12話 自己紹介
「まだ耳が痛い……」
これは空狐とクオンさんの仲間の四人がクオンさんのマシンガントーク─話が進むにつれて声が大きくなっていた─を止めてくれなければ今頃鼓膜破れてたんじゃないだろうか?
俺の耳はそう思えるくらいの痛みに襲われていた。
「主様、大丈夫ですか?」
空狐は心配そうに耳をさすってくる。
本当に空狐はいい子だなぁ。
「ありがと、大丈夫だよ」
そう言いながら空狐の頭を撫でると、空狐は顔を赤らめて下を向いてしまった。
「えっと、リクヤ君ごめんね。つい興奮しちゃって……」
恥ずかしそうに俯く、クオンさん。
そしてクオンさんを睨む、空狐。
「まあ、気にしないでくれ。空狐もそんな怖い顔しないで」
「……はい、わかりました」
口を尖らせながらも納得はしてくれたようだ。
すると、クオンさんの隣にいる大剣を背負った熊みたいに大きな茶色髪の男がクオンさんの方を見て言う。
「おい、クオリアス。お前もプロの冒険者なら自分の感情くらい制御しろ」
「はい、すいません……」
男が溜息を一つ吐き、視線を後ろにいた残りの三人に向ける。
「お前等もプロの冒険者目指すなら感情を制御出来るようにしておけよ」
「「「はい!」」」
元気よく返事した三人を見て満足そうに頷く。
ずいぶん上から話すなぁ。
先輩冒険者なのかな?
「さて、っと。説教は後でするとして自己紹介でもするかな」
その言葉を聞いたクオンさんの顔が一気に青ざめる。
その後ろでは、三人がクオンさんに哀れむような視線を向けている。
クオンさんの視線に気づいていないのか、それとも無視しているのか男は自己紹介を始める。
「オレは元S級冒険者のグランベール・グレドリアだ。グランと呼んでくれ」
「俺は迷い人の西城陸野と言います。よろしくお願いします」
「同じく迷い人の空狐です。私は主様─リクヤ様の─そうですね、メイドみたいなものです」
狐のメイド、だと。
……ありだな。
いつかメイド服とか着させてみたいな。
そんな事を考えていると、クオンさんの後ろにいる三人の自己紹介が始まった。
最初に剣を腰に挿した赤髪の少年が前に出た。
「初めまして、ボクはC級パーティ『赤の狼』のリーダーC級冒険者のカイルだ、職業は剣士、よろしくな」
次に緑色のローブを羽織り、杖を持った水色の髪の女の子が前に出る。
「私は『赤の狼』所属のD級冒険者のアルトリアです。職業は魔法使いです。よろしくです」
最後に大きな盾を持った金髪の男が前に出る。
「同じく『赤の狼』所属、C級冒険者のビーセルと申します。職業は盾使いをしています。気軽に話し掛けてくださいね」
グランさんたちと握手をし、お互いの自己紹介が終わった。
「よし、次は飯でも食べ「ちょーと、待ってください!」…どうした?」
グランさんの言葉をクオンさんが遮った。
…クオンさんがいる事すっかり忘れてたな。
「グランさん!私にも自己紹介をさせてください!」
「そんなに大声出さなくても聞こえてる。あと、お前はすでに自己紹介したって言ってただろ」
「リクヤ君にはしましたけど、空狐ちゃんにはしてません!」
「あ、私は大丈夫です。忘れなければ後で主様から聞きますので、忘れなければ」
冷めた声で自己紹介を断る、空狐。
「それ絶対に聞く気ないよね!?」
悲鳴のような声を上げる、クオンさん。
「いーよいーよ、勝手に自己紹介するよ!私はA級パーティ『虹色の剣』所属、A級冒険者のクオアリス・アップバー!職業は忍者ぁ!よろし「五月蝿い!(ガツッ)」痛ぁ!」
大声で自己紹介をして、グランさんに頭を殴られ、地面に倒れ込むクオンさん。
……すごく痛そうだな。
それにしても、こんなに騒がしいのに忍者なんて出来るんだろうか?
「こんなに騒がしいのに忍者なんて出来るんですか?」
と、空狐。
どうやら空狐も俺と同じ事を考えていたようだ。
「まあ、こんなんだが冒険者としての腕は確かなんだ」
「はあ、これが……」
空狐さんよ、クオンさんをこれ扱いしますか。
これ以上は流石にクオンさんがかわいそうなので話の流れを変えることにした。
「そんな事より、ご飯食べませんか?起きてからなにも食べてなくて……」
「ん、ああ、心配しなくても、ほれ、もう少しで完成するぞ」
グランさんに促されるように示された方を見ると、いつの間にか『赤の狼』のメンバーがてきぱきとご飯の準備をしていた。
なんかクオリアスが残念化してきてる……。