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無縁---5

二月半……?

長編の中盤にさしかかるとなぜか筆が鈍る……

まだまだ半分ありますが、とりあえず残っていた二章の最終話を投稿しておきます。

 一座の朝は、宴の次の日でも早かった。

 朝霧に包まれて、様々な人々がごそごそと動いている。

 そんな中で、毛布を頭から被った瑞希が、ムクリと身体を起こした。

 ぼーっとした表情のまま辺りを見回し、既に大勢の人が忙しく動き回っている事実に目をぱちくりする。

 その傍らには、こたつで丸くなる猫のような姿勢で寝る織姫がいた。

 一真の姿は見えない。

 毛布を膝に引っかけたまま、織姫を揺り起こす。


「織姫ちゃーん…… なんか起きた方がいいかもー…… おーりひめちゃーん」

「うぅぅ……」


 きゅっと小さくなり、頬を手の甲に擦りつけたあと、横になったまま織姫は瑞希を見上げる。


「みずきちゃん、おはよぉ……」


 顔を伏せ、折り重なった手の甲におでこをごしごし擦りつけると、がばりと起き上がる。


「んあぁぁぁ………、はぁ」


 そのままの勢いで大きくのびをすると、寝ぼけて二重になった目蓋の奥から周囲を観察する。


「あれーっ、かずまはぁ?」

「わかんにゃい。あたしも今ちょうど目を覚ましたとこだから……」

「あはは、呂律回ってないじゃん。あいかわらずみずきちゃんは朝に弱いね~」

「うっさい……」


 まともに開かない目蓋をごしごし擦りながら、瑞希は織姫に言葉を返す。

 そんな二人に気付いて、昨日の女性が歩み寄ってきた。


「おっ、起きたね。意外に早かったじゃないか」

「「ねえさん!!」」


 昨日はあれから、二人して彼女と延々話し続けていたために、色々教えてくれた彼女を、親しみも込めて姐さんと呼ぶようになっていた。

 今や二人は、昨日の話を通して、この一座の在り方、無縁で生きるからこその楽しさ、さらには生きるということの厳しさまで認識できていた。もっとも鮮やかさや臨場感というものは、昨日ほどは残っていないのだが。

 彼女は腰に手を当てると、矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる。


「ボウズは片付け手伝ってるよ。それ片付けたら座長のテントの所においで。ボウズがアムと一緒にテント畳んでるから」


 二人が寝ていた毛布を指差し、それから座長のテントの方へを向ける。


「え!? そんなの聞いてないんだけどー!?」

「あわわわわ、起こしてくれればいいのにー!!」


 慌てる二人を目の端に捉えながら、彼女はふっと笑みをこぼした。


「しっかし愛されてるねぇ、あんたら。『彼女らは寝かしておいてあげてください』だってさ」


 そのまま歩き去ってしまう。


「「もぉぉぉーーーー!!!」」


 薄くなっていく朝霧を追い払うかのように、二人の絶叫が響き渡る。




 程なくして。

 出発の準備がほぼほぼ整った一座の真ん中に、どんよりと影を落とす女子二人と、それを苦笑しながら眺める男子二人の姿があった。


「わたしたち……やくたたず……」

「これはちょっと…… いやだいぶヘコむねー……」


 慣れない作業に悪戦苦闘していた瑞希と織姫が駆けつけた頃には、全体の出発準備はおろか、一真達のテントを畳む作業まで終わってしまっていた。

 男子二人はそもそも作業を手伝ってもらうつもりもなく、なんなら一座が出発しても女子二人を待つくらいの心持ちでいたため、責める気持ちもなければそんな発想もない。

 特に一真は、落ち込む二人を見て、どのように声を掛けたものか考えあぐねていた。

 頬を掻きながら立ちすくむ一真に対して、アムはあきれて眉を歪める。


「ホントになにも思い付かないの」


 昨晩とテンションが異なるのは、アルコールが入っておらず、素で話しているがゆえである。


「顔合わせてからたかだか数日、しかもそのほとんどが森の中歩き回ってただけですのでー……。機嫌を直すものもなにも、好きなものすら把握する手段がない……」

「はぁ~……。あんな美少女二人を前にして、そんなリサーチもかけないなんて。……まさかキミ、そっちの趣味の人だったり……」

「よく解かりませんが背筋が凍るので、その想像今すぐやめてもらっていいスか」

「ボクだって考えたくてこんなこと言ってんじゃない。もしその筋の人なら近寄らないからな」

「今は彼女らのことです」

「……まぁね、こういうときは頭抱えてたってしょうがない。当たって砕け散るしかないよ」


 そう言うや、目の前に準備していた荷物を抱え、女子達の所へ歩み寄っていく。


「お二人さーん、朝飯だよ。ほらカズマ! 何してるの。そっちのクラッカーがないと話にならないでしょ」


 自分が抱えてきた瓶や皿の他、持ちきれずに一真の足下に残してきたクラッカー入りの袋を催促する。

 一真の心配は杞憂だったようで、女子二人は皿に載った幾多の新鮮な食材を見て、よだれを垂らさんばかりに瞳を輝かせている。

 苦笑いしながら息を吐き、袋を拾って二人の下へ歩み寄る。


「クラッカーに食材を載せて、この辺のソースをかけて食べるみたいス」

「「おいしそう~~!!」」


 朝から焦ってエネルギーを消耗している二人なので、見るだけでも美味しい朝食は、何よりの気付け薬になるのだ。

 四人で丸くなって座り、早速クラッカーに思い思いの食材を載せていく。


「とりあえず紫蘇シソは鉄板かなぁ~♪」

「あ、これ昨日の残り? 織姫ちゃんお肉があるよ!」

「食べる食べる!! じゃあこのネギみたいなのものせちゃおう!」

「これはなんのソースですかね……」

「んー、なんだろう??」

「それはタマネギのジャムだね。あねさんのオリジナルで、保存も利くし美味しいから重宝してる」

「「絶対美味しい~~!!」」


 アムの言葉に、迷わずソースを載せる二人。

 肉や野菜がてんこ盛りになったクラッカーを、大きく一口。


「んんんんんん~~~~!!!!」

「おいひい~~!!」


 表情をとろけさせて、二人は朝食を味わう。

 なんてことの無い保存食でも、工夫をして、気の置けない仲間と楽しく食べれば、美味しいご馳走になってしまう。

 起き抜けにしっかりと動いたこともあって、思いの外ガッツリと朝食を平らげてしまった。

 さほど時間をかけたわけでもないが、食べ終わる頃には朝霧も晴れ、太陽が一面に燦々と降り注いでいた。

 満たされたお腹を抱え、満足げに微笑む一同に向け、アムが立ち上がりながら口を開く。


「さ……て! そろそろ移動を始めよっか」

「え、他の人たちは?」


 てっきり遠足かツアー旅行のように、みんなそろって移動するものだとばかり思っていた織姫が、目をぱちくりしながらアムに訊く。瑞希も一真も目を見合わせている。

 アムは呆気にとられて口を開きながら、それに答える。


「なに言ってるの。子供じゃないんだし、それぞれ好きに動き始めるでしょ」


 そう言うと、首を傾げながら踵を返す。

 三人は大急ぎでまとめてあった荷物を抱え、慌てながらアムの後を追う。

 歩きにくい川沿いの砂利道を行くことになるのだが、アムの足取りは理解不能なほど速く、小走りで駆けてもなかなか追いつくことができない。

 息を急き切らせて全力で走り、やっとの事で背中を捕まえて足を止めさせることに成功した。


「ちょ、アムく…… まって……!!」

「早すぎない!? なんでフツーに歩いてるように見えて追いつけないかな!?」

「しかもここ砂利道だよ…… 足も挫かずにどうやってそんなに早く歩いてるの……」

「はぁ、はぁ…… 筋肉の緊張がさほど強くないのか……? いや、単純に筋肉量も違うな。自分はともかく、運動に慣れている瑞希さんでも追いつけなかった……」


 ブツブツと言い立てる三人に対し、アムはそれこそ理解不能と眉間を揉む。


「逆にどう歩いたらそんなに遅くなるの……。町の人たちは歩くの遅いって聞いてたから、これでもかなり遅く歩いたんだけど」


 腰に手を当て、肩をすくめる。面食らって瑞希と織姫が顔を見合わせる中、一真が口を開く。


「……ちょっと歩いてもらっていいスか」


 顎に手を当てて目を光らせながら、アムの側面に回り込む。

 思考の海に没しながら喋っているようで、言葉遣いもかなりぶっきらぼうだ。


「「「は?」」」

「いいから、数歩でいい」


 アムの背後に手を当て、ぐっと押し出す。

 訳が分からないながらも、一歩二歩と足を踏み出すアム。


「「あっ!?」」


 女子二人の声が上がった。

 まるで『歩いた』と言うよりも『滑った』。

 アムは、力を抜いた状態で腕を垂らし、倒れ込むようにしてすり足で移動したのだ。

 足は前後するものの、頭の位置は1ミリも上下しない。


「鍵は体重移動。身体の力を抜いて自然体で立ち、倒れ込む力のモーメントを利用して歩幅と消費体力を稼ぐ……。しかも前足を踏み込んだ瞬間には後ろの足が出始めているから動作間のラグが小さく、その分ピッチも上がる」


 たかだか数歩で、一真はそこまで読み解いた。

 他の三人が目を瞠る。


「え、まってまってアムくんもう一回見せて!」

「よく見てたね……。言われてみればそうやって動いてるね、ボク」

「なるほどねー、そう動けば早いし疲れないわけだー……」


 瞬間移動したようにすら認識していた織姫に対して、瑞希は一真のひと言で自分の動きとの違いを理解し、その移動方法を二・三歩分くらいの空間で練習さえ始めている。

 当の一真は、虚空の一点を見つめて、首の骨をポキポキと鳴らしながら、身体を前後に揺らしている。倒れ込む力を利用する感覚を研究しているようだ。

 アムは織姫の前に移動し、ゆっくりと動き方を強調しながら歩き始めた。


「こう、倒れ込むようにして身体を傾けるでしょ。このときにもう後足あとあしは地面を蹴り出しちゃって……」

「あー! なるほどそう動いてたのか!!」

「見えた? まさか山の人間と町の人間で、動き方が根本的に違ってたとは、さすがに思いもしなかったな」


 瑞希と一真の方を見れば、瑞希は既に歩き方をマスターした様子で砂利道をひょいひょいと行き来し、一真の方もマスターとは言わないまでも、先程の歩行ペースくらいならば問題なく付いてゆける程度のスピードは確保している。

 そうなれば、移動する上での問題は織姫のみだった。

 当の織姫は、うんうんとうなりながら歩き方を真似しようとし、足の回転が上半身の倒れるスピードに追いつかず盛大に転がっている。


「これはアタシが()()()するしかないかなー」


 アムの隣で同じ事を考えていたらしい瑞希が、あははと笑いながらそう提言する。


「アタシの大剣と織姫ちゃんの銃は一真に持ってもらうとして、申し訳ないけどアム君、今朝もらった荷物を持ってもらっていいかなー?」

「その程度ならお安いご用だよ。むしろその剣とかもボクが持ったほうがラクなんじゃないの」

「それはー……、たぶん一真が許さないから」

「……というと?」

「ちょっと彼、生き急いでるみたいでねー。こっち来てからずっと、無茶になる寸前くらいの負荷を身体にかけ続けてんの」

「……なるほど」

「アタシ達の二歩も三歩も先を一人で黙々と突っ走って、なおかつアタシ達が困らないようにって道の整備までしてっちゃうから。もうちょっとラクにしててもいいと思うんだけどねー」


 そう言って肩をすくめる瑞希。

 アムはちょいっと首を傾げた。


「見てると、三人ともお互いに分かり合ってる部分があるみたいだけど」

「そう? アタシはただ、この場所で生きてく上で、あの二人が必要ってだけなんだー」

「だからなのかな。分かり合ってるくせに、時々ひどく危うげに見える」

「あやうげ?」

「…………」


 アムはそれっきり口をつぐむと、歩く練習をしている二人をじっと眺めていた。

 もう一度肩をすくめ、瑞希は全員に聞こえるように声を張り上げる。


「そろそろいくよー! 一日歩くことになるみたいだし、織姫ちゃんをアタシが背負って、武器類を一真に持ってもらって、アム君に残りの荷物を持ってもらおうかと思うんだけどどう思うー」

「えー! わたし歩くよ!!」

「到着できなくなるから却下ー。ほかー」

「ぶー……」

「彼に私らの荷物を持ってもらうのは気が引けるんだが……」

「実際に荷物まで抱えたら、歩けなくなっちゃうでしょ」

「……すみませんが頼みます」

「なんなら剣も持つよ」

「いや、その程度ならむしろ、いい練習になるので」


 それ以上は声を上げるものが出なかったので、瑞希は手を叩き合わせた。


「それじゃそういうことでー。町を目指して、アム君先頭頼んだ」

「了解」


 四人分の衣類や一日分程度の食糧はアムが持ち、それ以外の元々持っていた瑞希の大剣や織姫の銃、一真のショルダーバッグ一式を一真が抱え、織姫を瑞希が背負って移動することになった。

 その日の太陽が暮れた直後、四人は目的とする山間の村に予定より一日早く辿り着き、この世界の集落へと足を踏み入れることになった。

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