1話 昔の思い出
初めまして、アライグマ僚です。
今回が初投稿となります。
誤字脱字や分かりづらい表現があると思いますが、温かい目で見ていただけると幸いです。
カリカリッ─
今俺─西城陸野─は小説を書いている。
カリカリッ─
誰もいない静かな西城家の自室で集中して執筆を行っている。
カリカリッ─
この日は朝から母親、父親、妹─つまり俺以外の家族全員がそれぞれ泊まりがけの用事があるため、家には俺以外誰もいない。
カリカリッ─
今日は大分調子が良く、書く手が止まらずに筆が走る。
カリカリッ─
一定のリズムで流れている小説を書く音が心地よく感じる。
カリカリッ─
だが、その心地よい時間がもう少しで終わる。
カリカリッ。
俺は書く手を止め、息を吐いく。
「ふぅ、やっと終わったー」
俺は鉛筆を机の上に放り投げ、体の力を抜くようにして椅子の背もたれに体重を預けた。
外を見るとすでに暗くなっている。
固まった体をほぐしながら時計を見ると針は既に十時を指していた。
「げ、もうこんな時間か。もう少ししたら晩飯買ってくるかなぁ」
いつもなら、七時頃に母親が晩飯を用意して俺を呼んでくれるのだが、現在家には俺一人しかいないため、母親から晩飯代として千円を渡されていた。
俺は欠伸をし、「その前にちょっと休憩」と言いながらベッドに飛び込んだ。
今日は日曜日だが、半分以上の時間は小説を書くために使ってしまったために全く休めず、逆に疲労が溜まってしまった。
ベッドに横になりながら机の上にあるスマホを探していると、一枚の短冊のような大きさ紙が机の上から落ちる。
落ちた紙を手に取ると、お守り代わりにしている栞だった。
それを見た俺は懐かしい気持ちになる。
「あれからずいぶん経ったなぁ」
俺は栞を見ながら昔のことを思い出し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「日常は案外あっけなく壊れるものなのよ」と、ある女の人は言った。
この言葉を聞いたのはもう何年も前になるが、未だにその言葉を覚えている。
その時、その女の人が何を思い、何を感じたのかは俺は知らないし、知るすべもない。
なぜなら、その人と出会ったのはたった一度きりで、その出会いの中で女の人と言葉を交わした時間はたった十分程なのだから。
しかし、まだ小さかった俺は、その短時間でその女の人に恋をした、初恋だ。
その次の日にも女の人に会いたくて、女の人と出会った場所に行った。
その次の日もそのまた次の日も行った。しかし、女の人に出会うことはできなかった。
女の人を探そうとしたこともあった。
見つけることが出来なかったが、諦めきれずに必死に探し続けた。
探し始めてから四年経ち、中学生になってようやく諦めることができた。
我ながら根気よく探したもんだと今でも思う。
更に三年─つまり、女の人との出会いから七年経ち、俺は高校生になった。
俺が入学した高校には部活に必ず入らなければいけないというルールがあった。
悩んだ末に約五〇ある部活の中から俺が選んだ部活は文学部だった。
現在、文学部の部員は自分を含めて男子と女子それぞれ二人─つまり四人所属している。
内、女子一人は同級生で明るい性格の空木椎名さんで、残り二人は優しいく頼りになる奏白涼美先輩と残念イケメンの神城創先輩という名字の発音がよく似たの先輩達だ。
文学部に入部した理由だが……自分でもよく分からない。
特に深い意味もなく、何となく入りたいと思った、ただそれだけだ。
入部してから知ったが、文学部に入部した人は、在学中に短編もしくは長編の小説を最低一つを作らなければならないらしい。
なんでもちゃんと部活を行っているという証拠として、学校に提出しなければいけないそうだ。
初めの内は戸惑ったが、俺はすぐに七年前に出会った女の人とのたった十分の出会いを書くことに決めた。
しかし、女の人について覚えているのは、女の人と交わした言葉を少しと右手に持っていたタイトルが金色の文字で書かれた─日本語ではなかったので読めなかった─赤色の本を持っていたこと、そして、今俺が見ているロケットを首に掛けた銀色の狐が書かれた栞─本の間に挟んでいたことから栞だと判断した─をその女の人から貰ったことだけだった。
今ではどこかに出掛けるときには必ずこの栞をお守り代わりにして持って出掛けている。
それ以外の事だが─なぜか思い出すことができなかった。
まるで靄がかかったかのように顔も名前も思い出せなかった。
小説を早く出さなければいけないという事はないが、なるべく早めに終わらせたかった俺は、夏休みまでには書き終わることを目標にしていた。
しかし、思い出せないことが多いことや国語が苦手なこともあり、とても苦労する事になった。
だが、今日ようやく書き続けた短編小説が完成した。
完成までにかかった時間はおよそ一年だ。
思ったより時間がかかってしまったが、時間をかけた甲斐あってなかなか良いできになったと思う。
誰かに見せたくて仕方がない。
だが、現在家には俺以外誰もいない。
それに、奏白先輩に一番に見せる約束をしたので明日の部活までの我慢しなきゃいけない。
俺は誰かに見せたい衝動を抑えながら、次々とやってくる達成感と満足感を感じようと、栞を握り締めながら目を閉じた。
すると、疲労が溜まっていたためか、急に眠気が襲ってきた。
俺はその眠気に堪えきれず、身を委ねるようにして目を閉じた。