晴れた日の朝
ありふれた高校生の日常のひとコマ、というイメージで書きました。5分で読めるお手軽作品です。
初投稿作品です。うまくいけば続き物として書き直すかもしれません。
長過ぎる雨続きの日々もついに終わりを告げ、今日は朝から眩しいくらいの快晴だ。
これで日曜日なら最高なのだけれど、生憎ながら今日は平日。学校なんてストライキしてしまおうとか考えた俺をどうか咎めないで欲しい。
しかしながら我が良心はしっかりと咎めてくださるようで、うだうだと文句を垂れ流しながらも準備を済ませてしまうあたり俺は将来社畜として有望なのだろう。
朝食を手早く済ませる。ついでにトーストをくわえたまま走る練習をし、やっぱり普通に食べた。
「あー……うー…………うん、行くしかないな」
どれだけ嘆いたところで学校は無くならない。せめて雨に濡れる憂鬱がないだけよしとしよう。
無理矢理ポジティブに思考を切り替えて、家を出た。
________
_____
__
昨日まで雨だったからか、晴れているにも関わらず空気はむしろ涼しいくらいだ。まだ残暑厳しい季節なだけに、こういうのはちょっと嬉しい。散々出掛けるのを渋ったけれど、毎日こんな日が続くのなら少しは喜んで学校に行ってやらないこともない。いや、やっぱ無いわ。
せめて他に条件を付けるなら……
「おーい!!おはよー!!!」
おや、どこかの誰かがどこかの誰かに向かって朝の挨拶をしているようだ。うんうん、こんな気持ちのいい朝は元気に挨拶したくなるよな。わかるよ。
「ってちょっとー!!聞こえてるでしょー?」
どうやらお相手さんは聞こえない振りを決め込んでいるようだ。まったく薄情な奴だ。挨拶は人間関係の基本だというのにそれを無下にするとは、人間の風上にも置けぐふぉっ
「もう!おはようの挨拶くらい返しなさいよ!」
「だからってカバンで顔面殴る奴がいるかよ!?確かに無視した俺も悪いけどさ!」
「それってつまり聞こえてたってことでしょ!?なんなのよもう!」
あぁ全く、こいつは朝から騒々しい。望んだわけでもないのに10年近く知り合いを続けているこの女は、何かと俺に絡んでくることが多い。
世間的には『幼馴染』という関係になるのかもしれないが、量産過多の創作のように甘酸っぱい関係などでは断じてない。勿論そこはお互いはっきりと同意済み。腐れ縁も腐れ縁、そろそろ朽ちて無くなりそうなほど腐れ切った関係だ。
「んで、何か用でもあるのか?」
「用がなくても挨拶くらい普通じゃない?」
用がないのに話しかけるなんてよっぽど物好きだな、人間として随分変わってるんじゃないか?人間として。
「へぇへぇそうかい……おはようございます。気持ちの良い朝ですね!」
「お、おはようございます!ってなんか違うような……もういいや。あ、そういえばね……」
用は無いと言いながら、結局こいつは話し始める。そして始まると長い。とっくの昔に慣れたことだが、一々聞いてやるつもりも無い。
要するに聞き流すに限る。あっ、猫が塀の上でストレッチしてる。うわーどっかの誰かと違って可愛い。癒やされるなぁ。
「ってちょっと聞いてる?」
「あー……ごめん、何て言った?」
「だからぁ、この前CMでやってた新作バーガー食べに行くの付き合ってよ!って話!」
「そんなの、部活の友達と行けばいいだろ。吹奏楽部だっけ?仲良さそうなやつ結構いたじゃん」
「女子だけでがっつりハンバーガー食べに行ける訳ないでしょ!!」
他の友達の前では女の子らしさを気にする癖に、俺が相手だと露ほども気を遣わないのは、最早近過ぎてしまった距離感の為せる業。果たして良いのか悪いのか。
「んだよそれ……わかったよ。今日の放課後だな?」
「うんっ。今日は練習無いから。忘れちゃダメだよ!」
そう言って無邪気に見せる笑顔は、俺じゃない男子の眼には多分、魅力的に映るんだろう。
見てくれは良い方なのだから、俺の相手なんて勿体無い時間の使い方はやめて青春らしい
ことをすればいいのに、とたまに思う。
けれど、まぁ。
「へへー。今から楽しみだなぁー!」
「はいはい、楽しみだな。」
飽きるほど見てきたこいつの笑顔に振り回されてやるのも、案外居心地は悪くない。
後の話の殆どを上の空で聞きながら、そんなことをなんとなく思った。
ちなみに、校門に着く頃俺は『話を聞かなさ過ぎる』という理由で殴られた。
やっぱり学校休めばよかったかも。