邂逅
「ひ……ひっく。エレン……ごめんね……エレン」
プリマヴェーラが床に顔を押し付け、涙を流しながら懺悔の言葉を繰り返していると、
「泣いているとこ悪いのだが、お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」
突然何者かに髪を引っ張られ、無理矢理顔を上げさせられた。
どうやら出て行った男の何人かが戻ってきたようだった。
「生憎と、俺はあの女の言う所の変態って奴でな?」
顔を近づけ、酒臭い息を吹きかけてくる男にプリマヴェーラは激怒する。
「卑怯者! たった一人相手に大勢で襲い掛かるなんてこの恥知らず! エレンを返せ!」
プリマヴェーラが男に向かって唾を吐きかけると、男はニヤリと笑い、
「おらよ!」
いきなりプリマヴェーラの頬を殴り飛ばした。
「ガハッ……グ……ゴホッ、ゴホッ!」
殴られたプリマヴェーラは、おもちゃのように吹き飛び、サイドチェストに叩きつけられた。
頭を強打した所為か、視界がクラクラする。
焦点が定まらず、ぼんやりとしているプリマヴェーラに、男が更に殴りかかる。
「このっ! このっ! いいか? 俺はお前等貴族達の所為で、両親と妹が死んだんだよ! 狩りとか言う、貴族の遊びに巻き込まれてな! 両親と妹が目の前で殺される時に、見ていることしか出来なかった俺の気持ちがお前にわかるか!?」
「狩……り?」
その言葉にプリマヴェーラの脳裏浮かぶのは、アニクスィから聞いた騎士が行う流行の催し物だという「狩り」と、プラトーの街で仲間から聞いた「狩りの時間」という言葉。
「あいつ等、楽しそうに笑いながら人を殺しやがるんだ! わかるか!? あいつ等にとって俺たち平民は、その辺の鹿や兎と変わらない、ただの獲物だっていうんだ!」
つまり狩りとは、騎士が民を遊び半分で殺すことだった。
その事実に、プリマヴェーラは眩暈を起こしそうになる。
自分の親族は、守るべき民を体のいい玩具程度にしか思っていなかった。
そんな虐げられていた人を前に「知らなかった」そんな一言で許されるはずがない。
「ご……めん……なさい。ほ……とうに………………なさい」
許されないとわかっていても、プリマヴェーラは涙を流しながら謝り続けた。
その様子に、男は一瞬呆気に取られたが、すぐに表情に怒りの色が灯る。
「ああ? 何言ってんだ。今更謝ったところで許さずはずないだろ!」
そう言って男は、プリマヴェーラを尚も殴り続けた。
それから、部屋の中にプリマヴェーラを殴り続ける音だけが何度も、何度も響く。
やがて何も反応を示さなくなったプリマヴェーラを見て、隣に控えていた男が慌てて止めに入る。
「おい! もう、止めろ。そのまま殺すつもりか?」
「あ、ああ……悪い。そうだな。お楽しみはこれからだな」
男は汗を拭って拳についた血を振り払うと、プリマヴェーラの体をまさぐりはじめた。
男の手が体に触れる度に、プリマヴェーラは吐きそうな悪寒を覚えるが、体中の痛みが酷過ぎて、既に抵抗する気力すら失せていた。
「ハハ……急に大人しくなったな。おい、このまま……」
「ああ、わかっている」
男たちは頷き合うと、プリマヴェーラの衣服に手を伸ばし、そのまま引きちぎった。
中から出てきた幼い肢体を見て、男の顔が更に醜悪に歪む。
素肌を晒されても、プリマヴェーラはそれを隠すことすら出来なかった。
男は溢れてきた生唾を飲み甲と、その手をプリマヴェーラへと伸ばした。
その手が、プリマヴェーラの肌に触れるか触れないかの所まで伸ばされた時、
「おい、そこで何をしている」
部屋の入り口から新たな侵入者の声が響いた。
「まさか貴様等、掠奪行為なんかしてないだろうな?」
「え? あ…………はい。それはもう……」
男が愛想笑いを浮かべながら返事をするが、侵入者は何か思うところがあったのだろう。無言で男へ歩み寄ると、倒れているプリマヴェーラを覗き込んだ。
「――っ!?」
現れた侵入者と目が合った瞬間、プリマヴェーラは声にならない悲鳴を上げた。
声を聞いた時にもしやと思ったが、侵入者の正体は、プリマヴェーラのよく知る人間だった。
辛い時、苦しい時、絶望に打ちひしがれそうな時、どんな時も隣で付き従ってくれ、励ましてくれた、ジャンヌにとってかけがえのない家族、ルシオだった。




