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契約的結婚に至るまで(モテる恋人と冴えない少女、謀略の為に少女に結婚を迫る男の話)妹視点SS

 私の姉は、カトリーナ・フェロー。フェロー伯爵家の長女である。

 姉には素晴らしい恋人が居た。

 彼の名はアンデレ・サルサティ。サルサティ伯爵家の子息であり、いずれサルサティ伯爵家を受け継ぐ彼は女性達が好む柔らかく優しい空気を纏っていた。同時に、気品溢れる彼は常に女性達の視線を集めていた。

 けれど彼が女性達の熱い誘い文句にも、熱烈な恋慕を告げられてもこれに靡く事は無く、彼の視界には姉以外の女性の姿は無かった。妹として姉への恋心は傍目から見て気恥ずかしくも照れ臭くもあり、彼が姉をとても大切にしてくれていることが、本当に嬉しかった。

 嘘偽りなく、本当に嬉しかったのだ。こんなにも彼に愛されている姉が羨ましくも憧れだった。

 私もいつかは愛してくれている人と長く付き合いたいと、そう思っていたのだ。

 彼はとても優しい人だ。それは誰に対しても、だ。

 けれど彼の行動が誤解を生むだなんて、この時の私には想像もつかなかった。


 彼は姉の周囲にいる女性達へ姉への心証を上げるよう努力を重ねていた。つまり、親しくしていたのだ。

 彼にとってそれは姉の為の行動だった。姉を爪弾きにする同年代の少女達の姿は、私にとっても不愉快なものだったけれど、彼にとってはそれは更に気になる問題でもあったのだろう。

 姉本人は然程も気にした様子は無かったけれど、いずれサルサティ伯爵家の夫人となるであろう姉への心証を上げる行為は、彼の将来への配慮であったのだろう。

 姉が結婚した後もスムーズに貴族社会で生きる事が出来るように、という配慮だ。


 勿論彼にとって相手の女性達へ悪意も恋情もそこには介在していない。けれども姉はこれを浮気と見なした。当たり前だ。親密な姿をみて、誤解しない方が土台無理な話。

 けれども私は、それが姉をどれ程傷つけているのかだなんて気づいては居なかったのだ。姉はいつも穏やかに微笑んでいたから、余計に。


 彼が私に矢鱈に優しくするのも、全て姉の為なのだ。けれども彼の行動はやはり間違っていたのだろう。頻繁に彼が私を訪ねて来た時、私は姉が段々気落ちしていくのを感じ、姉に誤解を解いた。


「違うの。本当に彼とは何も無いのよ」


 そう言葉を重ねても、姉はただ寂しそうに頷くだけ。

 初めて、これは不味いと、そう思った。


 本格的に危機感を抱いた時には既に遅かった。

 姉は彼に一方的に別れを告げ、両親が用意した縁談を受けて嫁いでしまう。

 彼が手紙を受け取った時、領地視察で出向していた事を知ったのは、姉が結婚して直ぐの事。

 本当に彼は姉を愛し姉も彼を愛していたのに、壊したのは私だ。私の軽率な行動が招いた事だったのだ。


 姉には何度も繰り返し謝った。

 誤解させるような行動をした私が悪いのだと。

 けれども姉はさっぱりとした笑顔で「気にしないで」と笑うのみ。


 結局誤解は解ける事なく姉は嫁ぎ、姉が私を責める事などついぞ無かった。その後の彼の憔悴振りは、友人として見てられなかった。

 彼が姉の為にと親しくなった女性の中には、本気で彼に惚れ込む女性も居た。けれどもその多くは、彼の行動を微笑ましく思いつつ姉との恋を応援する者ばかり。

 本当に他意は無かった。けれど当の姉がそれを浮気だと思っていたのなら、やはりそれは浮気と見なされて当然なのだろう。だって姉は、彼の真意を知らなかったのだし、彼自身もその理由を姉に言う事は無かったのだから。

 今となってはすべてが遅すぎる事である。

 けれどもあの時、直ぐに彼の行動の真意を姉に伝えていれば、何かが変わったのだろうか? いいや、きっと変わらなかったと思う。姉は控えめな人だし、常に一歩引いて彼や世間を見つめていた。だから行動の真意を知ったとしても、それが真実かどうかなど、姉には関係が無かっただろう。


 すべては、単なる想像であり、推測。


 結婚をした後の姉は本当に幸せそうで、それに水を差すことも、過去を掘り返して許しを乞うのも、ただの自己満足でしかない。だから私は心の中で姉に謝りながら、今の姉の幸せを祈るのみ。姉もまた、私にあの頃の心情を吐露することは無かった。

 だから私は姉とも彼とも距離を置いた。私が壊してしまったものを再び引き起こさないように、注意深く行動していた。それが私なりの罪滅ぼしであったから。


 そうして時を経て彼が令嬢と婚約したと知ったのは、姉が結婚して半年後の事だった。


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