ギルド---8
昨日は申し訳ありませんでした。
本日は二話投稿。
三人はアイシスに言われたとおり、ギルドの酒場にて昼食を食べることにした。
あまりまともにものを食べる気分でもなかったので、適当に選んだハムチーズサンドというものと、よく分からないお茶を三人前頼む。
頼んだお茶は紅茶のような色をしているが、ほのかに柑橘系の香りもするので、意外と手間がかかっているのかもしれない。
サンドの方は薄く切ったフランスパンに、レタス、生ハム、チーズの三種類がシンプルに挟み込まれているものだった。
生ハムのつやが食欲を誘う。
少し固めのパンを噛み千切ると、その中にはシャキシャキのレタス。チーズによって燻製独特の癖が和らいだ生ハムが強めの味を出しているので、ドレッシングなどはまったく必要ない。
適当に選んだにもかかわらず、とても美味しいサンドイッチだった。
アイシスが現れたのは、三人が昼食を食べ終わり、お茶を飲みながら歓談している頃。
何枚かの羊皮紙を抱えており、三人を見つけるなり、そちらに向かってくる。
空いている椅子のそばに立ち、三人に話し掛けた。
「席、いいですか?」
「もちろん!」
「どうぞどうぞー」
許可を得て、椅子へ腰を下ろす。
長めの髪がさらりと流れた。
書類を卓上へ置き、世間話を挟む。
「お昼は何を?」
「そこでハムチーズサンドってやつをねー」
「あれすっごい美味しいね!!」
「あぁ、あれはこの店で一・二を争う人気メニューですからね。誰かに勧められたのですか?」
「ううんー、たまたま」
「それは運が良かった。昼を過ぎると、だいたい売り切れてしまうんですよ」
カウンターの方へ視線をやると、今まさにハムチーズサンドにかじりついている者がちらほらと見える。
三人は自分たちの幸運に軽く目を瞠った。
三人の視線が戻ってきたところで、アイシスは手を組んで書類の上に置く。
「さて、先程の検査結果を持ってきたので、早速ご説明いたしましょう」
微笑みを崩さずに言うアイシスに、三人の視線が集中した。
「まず検査の内容から察していらっしゃる方もいるかとは思いますが、私たちから提案するのは、戦闘についてのアドバイスです」
討伐の依頼の相場が高いというだけでなく、荒事に巻き込まれる可能性もあるためだと、アイシスは釘を刺した。
「現状、お三方でパーティーを組まれると考えてよろしいですか?」
アイシスの言葉に、三人が同時に頷く。
それを確認して一つ間を置いてから、アイシスは言葉を続ける。
「結論から言うと、かなりバランスの良いパーティーです」
三人が喜色と共に顔を見合わせた。
「まず、ミズキ様から説明させていただきます」
瑞希の正面に、一枚の紙を差し出す。
それを覗き込むまでもなく、瑞希の顔が曇る。
アイシスがそれに気付いた。
「おや、読めませんか?」
「申し訳ないです……。見たこともない文字でしてー……」
「いえいえ、問題ありませんよ。それでは口頭で詳しく説明していきましょう」
紙を一旦取り下げ、形式を確認しながら説明を始める。
「ミズキ様は魔法剣士―騎士型に属しまして、魔法と物理両方の攻撃を駆使するタイプです。騎士型は総じて突破力が強く、重装備を身につけ、最前線で戦場を切り開くことに向いているという特徴があります。こちらのグラフをご覧ください」
紙の中程にあるグラフを示し、戦闘に関する能力をグラフ化したものだと説明する。縦軸上端を指して物理攻撃、下端を魔法攻撃、横軸右端をテクニック、左端をフィーリング、と解説を加えた。
瑞希の印は、グラフの右上側、比較的横軸に近い真ん中辺りについている。
「ミズキ様はこの通り、魔法よりは物理攻撃、フィーリングよりテクニックに長けます。水のエレメントに適性がありますが、魔力量と水属性の特徴を考えますと、火力で押すよりは環境を整えて型にハメる方が、勝率は上がるかと思われます」
「ふーん……」
いまいち実感がわかないのか、リアクションもかなり薄い。
瑞希に紙を差し出し、次に織姫の方へ顔を向けるアイシス。
「次は織姫様です」
織姫の紙にもグラフは載っていた。
その印は一番左下の所に付いており、織姫が魔法に特化した存在だと知らせている。
「オリヒメ様は完全な魔術師タイプです。体術や剣技などには明るくなく、逆に魔法に関しては天賦の才能を秘めています。感応力が非常に高く、フィーリングにテクニックが付いてくる希少なタイプです。魔術師と言うよりも魔法使いと言った方がイメージに近いかと思われます」
アイシスの指が、下の表を指し示す。
「全属性に適性があり、なおかつ全てをかなりの強度で使えるということを、この表は示しています。魔法を習えば短期間でもかなりの腕になると予想されますので、一刻も早く魔法を勉強なさることをおすすめします。また先程少し述べましたが、感応力が非常に高いので、敵の接近や吉兆などを事前に察知し、パーティーへよく貢献する事ができるでしょう」
「ほぇぇ……」
情報量の多さに圧倒されながら、わかったようなわからないような表情で頷く織姫。
最後は一真。
「カズマ様は、斥候タイプと判断しました。グラフでは見事に原点に位置し、全体的に能力値はあまり高くありません。しかしバランスが良く、何でもこなせる器用さがあり、かつ機転がよくきくので、パーティー内の情報処理役たる斥候をおすすめしました。様々なことに興味を持ち、試してみることで、よりいっそうパーティーの役に立てると思います」
全体を見渡し、まとめにかかる。
「情報整理に長けるカズマ様に、近接戦闘が得意なミズキ様、高火力の魔法が使えるオリヒメ様の三人でパーティーを組むのであれば、稀に見るバランスの良いパーティーであると言えます。今後どのように行動していくのかは個人個人にお任せいたしますが、こちらから助言をするのであれば、お三方がそろっていれば、大抵の難事は退けられると言わせていただきます」
椅子を引き、大きく頭を下げるアイシス。
頭を上げると、何か質問はないかと三人に問いかけた。
それを受けて、スッと一真の手が上がる。
「カズマ様、どうなさいましたか?」
「一般的には、私はどの程度の力量を備えているという判断になりますか」
「……質問の意図が捉えられないのですが、野盗などとの戦闘になった場合、勝てるかどうか、ということでよろしいですか?」
一真がこくりと頷く。
「そうですね、やり方によっては一対一なら負けはない、という程度かと思われます」
そこで一旦言葉を止め、しばし考えるアイシス。言葉を続ける。
「……というのも、カズマ様の強みは取れる攻撃手段の多様さと、初見で技術を盗み取れるほどロジカルな思考力、それからそれを瞬間的に再現できる器用さにあります。パワーで押してくるタイプであろうと、技術でハメてくるタイプであろうと、手段を選んで相手をすれば、勝ちを取れるのは確実という予想です」
軽く頷きながら、その言葉を聞く一真。
視線は虚空を彷徨っている。
「他に、ご質問は?」
誰も手を挙げない。
アイシスはもう一度三人を見回し、席を立った。
「それではこれで、適性検査は終了になります。昨日のように窓口にて仰っていただければ、師事する相手の斡旋などは行いますので、お三方でよく話し合い、今後どうするのかを決定してください」
それでは、と挨拶を残し、アイシスはその場を離れていった。
三人の手許には、読めない文字で書かれた三人の検査結果が残る。
瑞希と織姫が、ほっとため息を吐いた。
椅子の背もたれにもたれかかる。
「三人で生きていけるってさー」
「他の人に保障してもらえると、ちょっとだけ安心できるよね」
「ほーんと。あとはどうやって依頼を受けるかってことが問題かなー」
「……その前にそれぞれの技術を磨くことが先決ですかね。織姫ちゃんはこの辺りで魔法が使える人であればいい。自分はまず文字が習いたいですね。問題は瑞希さんで……」
「え、なにがー?」
「護身術程度の技術でいいので、教えてくれる人間を探さないといけないんですが。信用できる人間をどのように見定めるか……」
安堵して力が抜けている女子勢に対し、一真は視線を虚空に向けている。
ぽかんとした瑞希が、何ごともないかのように口を開く。
「え、そんなのさっきのビアードさんでよくない?」
その言葉に、一真は片目の目蓋をピクリと痙攣させた。
「そうか、そこでもギルドが使えるな……。そうすると、依頼の種類を確認することと、師となる人間の斡旋はギルドに頼まなければならないわけで……」
しばらく沈思黙考する。
女子二人は、ぽそぽそと雑談を始めた。
ものの一分もしないうちに、一真ががたりと立ち上がる。
二人に手のひらを向けてそれを下に動かすと、回転扉を抜けて外に出て行ってしまった。
「……あれ、ここで待てって事だよね?」
「たぶんねー。まーた抱え込んでるみたいだね……」
「もー、言ってくれればいいのにぃ。水くさいなぁ」
「ほんとだよー。……アタシたちは、戦う覚悟だってできてるのにねー」
「……まぁね~」
ため息をつく二人。
回転扉の向こうを、じっと見つめた。
その頃一真は、傀儡一座の天幕に来ていた。
適当な相手にこの前のお礼を言って、座長の所に案内してもらう。
傀儡の劇は今はやっておらず、座長は自分の天幕でプカプカとパイプを吹かしている。
「どうも」
言葉少なに挨拶をする。
「おぉ、カズマ。今頃来るんじゃないかと思っていたよ。……用件は、異界へ渡る術はあるか、ということだね?」
「その通りです」
座長は、パイプをくわえたまま大きく息を吸う。
紫煙をぽっかりと吐き出した。
「難しいだろうね」
煙と共に、そんな言葉が漏れる。
「魔法なんてものがあるくらいだし、山の者は大抵一度は別世界に迷い込んでしまうものさ。だけど狙った世界に向かう術ともなると、知ってる者が限られてくるね」
もう一度パイプを吸う。
「ここから北に向かうと紜竜峡という谷があるんだが、そこに住んでいる男なら、あるいは。裏の業界じゃ始末屋なんて呼ばれてるんだが、なかなか神出鬼没でね。これが生半可には会えない。とてもじゃないが、希望を託すような確率ではないよ」
「……そうですか」
黙礼して立ち去ろうとする一真の背中に、座長が話し掛ける。
「心配しなくていいよ」
一真の足が止まり、外からの逆光に一真の横顔が浮かび上がる。
座長はニヤリと笑った。
「掛けてもいい。キミのそれは、杞憂だよ」
一真は今度こそ天幕から出た。
ギルドの卓に戻るなり、主に瑞希の目を見ながら二人に話し掛ける。
「他者の命を取る覚悟がありますか」
「トーゼン」
ノータイムで切り返す瑞希。
織姫も隣でぶんぶんと首を縦に振っている。
一真の肩から力が抜けた。
椅子にドカッと腰掛ける。
瑞希が大げさなため息をついた。
「一真くん、アタシは呆れています」
腕を組んだ状態で卓に両肘をつき、一真の瞳を覗き込む。
「アタシたちになんの相談もなく、一人で背負い込もうとする所に、とっても怒っています」
全然怒っているようには見えない澄んだ瞳を、ちらりと織姫と見合わせる。
二人して、じっと一真を見つめ始めた。
一真は、眉間にシワを寄せたり、明後日の方向を向いたりしていたが、いつまででも続きそうな二人の圧力に、ため息をついてうつむく。
「……すいませんした」
「よろしい」
瑞希が腕を解いて背もたれにもたれかかる。
「一言くらい相談してよねー」
「……どこから話したらいいのか分かりませんが、善処します」
「そこは絶対って言ってよ」
苦笑いする瑞希。
織姫は、そんな一真を、目尻を下げながら見つめ続ける。
そっと告げる。
「わたしは三人で一緒に居られると嬉しいなぁ」
織姫の方を向き、ふっと口元を緩める一真。
「私もそう思います」
この一週間後、一真は二人の前から姿を消す。




