-Lyuk Side
オレはまた…代わったのか。
記憶が無い。
気を緩んだらこれだ。
くそ…
目の前には涙で溢れた愛世がいた。
「ぼくがぶっ壊してあげる。ぼくがリュークんの契約を書き換える…だから…!!」
状況を把握出来ないままで驚く。
その言葉で何となくわかったが。
そっと愛世の頭を撫でた。
契約をぶっ壊す…
きっと俺が、クズのことを愛世に言ったんだろう。
俺…鬼利が。
俺の願いだの望みだの言ったんだな。
俺の馬鹿が。
ぶっ壊してくれるなら、ぶっ壊して欲しい。
この契約も、この気持ちも。
愛世の眼差しはオレの本音を見透かしてるようだ
った。
壊してくれ。俺の全てを。
俺の情けない思いを。
「ありがとう」
ふっと言葉が出た。
何かが解けた気持ちになった。
くずの契約は切れたはずだ。
それなのに、影響がまだ続いている。
それは…俺のせいだ。
俺が切りたがらないのだ。
馬鹿だな。
本当に馬鹿だ。
この呪縛を解きさえすれば…
オレも皆も楽になれる。
クズは力を失い、過激派は大人しくなるだろう。
けど…
俺はオレを…許してくれない。
オレを憎んでいる。
どうしてそこまでオレを嫌うんだ。
オレもそんなお前が嫌いだよ。
「リュークんはリュークんだよ。きりりんはきり
りんだよ。リュークんは悪くないし、きりりんも
悪くないの。誰も悪くないの」
愛世はテンポ良く言った。
誰も悪くない。
あぁそうだな。
単純なことなのにどうして分からない。
自分を傷付けるのが当たり前になっている。
もうやめたいよ。
分かってるだろう?俺…
自己嫌悪はオレの悪い癖…
俺の悪い癖だ。
許せ。許してくれ。
俺の声は聞こえない。
「リュークん…一緒に寝ていいかな」
「ん…いいが…オレの部屋来るか?」
「いいの!?」
ぱぁっと愛世に笑顔が戻る。
そういや部屋に入れたこと無かったな。
クズはあるのに。
いやもうあいつの事は考えないでおこう。
今の契約者は愛世なんだ。
オレは愛世に従う。
「なぁ愛世…お前の契約の掟はなんだ?」
「んー?」
部屋に向かおうとする愛世が振り返る。
掟なんて決めてなかった。
大切なことを忘れていた。
愛世はクズを止める為に契約した、希望の欠片な
んだ。
愛世は笑って言う。
「掟その一、一人で抱え込まないこと。掟その
二、無理に許さなくていい…互いを認めること。
掟その三、くずちゃんに逆らうこと…」
「難しいな…」
頭を掻きつつ苦笑する。
でもその条件は悪くない。
この全てを叶えられたら、オレはどれだけ救われ
るか。
俺の本当の願いだ。
「その四、幸せになること」
「幸せに?」
「貴方が一番望んでること」
チンッとエレベーターが開く音がする。
愛世はそこに飛び込む。
「リュークんの幸せはリュークんが決めるの。ぼ
くは見守る役目だから。自分で見つけなよ。幸せ
の希望を」
カッコつけてオレに指を指す。
すると丁度閉まりかけのエレベーターのドアに足
を引っ掛け転けた。
普通にダサい。
「うわダサ…」
「ちきせう…」
「全然決まんなかったぞ」
「わんもあちゃんす」
「やめとけ」
愛世を押し込み自分もエレベーターに乗る。
ボタンを押すといつもの浮遊感。
愛世は到着するや否や飛び出し、オレの部屋へ駆
け出す。
オレも後から続く。
案の定鍵を掛けている為に開かない。
愛世は無理矢理でも開けようとバンバン叩いてい
た。
壊れるからやめろ。
直様鍵を開け、中に入る。
…荒れたまんまの状態だったことに気がついた。
二人で唖然とする。
「……部屋、片付けよっか」
「そうだな」
寝ることを忘れて結局片付けることになった。
まぁ能力使えばさっさと出来るんだが。
と、愛世が消えた。
「うひゃー眺め最高!!」
ベランダに出て風景を楽しんでいた。
風が気持ちいい。
オレも外に出て、月を見る。
いつもと変わらない月。
「凄いねぇ…特権だねぇ」
「だろ…一番落ち着くんだ」
「ここが魔界だなんて忘れちゃうね…」
「だな…」
夢のようだ。
夢だったらいいのに。
空を見上げて手を伸ばす。
「綺麗…もっと見てたい…けど…眠い…」
愛世がうとうととし出した。
月明かりに誘われて眠気が来たかな。
片付けは後にして寝さそうか。
「寝るか?片付けはオレがしておくから」
「んーごめんねぇ…リュークんは寝ないの…?」
「もう少しここにいる…」
「お先に失礼するねぇ」
愛世は睡魔に負けたようで、ふらふらとオレのベ
ッドに入っていった。
オレはもうしばらくここで景色を眺めていたかっ
た。
幸せ…幸せか…
オレの幸せは何だろうな…
オレに本当の希望は…あるのだろうか。
そんなことを考えているうちに、オレも眠くなっ
てきた。
眠くなるなんて珍しい。
最近…俺が強くなって来ているせいもある。
起きたら…たまには喰いに行くかな。
人間狩り。悪魔の仕事。
穏健派と言っても喰わなきゃ力が弱まる。
契約だのほざいてる場合じゃねぇ。
魔王の使命を全うしなければ。
オレの今の幸せはきっと…こうやって魔王として
生きることなのかな。
あとはクズの契約さえなければ。
皆と楽しくやれればそれでいい。
やはり星空を見ていると元気が出る。
さて寝るか
おやすみ。
そう呟くと、返事をするようにキラリと光が瞬い
た気がした。
あれが希望の光だといいな…
なんて思いつつ部屋に戻る。
横には愛世が寝息を立てている。
それを子守唄のように聞きながらオレも眠りにつ
く。
優しく、微かに聞こえるレクイエム。
このまま永遠と眠らせてくれ…
過去を、魂を…
何もかも忘れて。
心地よく、ぐっすりと夢の中へと惹き込まれて行
った。
後に起こる幸運に期待を寄せて。




