力
何とか気を失わずに済んだ。
ちなみにどんぐりにもおにぎりにもなれなかった。なりたくもなかったけれども。
転がって行った先には穴が開いていて、それに落ちた。
辿り着いた先に、ねずみやらなんやらはいない。
以上が俺の現状だ。
「何か言うことはありますか、バカバスター」
飛びながら、追いついてきたサラの開口一番だ。
もう少し心配してくれてもいい気がする。
「地面が氷よりも滑った」
これは本当のことだ。
俺は元々慎重に歩いていたにも関わらず、天地がわからなくなるという表現がしっくり来るほど転がった。
普通ではあり得ない。
「言われてみれば確かに。バカバスターはともかく巻き込まれた《シズク》さんたちに、それを助けられなかった《キリヤ》、《マサト》のことを考えるとそういったこともあるかもしれませんね」
何か評価が俺と勇者共で差があり過ぎじゃないですかね?
仕方がありませんね。だって俺だし。
「わかりました、今回は不問にします《マスター》」
すでに三回ほど酷い呼び名をされたけどそれについてのお詫びはない模様。
いや、いいんだけどね。
「それよりここどこ?」
「わからないです」
びっくりだった。
「あれ?」
「私にだってわからないことありますよ?」
そんなびっくり大辞典扱いされても困ります。そんなふうにきょとんとしている。
その顔は俺の好みだけど今はそんな顔だけだと困る。
「上、戻れるかな?」
「無理っぽいですよね~」
二人して見上げてとほほ。もとい口を開いたままでいるしかない。
穴から差し込む日光は、まるで直下だけを照らすライトのようだ。
「俺を抱えて飛ぶとか」
「誰がですか?」
「サラ」
冗談です。言う前にサラの半眼を向けられた。
「でもここにいるのは不味いです。《世界の声》が聞こえません」
「それってどうなるの? 《神衣憑依》使えなくなるとか?」
もしそうならかなり厳しい状況だ。切り札が使えないのと使わないのでは大きく異なる。
「そんなことはありませんけど、例えば現在地を把握することは出来ませんし、何かに遭遇した時の危険度などもわからないです」
聞いた限りではそれは普通のプレイヤーの状況のように聞こえる。
チートの一部が使えなくなったくらいだ。まあ、大丈夫だろう。
という時にピンチが訪れるのが俺である。
「何かゴツイの来たね」
「ですね。どうします?」
《神衣憑依》するかどうかということだろう。
「ヤバくなったらお願い」
リザードマンから、
out→鉄の胸当て、鉄の剣
in→黄金の全身鎧、光輝く剣。
とりあえず、めちゃくちゃ強そうだった。
「どう思う?」
「わからないですね」
ひとまずサラは、俺の胸の内に収まった。
「《具現化》――んん?」
《キリヤ》に《形態変化》して貰った《武器》に関しては初《具現化》だ。
形が、おかしい。
剣の形。これはいい。ただ何故か柄から鎖が垂れ下がっている。
よくよく見てみると鎖は、柄の左右に付いているそれぞれの輪に端が繋がっていた。
「どう使うんだ、これ」
そんなみょうちきりんな武器をしげしげ見つめている内に、金リザードマンが迫る。
金リザードマンが剣を振るう。それを真後ろに跳んで避ける。
失策だった。
輝く剣からは、衝撃波が生まれ、それを俺は真正面から受けた。
足は地面から浮き、後転を繰り返すように吹っ飛ばされる。
「痛っつー。サラ、《防具》の《耐久値》は?」
「1割もっていかれました」
つまり、後9発分なら何とかなる。
しかし、《防具》を失った後に今の衝撃波を受けたらと思うとぞっとした。
そして、自分の《武器》を見て絶句する。
剣は、半分に割れていた。折れたのではない。刀で切った銃弾、その銃弾の立場。刀が切られたように俺の剣が割れている。直ぐに怒りが湧き上がる。
「あんの野郎、鈍らどころの騒ぎじゃねえ!」
頭にはメンゴメンゴなんてしている《キリヤ》の姿が浮かぶ。
「サラ!」
「はい!」
俺の脳裏にサラの全体像が浮かぶ。
そのサラの動きをトレースし、俺は金リザードの脇を通り過ぎる。
そして、別の金リザードに出くわした。
前後を、挟まれた。
サラの息が、少しばかり荒い。
「《マスター》、まだ大丈夫です」
「ごめん、お願い」
連続の《神衣憑依》だ。
サラの顔に、脂汗が浮かぶのまで見て取れる。
歯噛みをしながら2体目の金リザードの脇を通り過ぎた。
そして、3体目の金リザードが目の前にいた。
「おいおい嘘だろ!?」
「ま、だ、いけ……」
嘘だ。次使えばサラは倒れる。
直感的に感じた。
ここまで追いつめられてようやく閃く。
「あ、これもしかして双剣じゃね?」
鎖の意味はまだわからないけれど、左右に分けて持つといやにしっくりと来た。
2体目が背後から来るかもしれない。サラが不調の今、ゲーマーとしての自分の勘だけが頼りだ。その勘が言う、2体同時を相手取るのは不可能だ。
つまり、1体目から俺たちは判断をミスった。
3体目と対峙する。相手は輝く剣をこちらに向け、俺は双剣もどきを構える。
攻撃力から察するに一撃で終わるとは思ってはいけないだろう。
一歩踏み込み、横に跳ねる。
元居た場所に、衝撃波が通り過ぎた。
《神衣憑依》を用いない強敵との戦いは初めてに近い。
まだあと1撃を回避しなければならないだろう。
《神衣憑依》を使えば俺のターンになっていただろうけど、
ないものねだりをしても仕方がない。
金リザードがもう一度剣を振り始める。
想像よりも動作が緩慢だ。
振り切る前に、右の剣で金リザードの輝く剣を抑えた。
重い。
足の裏が地面にわずかに沈みこむ。
幸い折れることはなかったが、片手では抑え切れないほどの力があった。
左の剣を手放す。
そして右の剣へと両手を割り振る。
こう着状態だ。
一気に右側に跳ぶ。
抵抗を失った金リザードの剣が地面に刺さり、あさっての方向に衝撃波が生まれた。
「よし!」
隙だらけの金リザードの胴体に剣を振るう。
一度金リザードを切断しきり、金リザードの身体にノイズが走る。
それから元の金リザードの姿に戻った。
《部位破壊》は起きていないがダメージは与えたということだ。
もしも金リザードの《防具》に剣が弾かれていたら終わっていただろう。
それからはヒット&アウェイだ。
衝撃波を避けては斬る。
避けては斬る。
2度3度繰り返し、ようやく金リザードは光の粒になった。
勝った。初めて独力で勝った瞬間だ。
深く息を吐き、そして、周囲から注がれる金リザードたちの視線に気づいた。
その数は、10はいる。
「嘘だろ……」
腕は疲労から倦怠感を覚え始めていた。




