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番達の楽園(つがい、それは運命の二人。悲恋)

 ミリアンヌはその日、最後の望みを掛けて番達が集うパーティーに参加していた。

 シャンデリアがきらめく会場内をぐるりと一周してみたけれど、やはり今回も目当ての人物に出会うことは出来なかった。

 期待しないように戒めていた筈だったのに、やっぱりどこかで期待していたのだろうか。

 じんわりと目が潤み、目的を果たせなかった苦しさに喘ぐけれど、ミリアンヌをそっと抱きしめ、涙を拭ってくれる者など何処にも居ない。

 いやそれどころか、泣き崩れるミリアンヌの側に、一人として寄って来る者は居なかった。


 仕方の無い事だ、ということは理解しているけれど。でも、それでもと、いつかきっとと。自分の心に嘘をつくことは出来なくて。

 そっと会場を抜け出して広い庭に出ると、夜空の美しい輝きが目に染み、大粒の涙が頬を伝って薄暗い地面に落ちていった。


 ―――私の(つがい)。愛しい人。あなたは今、何処に居るの?


 その問いに答える人など居ないのに、まだ見ぬ番を求めて焦がれる思いで夜空のきらめきに手を伸ばした。


「ただ、あなたに会いたいだけなの」


 この世界に数多存在している人々の中で、ただ一人の番。私だけの、唯一。

 けれどもう、生涯に渡ってその番に出会うことは無いのだということは、ミリアンヌ自身にも既に十分過ぎる程に理解していた。


 私は三日後、二十歳を迎える。この世界で―――いや、未だ番と出会えていない人間にとって、二十歳は大きなターニングポイントだ。

 〝二十歳を迎えても番に会えないものは、その一生で最早自らの番と出会う事は無い〟


 それはこの世界で囁かれている真実だった。


 基本的に、この世界では人は同じ人同士で番となり、生涯を共に生きていく。番が見つかるのは大抵お披露目が始まる五歳から十歳の間で、遅くとも十二歳までには自らの番と出会うのが一般的だ。

 勿論、例外はある。例えば出会った番を亡くした者達だ。

 亡くなった番は、大抵間を置かずに生まれ変わって来るため、愛する番を失ったとしても、多くの場合は五年から十年待てば番と再会する事が出来る。これは昔から『そういうことらしい』と言われているもので、ミリアンヌ自身も幼い頃から言い聞かせられていたこの世界の一般常識のようなものだった。


 ……こんなことを言ったら非難されるだろうけれど、番と出会って、それから番を失った者は幸運だ。

 だって十年待てば―――勿論、その期間は残された番にとって、ただひたすらに苦しい時間だろうけれど―――必ずまた番と出会う事が出来るのだから。


 嫌な女よね。自分でもそれは分かっている。

 けれどもいつ出会うとも知れぬ番と出会う事無く二十歳を迎えてしまった者、即ち今のミリアンヌのように、番が生きているのか死んでいるのかさえも不明な人間にとっては、この世界は正しく地獄のようにも感じられた。


「あなたも、」


 庭から会場であるホールに戻ると、痛ましそうな視線が集中する。そこここで寄り添い合う若く幼い番や大人の番の男女を視界に入れぬよう足元だけに集中し、主催者である国の高官に丁寧に辞去の挨拶をした。

 何と声を掛けたら良いか分からない、という表情を浮かべる高官は、ただ一言労いの言葉を掛けてくれた。

 長年、私が様々な地域を巡ってパーティーに参加していることを知る高官は、いつだって『今日が最後の参加になるように』と声を掛けてくれていた。


 優しい人だ。

 その言葉に涙して何度も頷いたあの日が、今はとても懐かしく感じられる。

 結局、ミリアンヌは番と出会う事は出来なかったけれど、こういう優しい人達と出会えた事は、ミリアンヌの人生における宝物でもあるのだろう。


 この世界では、番達を早期に出会わせる為、一年中、番達のパーティーを国が主体となって催している。

 それは単なる婚活パーティーなどではない。国民、一人一人の生涯を左右する最も重要かつ最優先されるべきものだ。

 ちなみに、ミリアンヌが来ている今日この日のパーティーも、勿論国が運営し、開催しているパーティーの一つだった。


 番を見つける為に、五歳になったその日から数えきれない程のパーティーに参加したけれど、結局今日に至るまで番に出会う事のなかったミリアンヌは、この国でかなり有名な存在だった。

 ―――曰く、五十年ぶりに現れた、番無しの女として。

 悲しそうに、けれど穏やかに微笑む高官の言葉がじんわりと胸に染み渡った。


 高官とこうして顔を見合わせるのも、きっと今日が最後だろうから。

 さようならと告げて、ミリアンヌは会場を抜け、馬車に乗って一人屋敷へと戻って行った。






 血の気が引いて蒼白く、生気の感じられない、冷たくなっていく頬を何度も繰り返し手のひらで撫でた。

 彼女の熱を少しでも感じていたくて、血で汚れた鎖骨に頬を寄せる。そっと彼女の胸元に片手を置くが、止まってしまった鼓動が聞こえる筈もなく、ただ柔い肉の感触だけが手のひらから伝わってきた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。僕が見付けるのが遅かったから。僕がちゃんと、あなたの側に居なかったから。もっと早く、気付いていたら、あなたと言葉を交わせたのに。話せたのに」


 重力に従って、とめどなく溢れる涙が彼女の鎖骨から胸元に流れ、彼女の美しいドレスを濡らしていた。

 悲しくて、苦しくて、辛くて、寂しくて。

 涙は止まることを知らず、彼女の肌に幾つもの筋を作りながら流れ落ちていく。


 彼女の後を追えば、きっと楽になる。

 けれどそんな身勝手なことなど出来はしなかった。

 彼女は二十年も、僕を待ってくれていた。僕もまた、その年月を待たなければ、彼女の苦しみを自ら感じ得ることは出来ないだろう。


「ごめんなさい、愛しいひと」



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