2014年12月28日の私
2014年12月28日の私 ―――決断―――
あなたのことは愛しているけど、私はついていけない。それが私だから。
「私は行かない」
クリスマスデートの日に打ち明けられたイタリア移住と同時のプロポーズ。3年付き合った透と私の最後のデート。私の答えは、私たちのすべてを終わらせたのだ。それでも考えた。3日間考え抜いた私の答えは、やはり何も変わらなかった。
「そうか。わかった」
目の前の透はいつもの冷静な対応を崩すことなく、私の答えを受け入れた。最初から、私がプロポーズを断っても私にすがってまで結婚してほしいというような男ではないことは知っていた。ひとりでも大丈夫なのだ。透も、そしてきっと私も。
「この先、どうする?」
付き合っている、彼氏彼女の現状のまま、透はイタリアで私は日本での生活をしていくのか、それとも・・・。
「いつ帰国するの?」
「わからない。仕事が終わり次第・・・1年か2年か・・・それ以上になるのかもしれない」
建築士である透はいつだって海外に飛び回って時間はあまり読めなかった。それでも彼の拠点は日本であり、時間を作って私のそばにいてくれた。だが、今度はそうもいかないらしい。日本のすべてを引き払い、イタリアへ旅立つのだという。
「里佳、俺は・・・」
「別れる」
透が何か言いかけたけれど、私はそれを遮った。
「遠すぎる。今だって会えない時間が多いのに、これ以上になったら、きっと付き合ってる意味ってなくなるよ。それに・・・」
来年で31になる私は、本音を言えば結婚したかった。でも、一流のホテルでフロントに立つ夢をずっと追ってきた私がやっと叶えた今の居場所を捨ててまでしたいことではない。
「里佳・・・」
「透がそうであるのと同じように、私も自分の仕事が大事なの。だから、一緒にはいけない」
透は知っていたはずだ。私が今の仕事にどれほど誇りを持ち、憧れて掴んだのかを。それを知っていながら、私をその場所から連れ去ろうとした透の愛情に、私はきっと感謝しなければならない。でも、それには到底答えることができない。それはきっと、この先何年たっても変わらない、私の答えなのだ。
「遠く離れていたら、お互いを支えあうことはできないのか?」
透にしては珍しく食い下がった。でも、ここで頷いてしまったら、私はきっと弱ってしまう。今はよくても、遠くて会えない透にわがままを言って、彼に依存し、透を困らせてしまう。
そんな弱い自分が見えているから、いまどんなに辛くても、透と別れるのが私にとっても透にとっても最良の決断なのだ。
「ごめん、無理」
銀縁メガネの奥ではっきりと私を見つめる透の瞳を見つめ返してはっきりといった。
「そうか・・・わかった」
長い沈黙の後、透がいつになく穏やかに答えた。
「透・・・」
「謝るな」
“ごめんね”と言いかけた私を透は穏やかに優しく押しとどめた。
「里佳、ありがとう」
いつも通りに私をアパートまで送った透がいつも通りの笑顔を見せた。
「透も、ありがとう」
納得した上の別れだった。透との時間は終わってしまった。自分を優先したばかりに私は透を失った。私はこの時、確かにそう思ったのに・・・。