魔法の始まり
『物語の終わりは、必ずやハッピーエンドで終わる、という訳ではない…』
〜《『昔々、あるところに、"シンデレラ"という、とてもみすぼらしい子がいました。シンデレラは、まま母と意地悪なお姉さん二人にいじめられてばかりいました。ある日、まま母とお姉さん達はお城の舞踏会に呼ばれ、出かけて行きました。シンデレラも行きたかったのですが、ドレスを持っていません。そこに、魔法使いが現れました。魔法使いは、シンデレラに美しいドレスと、綺麗なガラスの靴を与え、シンデレラにこう言いました。
「0時になると、魔法が解けてしまうからね」と……』》
『ねぇねぇ、おばあちゃん。どうして0時になると魔法は解けちゃうの?魔法溶けちゃったら、もうお城の舞踏会には行けなくなっちゃうよ?そしたら、王子様と結ばれなくなっちゃうの?』
するとおばあちゃんは優しく微笑むと、
『いいえ。大丈夫よ、まだ物語には続きがあるわ。それに、シンデレラと王子様はきっと結ばれるわ』
おばあちゃんは、しわだらけの手で絵本のページをめくる。暖炉からパチパチと火花が弾ける音がかすかに聞こえる。柔らかくて温かいじゅうたんと、ふわふわの毛布と、優しくて穏やかなおばあちゃんに包まれながら小さい頃の私は、おばあちゃんに絵本を読んでもらっていた。
『ほんと?王子様とシンデレラは結ばれるの?』
おばあちゃんは微笑んだだけだった。
『そっかぁ、そうだよね!…私も、お姫様に…ううん、シンデレラに、なりたい!』
私は満面の笑みでおばあちゃんに言った。
『そうねぇ。マヤちゃんなら、なれるわ』
そう言って、おばあちゃんは私の頭を撫でてくれた。
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「……んっ」
私は部屋の寒さで目を覚ました。毛布をかけて寝ていたはずが、どうやら寝ている時に毛布を寝返りで落としてしまったらしい。
眠くてしょうがない体をゆっくりと起こすと、凍えるような寒さに身をすくませる。
「寒い……っ……ちゃんと毛布かけて寝てれば良かったな」
時計を見ると朝の6時ちょっとすぎくらいだろうか。
私は、大きく伸びをすると、
「よし、今日も頑張ろう!」
と、活を入れるために両方の頬をパチンと叩いた。
「……よし、制服は持ったし、朝ごはん食べたし、準備はだいたい大丈夫そうかな。あとは……」
引き出しをあけて、ガサガサと中をさぐる。
「あった!良かった〜、ないかと思った…」
探していたのは、おばあちゃんに作ってもらったヘアゴム。
ヘアゴムと言っても、ゴムが特別な素材で出来ていて、光を当てるとキラキラと反射して光るようになっている。ヘアゴムには小さな時計が付けられていて、その時計はちゃんと動くようになっている。懐中時計のように、フタが付いていて、フタには小さなダイヤのような綺麗な石がちりばめられている。実はこれ、私の1番のお気に入りでもあって、宝物なのだ。今はもういないおばあちゃんの形見でもある。おばあちゃんは手先がとても器用で、よくいろんなものを作ってもらったりしていた。
「……はっ!いけない、つい…おばあちゃんの事を考えちゃった」
家を出ていかなければならない時間が迫っている。
私は慌ててヘアゴムを使って髪を横流しにたばねると、急いで家を出ていった。
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「あらっ、珍しい、マヤちゃんが時間ギリギリに来るなんて…」
働いているカフェに入ると、たまたま入口付近を通っていた店長に
声をかけられる。
「すみません、今日は少し朝、バタバタしちゃって……」
私は頭を下げて謝った。確かに、時間ギリギリにつくのはこの日が初めてかもしれない。
「あらあらあら、いいのよ。女の子は誰だって、朝はきっと
バタバタしちゃうものよ!メイクとか、髪の毛のセットとか、
大変よね〜」
店長は、"分かるわよ〜その気持ち…"と一人でつぶやくと、
はぁ、と溜息をつく。
「そ、そうですよね…」
さすがに、おばあちゃんの思い出にひたっていて遅れました、なんて、この状況でいえない……
「じゃあ、立ち話はこれくらいにして……マヤちゃん、今日も、
一日よろしく頼むわね♪」
「はい!」
店長はニッコリと微笑むと、カフェの奥の調理室に入っていった。
「(私も制服に着替えなくちゃ)」
着替え室に向かおうとした時。私の腰辺りに強い衝撃が走る。
――――――ガチャンっ!―――――――
――――――パリィン!!―――――――
食器のぶつかる音と共に、食器が割れる音が店内に響く。
「(え……?)」
音のした方を見ると、粉々に砕けちった食器、床にこぼれたコーヒーなどが散乱していた。
「これは、一体………」
周りの客も、なんだなんだと騒ぎ始める。
「オイオイ…何してくれてんだよ、コーヒーがこぼれちまった
じゃねーかよ」
見ると、怒った顔の男性がこちらを睨みつけていた。私は、自分がこの男性にぶつかってしまい、コーヒーをこぼしてしまったのだとやっと理解する。スッと、顔から血の気が引いていくのが分かる。
「た、大変、申し訳ございませんでした……!!すぐに、新しい
コーヒーをお持ちします!」
私は雑巾を持ってこようとすると。
「おい、ちょっと待てよ。」
と、男性に腕強い力で掴まれた。
「………っ!な、何でしょうか、お客様」
痛い、というのをなるべく顔に出さないよう、冷静なのをとりつくおった。
「客のコーヒーをこぼしたんだ。まさか、金を取ろうなんて
考えてないだろうな?」
腕をつかむ力が強くなる。
「……っそ、そんな、滅相もありません…!」
私は首をぶんぶんと必死に横にふった。
「だよなぁ……このコーヒー、結構高かったんだよな…」
「………!申し訳ございませんでした…」
私はもう一度、男性に頭を下げた。
「客のいう事を聞くくらいの権利は、俺はあると思うんだがなぁ」
「…え…」
男性はそう言うと、ニヤリと笑った。
「(ど、どうしよう…!!)」
こんにちは、カフェオレラテです。今回は恋愛系を書いてみました。シンデレラのような、お姫様に憧れている人でも、そうでない人も、このちょっとかわったシンデレラの物語を読んで、シンデレラの世界に引き込まれてくださると光栄です
(*^_^*)