喪失
腕が痛い。
夢の中でそう感じた瞬間に目が覚めた。
太陽が記憶にある位置よりも東にある。
一日、寝てたのか。
夢であって欲しい、そう思って腰に触れるが、そこにあるべき物がない。
身体を起こすと、チャリンと《ディスク》が音を立てた。
どうしてこうなった。
左腕は今もみょうちきりんに曲がっているし、痛い。
頭は何でだか痛くない。
あれほど殴られたというのに。
「素材屋、行かないと」
今は、無一文だ。
お腹も空いている。考えるのは、食事の後だ。
足を怪我している訳でもないのに足が重い。
「いらっしゃいませ」
自分の頭よりも大きな青い帽子を被った少女が、にこやかに言う。
ドストライクな容姿なのに、テンションが上がらない。
「あの、これ、買い取って欲しいんですけど」
「はい、毎度ありがとうございます!」
そう言って《ディスク》を受け取った少女の目が緑色に変わる。
膝が、震えた。
何で、どうして。
初めて会ったプレイヤーと同じ目の色だった。
「……申し訳ございません。同じ物を後4つはお持ち頂けないと買い取る事が出来ません」
「え?」
聞き違い、だろうか。見間違い、だろうか。
目の前の少女が申し訳なさそうに目を伏せている。
俺の視線から逃れようとしているのか、帽子で目元まで隠して。
「後、4つ?」
「はい、《スライムの欠片》5つで銅貨1枚を支払わせて頂きます」
どうやって《始まりの街》の中央広場まで歩いてきたのかわからない。
ただ目は《太郎》を探していた。
「太郎」
太郎の姿に何時間振りかの安堵が沸き起こった。
だが、当の太郎は首を捻っている。
見た目が、変わってしまったのだろうか?
変わっていなかった。建物の窓に映る自分の姿は20年馴染みのある顔だ。
「んだよその反応は、飯でも行こうぜ。悪いけど今日は奢ってくれ」
「いきなり何言ってんだあんた。てか太郎って誰だよ?」
体温がなくなるように感じた。
「おいおい、ちょっと今そんな冗談に付き合ってる場合じゃ」
「悪いけど、俺用事あるから」
「ちょ、ちょっと待てよ。俺だよ、刹那だよ!」
太郎は非情にも歩き去って行く。
おい、待てよ。昨日までの一週間ずっとつるんでたじゃないかよ。
茫然と立ち尽くしていると、何度も人とぶつかった。
その流れに逆らう気力もなかった。
ああ、そうか。
地べたに座り込み、見上げた光景に、一つの真実を見た。
こいつら、全員NPC何だ。
誰もが満ち足りた顔をしている。
誰もが露店で買い物をしている。
誰もがのん気で、気楽な日々を過ごしている。




