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ギルド---5

若干短めです。

 三人の目前に現れたのは、数多の宝玉で飾られた、大きな椅子。

 こぶし大の宝玉をいくつもあしらった、王座のようにも見えるものだった。

 アイシスがその椅子を指し示し、解説を入れていく。


「こちらが、魔力適正・並びに魔力親和性を測る魔道具です。魔宝石や魔法金属をふんだんに用いて作られた、貴重な試験機となります」


 説明は試験機の概要から、使い方へと移っていく。


「この椅子に座っていただくと、椅子から身体へ、様々な種類の魔力が流し込まれます。その魔力をそれぞれ種類毎に選別してください。それにより、種々の魔力への適正、そして操作精度、さらには最大許容量を測ることが出来る、という原理になっております」


 アイシスは三人の顔を伺いながら、理解されているかどうかを確認する。


「なお、これ以降の検査結果は、これからお三方の身の振り方を考える参考にするために、ギルドの方でも控えさせていただきますので、ご了承ください」


 一通りの解説が終わり、三人でどの順番で行うのか話し合う。

 一真が一番最初にやることになった。

 一真が椅子に座ると、腕ほども太さがあった椅子の肘掛けがグネッとうねり、一真の腕を飲み込む。

 同様にして、足も椅子に取り込まれた。


「「「!?」」」

「ご安心ください」


 驚く三人をなだめるために、アイシスの声がかかる。


「これはこの魔道具の仕様となっております。安心して身をお任せください」


 一真はため息を吐いて、身体の力を抜く。

 他の二人も、胸をなで下ろした。


「それでは、魔力適正・並びに魔力親和性の検査を開始します」


 アイシスの声がかかると、椅子の頭の部分に据えられている魔宝石から魔力が放出され、椅子の骨組みを通って一真の四肢に流し込まれていく。

 一真にはそれらが、いろいろな感覚の熱に感じられた。


 燃え盛る焔のような、激しく立ち上っていく熱。

 流れる水のような、サラサラと渦を巻く熱。

 険しい巌のような、密度が高く、トゲトゲしい熱。

 吹きゆく風のような、自由でどこに向かうか分からない熱。


 他にも様々な感覚が、身体の中に吹き込み、暴れ回る。

 その感覚に集中するため、一真はそっと目を閉じた。

 今はまだ余裕があるが、氾濫すれば四肢を引き千切ってしまいそうな危うさを感じる。

 早いうちに御してしまわないとマズい。

 一真の意識は、どんどん集中を増していった。


「この感覚は覚えがある……」


 熱の制御に意識を集中させながらも、脳裏の片隅で記憶を再投影する。

 思い返すのは、小鬼との戦い。そして、その後の身体を動かす練習の時。

 今感じている熱は、確かにその時に感じた不思議な感覚とよく似ていた。

 そこを起点として、思考が加速し、並列的に結び付き、制御するための方法についての瞬間的な試行錯誤を、どんどん繰り返していく。

 タイムリミットは、刻一刻と迫ってくる。

 残り二秒。

 あと一秒。

 ……


「そこまでっ!」


 アイシスの声がかかり、魔力の供給が途絶える。

 身体の中で渦巻いていた魔力は、頭の後ろから吸い出されるかのように抜けていった。

 椅子がうねり、一真の四肢を吐き出す。

 一真はそっと目を開けた。


「お疲れさまでした。椅子から降りられますか?」


 アイシスがそっと手を差し伸べる。

 一真は軽く会釈をし、そのまま自力で立ち上がった。


「ありがとうございます」


 アイシスが目を丸くするが、一真はそれに気付かず、瑞希たちの所へと戻っていく。


「ほえー……。かずま、すごかったねぇ。一瞬の間にどれだけのことを試してたの?」

「え、アタシにはただ座ってるだけに見えたんだけど……」


 二人はそれぞれのリアクションで、一真を迎える。


「いえ、体感で私の魔力許容量はさほどないことがわかりましたので、時間を無駄に出来なかったんスよ」

「感知力が本当に高いみたいですね。許容量が大きくないのが、本当に残念です」


 椅子の後ろで機器類を確認していたギルドの職員らしき人が、ぽつりと言葉をこぼす。


「……? どうも」

「口を出してしまって申し訳ありません。しかしこれだけ感知力が高い方は本当に稀なのですよ。魔力のプールさえ出来れば、一流の魔術師として名を挙げても不思議ではない……。会話から察するに、そちらのお嬢さんの方が感知力が高いようですが」


 データを見てあごをさすっていた職員が、そっと視線を織姫に向ける。

 アイシスがにっこりと笑って会話を進め始めた。


「次はどなたが挑戦しますか?」

「じゃあわたしがやるー!!」


 織姫が勢いよく手を挙げ、そのままキラキラと目を輝かせながら椅子に向かう。

 腰を下ろすと、一真の時と同様に四肢が椅子に飲み込まれる。


「うへぇ……。かずまよくこんなのに耐えたね」


 ひどいしかめっ面になってしまう。

 それでもしばらくすると落ち着いたようで、好奇心に満ちたキラキラと輝く瞳で、次に何が起こるのかと、辺りを見回している。


「それでは、準備はいいですか?」

「いつでも!」

「……始め!」


 アイシスの一言で、織姫の検査が始まった。

 頭上の宝玉から、魔力が供給され始める。

 織姫にはそれが、色づいた靄として知覚されていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。


「ほぇぇぇ……」


 視界にない物が見えるという不思議に、しばらく呆けてしまう織姫。

 しかしその感覚は、小鬼戦の後に水辺を見つけた時と同じものであるため、さほど時間がかからず冷静になる。

 ふと我に返り、ようやく魔力の操作を開始した。

 身体の中に流れ込んでくる靄が、色ごとに別々の場所で渦を巻く様子を想像する。

 たったそれだけで、靄――魔力は思い描いたとおりの軌跡を辿り、想像通りの場所に溜まっていった。

 驚くべき事に、どれだけ魔力を流し込んでも、それらの渦が膨れたり、乱れたりするようなことは起こらない。


「やめ!」


 そのまま試験機の性能限界に到達し、検査は終了する。

 椅子から手足が吐き出されるやいなや、二人の下へ歩み寄っていく織姫。

 何とも言えない可愛らしい様子で、自慢げに二人に近づいていく。


「すっごいねー、やっぱ織姫ちゃんは」

「でしょー!! かずまも褒めて褒めて」

「はいはい」


 二人で織姫の頭を撫でる。

 気持ちよさそうに目を細めて、織姫は笑み崩れた。


「オリヒメさんは、魔術の才能が卓越しているようですね。この試験機で測りきれないことなどなかなかないのですが……」


 アイシスがあきれたように言葉を発するが、そこはかとない驚嘆の雰囲気を滲ませていることを、織姫は見逃さない。


「えへへ~」


 照れ笑いをしながら、頭を掻いていた。

 そんな織姫を見てひとしきり微笑んでから、瑞希がスッと口を開く。


「さー、アタシはあんまりいい成績残せないだろうから、ちゃっちゃとやっちゃおっかー」


 椅子の方へ歩み寄っていくので、アイシスが補助に入る。


「それではこちらに腰掛けて。できれば深い方がいいですね。……ありがとうございます」


 瑞希の手足が飲まれ、準備が整う。


「よろしいですか?」

「はーい」

「それでは……、始め!」


 魔力の供給が開始した。

 水が地面にしみこむように、じわじわと()()()が体内に染み入ってくるのを、瑞希は感じ取っていた。

 意識を凝らしてその感覚がするところを見つめていると、水の中にインクを落としたような跡が、じわりと浮かび上がって見えてきた。

 どうやらこれが魔力のようだ。

 さらに意識を集中させて、その軌跡のさらに先を思い描く。

 ……できた。

 インクが、思い描いた軌跡を辿って、身体の中を駆け巡っていく。

 それからしばらくもしないうちに、やめの号令がかかり、試験は終了した。

 インクが頭から吸い出されていき、手足も椅子から吐き出される。

 ……その途端、一気に重力が五倍になったかと思うほど全身が重くなり、椅子から立ち上がることさえままならなくなってしまう。

 瑞希はそれが疲労によるものであるということに、しばらく気付くことができなかった。


「あー、だるい……」


 ついポロッと漏れた言葉に、織姫が反応して歩み寄ってくる。


「みずきちゃん大丈夫~?」

「お疲れさまでした」


 そんな瑞希に、アイシスが歩み寄る。


「本来だったら、この反応こそが普通なんですがね……」

「……? どういうこと~?」

「…………?」


 首を傾げる一真と織姫に、アイシスは苦笑いを浮かべて説明する。


「魔力の操作は身体を動かすのとはまったく異なるものになりますので、だいたいこの試験を受けた方は、疲労困憊して動けなくなってしまうのです」

「なるほど~」


 うんうんと頷く織姫だが、ふと一真の方を見て視線を固定する。


「その通り、その点カズマさんは異常でして。まだ上限まで測り切れていなかったオリヒメさんが動けるのは理解できるのですが、きちんと上限まで測りきったはずなのに、カズマさんは平然と立ち上がった」


 なぜそんなことができたのか私には分かりませんが、とアイシスは肩をすくめる。

 視線を集めている一真も、理解不能であることは同じなので、肩をすくめるしかない。

 アイシスは大きく息を吸うと瑞希の方へ向き直り、改めて話し始める。


「気を取り直して、いまのミズキさんの状態をマインドドロップというのですが、マインドドロップに対する速効薬がポーションと呼ばれるものです。こちらがそのポーションになります」


 アイシスが取り出したのは、黄色の液体で満たされた、手のひらに隠れるほどの小さな瓶が三つ。

 一つを瑞希に手渡す。


「魔力を操作するために消費した精神力を回復する薬になります。念のため、他のお二方も飲んでおいてくださいね」


 織姫と一真にもポーションを渡し、瑞希の様子を確認する。

 幸い手を動かす程度ならなんとか可能だったようで、ツラそうにしながらも一気に瓶の中身を飲み干し、ほう、と椅子の上で息を吐く。

 直後、大きく目を見開き、瓶を握ったままの手を見つめ始めた。


「すっごい、一気に身体が軽くなった!」


 それを受けて、一真と織姫も瓶を飲み干す。

 二人とも、難しい顔をして瓶を睨み付けていた。


「うーーーん……。やっぱり何も感じない……」

「……薬、か」


 その様子を見ていたアイシスは、堪えきれずにクスリと笑ってしまう。


「もう大丈夫そうですね。次の身体力の検査に向かいましょうか」


 三人がマインドドロップから回復したのを見計らって、アイシスは次の試験場に向かうのだった。

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