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5話 狐耳の少女


「あ、そっか、直接会うのは初めてでしたね。では改めまして、こほん、初めまして空狐と申します。主様を手助けをするためにこの世界まで追ってきました」


「あ、はい、これはご丁寧にどうも。あと、助けてくれてありがとうございます。俺は西城陸野と言います」


「はい、よく存じ上げています」


 よく知ってる?


 それに空狐さんの自己紹介の時に直接会うのは初めてとか言ってたな。


 ……どういう事だろうか。


 俺は次々と沸き上がる疑問をそのまま空狐さんにぶつけ始めた。


「空狐さんは俺のこと知ってるんですか?てか、どうしてここに?それに主様って何ですか?あと、この世界って「ちょ、ちょっと待ってください」え、あ、はい」


 空狐さんが焦ったように止める。


 いっぺんに質問し過ぎちゃったかな?


「い、一個ずつ質問してくださると助かります」


 どうやら正解のようだ。


「ごめんなさい、空狐さん。まだ、かなり混乱してるみたいで……」


 俺が頭を下げると、空狐さんは優しげな顔をしながら口を開いた。


「流石にこの状況で混乱するのは仕方ないことだと思いますし、謝る必要はありません」


「そう言ってくれると助かります」


 そう言いながら微笑むと、空狐さんは後ろを向いてしまった。


 一体、どうしたんだろうか。


 何か気に障る事をしてしまったんだろうか。


 いや、何も変なことはしてないし言ってない……と思う。


 空狐さんがいきなり後ろを向いた理由を考えていると、忙しそうに右へ左へと動いている尻尾が目に入った。


 この尻尾って本物なのかな?


 そう思いながら尻尾を見ていると─モフりたい欲求が出てきた。


 いや、流石に初対面の人─向こうは俺のことを知ってるみたいだが─にいきなり尻尾モフらせてください!とか言うのは人としてどうなんだ!?


 でも、このままだと尻尾にダイブしかねない……。


 俺はモフりたい気持ちを必死に抑えながら、気を紛らわすために口を開いた。


「空狐さん、後ろ向いてどうしたんですか?」


 よし、何とか平静を装うことができたぞ。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 本日二度目の待ったがかかった。


 空狐さんはゆっくりと深呼吸をした後、こちらに向き直った。


 顔がほんのり赤くなっている。


「大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です。ちょっと興ふ─いえ、少し疲れてしまいまして」


 なら、今日は質問しないでゆっくり休んだ方が良いかもしれないな。


「あ、私の事はご心配なく」


「いや、疲れてるなら休んだ方が……あれ?今言葉に出てました?」


「いいえ、主様はなにも喋ってませんが」


 もしかして、空狐さんってエスパーとかなのか!?


「違いますからね」


 ……また、思考が読まれた。


「俺ってそんなに分かり易いですかね?もしかして表情とかに出てました?」


「出てませんでしたよ」


 なら、なんで分かったんだろう……。


「ふふっ、不思議そうな顔をしてますね」


 空狐さんが楽しそうに笑う。


 ……か、可愛い。


 少なくとも今までの人生で見てきた中で一番可愛い笑顔だ。


「…?顔が赤いですよ、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です!!!」


 顔が赤くなっているを見られたのが恥ずかしかったのか、俺はつい大声を出してしまった。


「そ、そうですか。それなら良いんですが……」


 大声に驚いたのか耳と尻尾がピンと立っている。


 ……モフりたい。


 メッチャモフりたい。


 モフモフモフモフモフモフモフモフ。


 は!落ち着け俺。


「えっと、とりあえず最初に私が私の事と、なぜ主様のことを知っているのかを説明しますね」


「俺のことを主様と呼んでる理由と併せてよろしくモフ」


「モフ?」


「え、あぁ、気にしないで説明よろしく」


「?分かりました」


 空狐さんは不思議そうに首を傾げる。


 くっ……可愛い。


 顔が熱くなるのを感じる。


 顔が赤くなったりしてないか心配だ。


「えー、では、私の事について、なぜ主様を知っているか、なぜ主様を主様と呼んでいるかを説明します」


 空狐さんは一拍置いた後に続きを話し始める。


「まず、私の事─私の正体を明かしたいと思います」


「どういうこと?」


「どういうことだと思いますか?」


 む、質問を質問で返されたな。


 まぁ、それはそれとして、どういう事だろうか……。


 考えて始めて数秒後、ある考えが浮かんだ。


「……もしかして、その姿は偽の姿ってこと?」


「半分正解です。この姿は偽の姿とも言えますし、違うとも言えますね」


 俺はよく分からずに首を捻る。


「その心は?」


「元々私は主様が持ってる護符に宿っている守護獣なんです」


「んー、えっと、つまりその護符とやらから出て来たってこと?だから、そうとも言えるし違うとも言えるの?」


「ちょっと違いますね。正確に言うと護符自体が私なんです」


「護符が人化したみたいな感じ?」


「はい、そんな感じです」


 あー、なる程、だから偽の姿でもあるし、本当の姿でもあるってことなのか。


 なんとなくだか理解できた。


 いや、今も大分混乱してるが。


 ……ん?待てよ。


「その護符─つまり、空狐さんは持ち主を守護するんですよね?守護獣とか言いましたし」


「はい、そうですよ。私は主様─西城様を主に事故や病気などから守っているんです」


「そうだったんだ……」


 今思えば、車にハネられても骨一本折らなかったなど、いろいろと思い当たる節がある。


「ありがとう、空狐さん」


 俺は飾り気の無い素直な感謝の言葉を並べる。


 空狐さんは嬉しかったのか、尻尾をかなりの速さで振り始める。


「主様を守る事が私の存在意義です。気にしないでください、って言いたい所なんですが、主様は優しいので却って気にしますよね?」


 その言い方だと俺の性格まで把握してるのか……。


 この事についても後で質問してみるか。


「あー、まぁ、そうですね、気にするかもしれませんね」


 そう言うと空狐さんがジッと俺を見始める。


「……」


「どうしたんですか?」


「……実は、先ほどから気になってることがあるんです」


 気になってることって、一体なんだろうか。


「私は守護獣であり、主様に仕えています」


「まぁ、今の話を聞くとそうですね」


「なので、無理して私に敬語とか使わなくても大丈夫です。それに、私の事は空狐と呼び捨てか、ソラと愛称で呼んでもらっても構いませんよ。愛称で呼んでもらっても構いません!」


 随分とグイグイくるな……。


 鼻息も荒くなってるし、獲物を狙うような目で見てくる。


 空狐に鋭い目で見られ、身の危険を感じた俺は─


「う、うん、助かるよ、空狐」


 咄嗟に愛称ではなく、呼び捨てで名前を呼ぶ。


 すると、空狐は少し残念そうな顔をした。


 しかし、尻尾は更に速度を上げ、ブンブンと振られている。


 ……その内、千切れるんじゃないかと心配になる。


「んで、話を戻すけど、その護符を持ってる人を守護するのは分かった。だけど、分からない事があるんだ」


「何ですか?」


「俺、護符とか持ってる覚えないんだけど」


 御守りすらも買ったことがない俺には、護符のような物に心当たりが全くなかった。


 すると、空狐はこれから起こる事が楽しみといった表情で答えた。


「ふふ、実は主様が栞代わりに使っているロケットを首に掛けた銀色の狐が描かれた紙がその護符なんですよ」


 ……マジかよ。


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