《因子》
救世主のアドバイスに従い翌日まで逃げ回った。
警鐘の音が耳の奥まで残っていたせいで、必要以上に逃げ回った気がする。
しかしそのおかげか、《ギルド》までの道には何の脅威も残っていなかった。
むしろ瓦礫が通りの脇に積み重ねられているのを見るに、丁度良かったのかもしれない。
そして、久しぶりの《ギルド》だ。
《太郎》に案内されて訪れたのが随分昔のように思える。
《支度金》には助けられたが、果たして今回はどうなるだろうか。
「あの、女の子から《ギルド》へ行くようにアドバイス貰ったんだけど」
「? 女の子と言われましてもこの世界にも《異界人》にもたくさんいますよ?」
ですよね。
名前を聞く暇もなかったもんな。
「何か、羽飾りの髪留めしてて、えーとピンク髪の――」
「おー、自分か。《V因子》無しのニュービーってのは」
誰こいつ。
リザードマンみたいな装備した馴れ馴れしい奴だった。
「俺は《寄り辺》って《チーム》の《リーダー》やってる《サンダ》ってもんだ」
よろしくな。そう言って差し出された手をどうしようか見てしまう。
男と握手しても嬉しくないし。
それよりもそっちの魔法使いみたいな恰好したお姉さんとよろしくしたい。
「《寄り辺》の《サブリーダー》《フラム》よ」
残念ながら綺麗なおてては下腹部の前で重ねられたままだ。
仕方がないので《サンダ》と握手をするとニィっと笑われた。
「ケモミミの姉ちゃん、こいつの《因子覚醒》頼むわ」
「わかりました。《因子覚醒》を行います、よろしいですか?」
今日もネコミミがぴくぴく絶好調だ。
訳も分からずとりあえず首肯。
ネコミミ少女の柔らかな手が俺の頭に触れる。
身長差のせいでつま先立ちになって微妙に震えているのが何とも言えない。
「《H因子》確認、《G因子》確認、《V因子》未確認、腕部損傷、洗礼確認。《H因子》もしくは《G因子》の《覚醒》が可能です。どちらにしますか?」
謎用語を並べられてもなあ。
「Hはヒーロー、Gはガーデン。まあ戦闘職と生産職って言った方がいいだろ。ちなみにGなら色んな《チーム》から引っ張りだこだぜ」
「何で?」
「絶対数が少ない」
まあ、デスゲームで非戦闘職を選ぶのはかなり勇気がいるだろう。
だけど、俺は果たして戦えるだろうか?
今も左腕は痛む。
スライムですら俺の脚を竦ませる。
リザードマンと対峙した時なんてちびるかと思った。
だけど、俺の脳裏にはゾンビのようにさ迷うプレイヤーの姿が浮かぶ。
生産職何かになってあいつらから身を守れるだろうか。
《寄り辺》にスカウトされたとしてもこいつらは俺を守り切れるだけ強いだろうか?
俺の答えは決まった。
「《H因子覚醒》をお願いするよ」




