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なんか出現た

「お兄さん、本当に行く?」

《シズク》が螺旋階段を指す。

 辿り着く先は地上だということを、サラが保証している。


「《シズク》ちゃんはこういう大事な時の勘は、絶対外しません」

《カエデ》の瞳に強い光が宿っている。

 ラスボス、もしくはそれに近い何かに必ず遭遇すると、そう口にした。


 道中でわかったことだけど、俺がこの中で一番弱い。

 二人は《チルル》から譲り受けた装備と同等の物を持ち、《大崩落》からこちら数か月、たった二人だけで強敵を屠ってきただけの実績もある。

「二人は足手纏いを庇うタイプ?」

 即座に返事は来なかった。


「私は、わかりません。《キリヤ》くんも《マサト》くんも《シズク》ちゃんも私よりずっと強いですから」

 だから足手纏いなんて存在は知らない。

「私は守れるなら守るけど、余裕がない時は無理かな。私が無理すると、ね」

《シズク》の目配せに、《カエデ》が首を縦に振る。

 どういう意味だろう?


「誰かを守った私を守って幼馴染たちが危なくなる真似は、金輪際ごめんかな」

 顔に出ていたらしい。《シズク》が回答を用意してくれた。

 どうやら、一度無茶をして《キリヤ》辺りが死にかけたようだ。


「困ったな」

 本当に困った。出来れば見届けたい。力になれるものならなってみたくもある。

 だけど自分が足を引っ張ったせいで、この子たちが死ぬのだけは勘弁して欲しい。


「勘では?」

「だから超能力じゃないんだからなんでもわかるわけじゃないって。まあでも人手は多ければ多いほどいいんじゃない?」

 そうとは限らないけどな。まあでも、残れって言われないだけでも何か出来るかもしれない。

 いざとなったら《神衣憑依》でその場を後にしよう。逃げるんじゃなくて勇者たちの足を引っ張らないためにだ。


「サラ」

「ん~、難しいですね。ラスボスとやらの力量がわかりませんし。個人的にはここで《マスター》と二人、お二人とその幼馴染がゲームをクリアするのを待ちたいところでもあります。クリアしたら私がどうなるかもわかりませんし」

 そうか。ひょっとしたら今日でサラとお別れになるのかもしれないのか。

 それは、凄く寂しい。


「お兄さんの好きにしていいよ。私は、私たちが揃っている限り誰にも負けないから」

《シズクと愉快な仲間たち》という仲間に、絶対の信頼があるのだろう。

《シズク》の顔に気負いは見られない。

 そういうことなら仕方がない。


「行くよ。《マサト》も《キリヤ》も今ここにはいないんだから。それまではお兄さんが保護者として付いて行きましょう」

 俺のその物言いが気に入ったのか、《シズク》がからからと笑う。

「お兄さんが生き残れたら私たちの仲間に入れてあげるよ」

「お前らみたいな子供の中に俺みたいなのがいたら浮くだろうが」

 実際はどんな集団でも浮くだろう。今までの経験でよくわかる。


「それじゃ、行こうか《カエデ》、お兄さん」

 極々自然に《シズク》が先頭を歩く。

 きっと、幼馴染たちはいつも今の俺と同じ光景を見ているのだろう。

 小さな背中だ。《キリヤ》と《マサト》を見た限りでは高校生くらいの年だと思う。

 でも《シズク》をそうとは見えない。人によっては小学生だと見間違えるはずだ。

 だけど何故だろう。その背中は、あまりにもカッコいい。


 螺旋階段に、硬質の音が響く。

 まだ日の光は届かない。


 ゲームクリアか。唐突過ぎて実感がわかない。

 この世界に来てから俺がやったことと言えば、なんだろう。

 現実世界に戻った時、俺はどうなっているだろう。とりあえずバイトはクビになっているのは間違いない。

 この子たちはどうしてゲームクリアをするのだろう。わずか一年と少し、だけど彼らにとっては大事な時期だ。そんな時期にリアルから切り離されて、もう一度帰る。怖くないのか。


 日の光が差し込んできた。

 俺が地下にいたのは2週間ほどだ。その俺ですら懐かしい明かりは、数か月はいたという彼女たちにどんな感情を与えるのだろう。


「《ブルーベル》!」「《グリーンベル》!」

 太陽の下に出た瞬間、二人が叫ぶ。

 青い光の球に見える《シズク》の《精霊》、それの緑色版の《カエデ》の《精霊》、二人は《精霊憑依》を始めた。

 そして次の瞬間だ。二人が叫び終えた直後と言える、

「《動くな》」


 天使。それが最も近い例えだろう。

 そんな羽の生えた一人の男が、わずかに驚きを見せつつも、手をこちらに向け命じた。


「驚きました。私が待ち構えていることを知っていたのですか?」

 天使はありがちな勝ち誇る顔も、激情に身を任せることもなくただ静かに問う。

「なんとな~くヤ感じがしたから、先に助けを呼ばせて貰ったよ。ビンゴだったね、チーターのGMさん」

 ヤバい。付いて行けない。


「残念でしたね、助けは来ませんよ。今頃キリヤさんは《アル》と、《マサト》さんは《イル》と、それぞれ戦闘に入っているはずです。申し遅れました、《ウル》と申します。それから訂正しておきましょう。私はGMではありません」

「まあどっちでもいいよ。どっちにしろそっち側でしょ。ズルいな~、人の動き奪うなんて。どうしようもないじゃんこれ」

 うん、付いて行けない。

「こちらにも事情がありますので。多くは語りませんがとりあえず死んでください」

 そう言って天使は自分の身体の前に剣を顕現させるとそれを握り、《シズク》へと歩み寄っていく。

《ウル》が堂々と《シズク》へと歩を進める。まるで攻撃は受けないといった様子だ。


《シズク》には何か考えがあるのだろうか。されるがままになっている。

 そして、さすがに見過ごすわけには行かない段階になった。

《ウル》が《シズク》目掛けて剣を振り下ろす。


――きぃん。


 俺の双剣がそれを遮る。

 確認した《シズク》の顔を見て、俺はそっくりその表情を返した。

《シズク》と同じ仕草。つまりは、瞬きを繰り返す。


「《マスター》、動けるんですか?」

 サラが妙なことを口走っている。

 いや、別にこの天使ドスとかないし動くなとか言われたくらいで、ねえ。


「《動くな》」

《ウル》が再び俺に掌を向ける。


 大丈夫だろうか。空気読めとか言われないだろうか。

 まあ、なんか、イケメンってムカつくし。

 まあ、いいか。

 空気とか元々読めないしな!


 俺は思いっきり《ウル》目掛けて双剣を振るい、弾かれた。


 おい、ざけんなこのクソチート野郎。

 どんだけ防御力高いんだよ。

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