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転生した先で、暗殺家業を営む(猫被り少女と、腹黒強引貴族令息の攻防)令息視点SS

2000文字未満のSS。ほぼ、令息の独白です

 ―――彼女は庇護欲をそそる美しい容貌と、貴族の子女として完璧なマナーと礼儀作法を身に付けた教養のある女性だった。

 透き通るような白い肌にアーモンド形の色素の薄いアッシュブルーの瞳。桜色の唇は美しく、細く柔らかそうなアッシュブロンドの髪が緩やかにうねり、彼女の繊細な容貌を引き立てている。

 彼女の口から出る吐息混じりの囁き声は甘く、いつまでも聞いていたいと願う程心地好いものだった。


 そんな彼女が暗殺者であるなどと知らなければ、手元に置いて囲っておきたいと思う程度には貴族の子息から密かな人気を博していた。特にそれは特殊性癖を持つ貴族に多く、彼女自身は特段気にした様子もなかったけれど、私は彼女へ向ける多くの下劣な欲望を秘めた視線が集中するなど、断じて許すことなど出来なかった。


 彼女は、私の物だ。

 声高に叫ぶその声は、いつしか私の中で当然の帰結となっていた。

 ユリアナ・エンライ伯爵令嬢。それが彼女の名前だ。


 エンライ伯爵家はこの国の上層部、それも一握りの極限られた人間しか知らぬ事ではあるが、王家の影と呼ばれる、王命によって貴族を専門に暗殺、情報収集を行う暗殺者の一族である。

 ユリアナも勿論この家業を受け継ぎ、既に一人前の暗殺者として日夜王命に従い活動をしているという。彼女の手は既に人の血で汚れ、その体には人の怨嗟で塗れている。

だが、それが何だというのだろう?自らが犯した出来事を省みる事なく手を下した人間を恨むというのなら、それは単なる我が儘というものだ。だからこそ私は彼女の仕事を遠くから、時には近くでじっと見守っている。


 本来暗殺者とは華やかな容貌は疎まれるものだ。何故なら華美な容貌は人の衆目を集めやすく、顔や身体的な特徴など何かと人から覚えられやすい傾向にあるのだから。

 けれども彼女のように貴族のみを専門とする暗殺者であれば少しばかり事情が違ってくるらしい。

多くのお茶会に出席して人脈を広げ、貴族の噂話から信憑性の高い裏の情報まで多くの情報を収集する事で暗殺対象を監視し、その裏付けを取るエンライ伯爵家は、貴族の中でも社交的な一族としても知られている。

 華やかな容貌を持つユリアナは、お茶会などにあっては華を添えるに相応しい人間である。それが故にユリアナは望まずともお茶会等の招待がひっきりなしにやって来るらしい。しかしそれは、貴族の中に溶け込む為の擬態でもある。


 暗殺者という薄暗い背景を持つ人間が、それらしく陰気で引きこもりがちであれば逆に人の目を引くというものだ。

 つまるところユリアナの容貌は、彼女の仕事を支える一つの道具ともなっている。

 人は共感性の高い人間や信頼する人間にこそ秘密を打ち明けるものだ。

 社交的で口が固く、然しながら最先端の流行から貴族の嗜みを熟知したユリアナは、同年代の貴族令嬢の中にあって相談役のような役割を担っていた。

 彼女にならば打ち明けられる。彼女ならば何か解決策を見付けてくれるに違い無い。

 深刻な悩みを抱える令嬢ほど、躊躇なくユリアナに泣きつき、最終的にユリアナの寛容さと懐の深さに心酔してユリアナの駒の一つでもある、信者となるのだ。ユリアナがそうなるように仕向けている様子は無い。

 然しながらある特殊な人間にしか分からないフェロモンやカリスマ性というものをユリアナを含めたエンライ伯爵家の人間は持っているのだろう。


 それは、私という人間をも惹き付けている事から明らかでもある。


 私の名は、グラディウス・ヴィッツ。双翼とも称えられるヴィッツ公爵家の嫡男であり、爵位を受け継ぐ次期公爵でもある。

 とはいえ、今は単なる公爵家の子息である。

 公爵位を継ぐのはまだ何年も先の事だ。ゆえに私は公爵家の仕事を手伝いながら手持ちの資金を元手に、個人事業を始めた。

 これが面白いように上手く行き、今では公爵家の資産とは別に個人資産で一財産を築いている程である。


 彼女を迎え入れるに当たって、資産が潤沢であればある程好ましい事は無い。

 彼女の為ならば、全財産を捧げたとしても後悔は無い。彼女に貢ぐ栄誉を与えられるのは、私一人で十分だ。

 だというのに、彼女の側にはお邪魔虫たる男達が明るい灯りに群がる蛾のごとく常に寄り付いて離れない。邪魔なことこの上無い。


 いっそ始末してしまえれば楽には違い無いが、後処理の面倒臭さとユリアナがこの件をどのようにして捉えるのかを思えば、今は手を下す時期ではないと堪える必要があった。


「ユリアナは誰にも渡さない。誰にもだ」


 私は通りすぎる馬車の窓越しに、ユリアナの婚約者を自称する憎き天敵が居るであろう建物の最上階を睨み上げた。


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