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頑固な私と誠実な貴方  作者: 白石 玲
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2015年3月21日の私


 3月21日(土)の私  ―――ウエディンプランとブライズメイドと私―――



「じゃあ、次は式場のカラーと、コンセプトに・・・」

 やっとドレスが決まったと思ったら、次は式場の打ち合わせ。目の前に座っているのは我がホテルのウエディング担当トップの座に君臨している若きプランナー洲鎌くん。お母さんがフランス人でハーフだという彼は毎日やってくる花婿の強敵でもある。計算しつくされたギリシャ彫刻のような顔立ちに、何考えているのか全く分からないアルカイックスマイルで日々やってくる花嫁をマリッジブルーに陥れるさながら魔王のような存在だ。

「田部井さんの希望は?」

「いや、私・・・」

「子供の頃思いませんでした?『こんな花嫁さんになりたい!』とか?」

 藤堂の必殺技とはまた違った意味で効果絶大な洲鎌くんの微笑みも、毎日見ている私には何の効果もない。そして、次に私が繰り出した答えで、洲鎌くんは一気に無表情になった。

「いやー、子供の頃からホテルのフロントで働くのが夢で・・・」

「そんなこと訊いてないです。っていうか、そこ、もう叶ったんだから、次いきましょうよ」

 『次行きましょうよ』って、居酒屋じゃないんだから・・・。

 お客様の前では恐ろしく礼儀正しくて、それはもう、完璧な接客技術と気遣いと、世界のどこで働いても礼儀作法一つ間違えることなんかなさそうな洲鎌くんは、身内にはとことん冷たい。

「んー・・・でも、いや・・・」

「もう、じゃあ、フロントで挙式しますよ」

「それは無理でしょ」

「田部井さんのためなら主任がきっと何とかしますよ」

「うん、断るわ」

 心底面倒くさそうな洲鎌くんはぺらぺらとプランノートをめくり、何やら書き込み始めた。

「招待客はどれくらいですか?」

「お互いの親族とごく親しい友達しか呼ばないから」

「ドレスは何色ですか?」

「白だけど」

「海と山ならどっち好きですか?」

「ん・・・山?」

「上条さんは?」

「さあ?」

「『さあ?』って、貴女の旦那ですよ」

「わかんないわよ、そんなこと。どっちでもよくない?」

「俺はいいですけど」

「じゃあ、山ですね。山に決定」

 洲鎌くんが何やら書き込み、ノートをぱたんと閉じて立ち上がった。

「え、なに?山って?山で結婚式挙げるの?」

「そんなわけないでしょ。山とか、俺の守備範囲外ですよ。取り敢えず当日のセッティングは俺に任せてください。リクエストがあるって言うんなら聞きますけど、他はまあ、適当にやるんで」

 最後だけ意味のないアルカイックスマイルで締めくくって洲鎌くんは去っていった。

「・・・まあ、いっか」

 取り敢えずウエディングプランナーとしての彼の手腕が最高級なことはよく知っているので、面倒になってきた私はすべてを彼に任せることにした。透も式の日取り以外は私の好きにしていいって言ってたし。




「というわけで、結衣ちゃんと玲ちゃんにブライズメイドをお願いしたいの」

 3月の終わり、ばたばたした中で私は藤堂に頼んで土曜に休みをもらい、結衣ちゃんと玲ちゃんと3人で都内のホテルのスイーツバイキングに来ていた。私自身はあまり甘いものがいけるわけではないけれど、ふたりは大好きなので、ふたりの喜ぶところを考えてここにした。

「「私でいいんですか?」」

 それぞれケーキを頬張っていた二人が顔を見合わせて、そして同じことを言う。

「結衣ちゃんと玲ちゃんがいいの。それ以外は考えられないわ」

 あの日、初詣でで玲ちゃんが透を見つけて声をかけなかったら、結衣ちゃんが私の話を聞いてくれなかったら、私と透はきっと、とっくに別々の道を進んで、もう二度と、会うことだってできなくなってる。

「わぁい!楽しみ!」

「結婚式って大好き」

 ふたりは姉妹のように喜びあって、楽しそうに当日の相談をし始めた。

「せっかくだからドレス新調したいな」

「私ドレスとか、持ってないから買うの楽しみです」

「そっか、玲ちゃんは初めての結婚式?」

「幼稚園のときに親せきのお姉さんの結婚式でリングガールしたことありますよ」

「可愛かっただろうな」

「でも、転んで途中からずっと泣いちゃってました」

 玲ちゃんの可愛いエピソードで私たちは盛り上がった。

「結衣さん、もし、よかったら!」

 玲ちゃんが急に両手を合わせてお願いポーズをとった。

「なぁに?」

「ドレスお揃いにしたいっていったら、やっぱりだめですか?」

「素敵!」

 結衣ちゃんの顔がぱっと輝いた。

「でも、私と玲ちゃんって10歳近く差があるのよ?なんか私、無理ない?」

「玲ちゃんお化粧したら案外大人っぽいからいけるわよ」

「里佳さん、“案外”っていうところが余計ですよ」

「あ、ごめん」

 玲ちゃんは可愛い可愛いとみんなに可愛がられているけど、それはあのホテル内で最も年下の従業員だから、というのが大きな理由。次は大人っぽい三井くんと常に一緒にいるから、何んとなく玲ちゃんが子供っぽく思えるという理由。玲ちゃんを単体でみれば、顔立ちは可愛いというよりも結衣ちゃんと同じくきれいな美人系なのだ。

「じゃあ、次の週末は3人でブライズメイドのドレス選びに行きましょうよ!」

「来週は土日勤務だから、ふたりで行ってきて」

 私が言えば、結衣ちゃんはぶんぶん首を振った。

「そんなの、彰に任せちゃってください」




 透、こんな人たちに囲まれてるなんて、私は本当に、幸せ者だわ。








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