めてしまう。

 瑞希はその場に崩れ落ちた。

 上空を飛ぶからすの声だけが、異様に響き渡っていた。

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