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矜持

 プリマヴェーラが牢獄に入れられてから、一ヶ月近い月日が流れた。


 牢獄の中は時間の感覚が曖昧で、日に二回、支給される粗末なライ麦パンと、薄い野菜スープの食事だけが、日付の感覚を取り戻されてくれた。


 あれからライルは、ルシオに会議の為に呼ばれ、プリマヴェーラの元から去って行った。

 その時のルシオから浴びせられた憎しみのこもった視線は、プリマヴェーラの心を容赦なく抉ったが、今では心の整理が多少はついたので、もう思い出して泣き出すこともない。


 あの日以来、ライルは一度もここへ足を運んでくれなかった。

 薄情、そう思った時期もあったが、食事を差し入れてくれる給仕係のサリーが逐一教えてくれる外の様子を聞いて考えが変わった。

 サリーは襲撃の際、街へ買い物に出かけていたので、奇跡的に難を逃れた屋敷の元使用人だ。

 プリマヴェーラも彼女をよく知っていたし、このような状況になっても献身的に尽くしてくれる彼女の為に、決して暗い顔はしないと決めていた。逆にサリーの方がプリマヴェーラの元気な顔を見る度に涙するので、プリマヴェーラはすっかり泣くのを忘れてしまっていた。

 サリー曰く、ライルは会議の中心で精力的に発言し、貴族の特権の廃止と、民の権力の獲得に尽力していると教えてくれた。

 非難の対象とされた貴族たちも、国庫を見て現状がいかに追い込まれているかを知り、この状況を打破できるならと、余り大きな反発もなく、話し合いは順調に進んでいるようだった。

 全てが上手くまとまれば、階級による差別がなくなり、きっと皆が笑顔で暮らせる。

 サリーの言葉にも熱が入り、国が生まれ変わろうとしている様子がまざまざと伺えた。

 そんな外の世界の様子を夢想しながら、プリマヴェーラは日々を過ごした。


 体調も徐々に回復し、今では自分の足で立って歩けるまでになっていた。

 牢獄での暮らしにも大分慣れ、最近のプリマヴェーラは、蝋燭の明かりでサリーが差し入れてくれる本を読んで時間を潰していた。


 今日もいつものように読書に没頭していると、食事の時間でもないのに遠くから蝋燭の明かりが見えて来た。


「サリー? どうしたの、何か用?」


 プリマヴェーラは本を畳んでベッドの上に置くと、やって来るであろう訪問者を待った。

 しかし、今日の訪問者はサリーではなかった。


「出ろ。貴様の処遇が決まった」


 全身を甲冑で包んだ騎士が現れ、牢獄の鍵を開けてプリマヴェーラに出るように促した。

 どうやら来るべき時が来たようだ。


「……そう。わかりました」


 プリマヴェーラは神妙な顔で頷くと、自分の足で牢から出た。

 二人の騎士に挟まれる形で、狭い通路を歩く。


「わかっているとは思いますが、くれぐれも抵抗などしないで下さい」

「わかっています。私も王族の端くれ、無様な姿は晒さないつもりです」


 プリマヴェーラが笑顔でそう告げると、騎士達は面食らったような顔をしていた。

 そんな騎士たちに、プリマヴェーラはニッコリと優雅に笑って見せた。

 王族として、最期ぐらいは恥ずかしい姿は見せまいと心に決めていた。

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