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痛悔

 すると突然、入り口の扉が大きな音を立てて吹き飛び、誰かが部屋になだれ込んで来る。

 それは手に武器を持ったみすぼらしい姿の男たちだった。

 侵入者は手に持った武器を、一斉にプリマヴェーラ達に突きつけた。


「な、何ですかあなた達は!?」


 エレンが震えながらも、侵入者に必死の形相で訴える。


「ここにはあなた達が望む人物はいないわ! とっとと出て行って!」


 すると、侵入者はお互いの顔を見合わせ、

 ニヤリと、思わず鳥肌が立つようなとても嫌な笑みを浮かべた。

 侵入者は互いに頷き合うと、一斉にエレンへと手を伸ばす。


「キャアアアアアアア!!」


 エレンは必死に抵抗するが、あっさりと侵入者に組み伏せられてしまう。


「ちょっとあなた達、何をしてるの!」


 エレンの危機に、プリマヴェーラは咄嗟にベッドから這い出ようとするが、


「あ……」


 体が思うように動かず、ベッドから落ちてしまった。

 痛みに顔をしかめながら、自分の体を見てみたプリマヴェーラは、


「これが……私?」


 痩せ細り、骨と皮だけになっている自分の手足を見て絶句する。

 こんな体では、剣を取って侵入者を相手に戦えない。

 目の前の危機を、エレンを助けられないではないか。

 それでも何か出来ないかと体を動かそうとするが、半年間ベッドから一歩も動いていなかった体はまともに機能せず、立ち上がることすら出来なかった。

 余りにも惨めで、情けなくて、プリマヴェーラは泣き喚くように叫んだ。


「お前等、その汚い手でエレンに触るな! ここから出て行け!」


 無駄だとわかっていても、叫ばずにはいられなかった。

 当然、そんな言葉で侵入者は出て行くはずもなく、逆に今まで眼中になかったプリマヴェーラに侵入者の視線が集まった。


「何だ、このガキは?」

「さあな、だが着ている物は上物みたいだぜ」

「ということは貴族の娘か? こんな痩せ細ったガキが?」

「知らねえよ。でも顔は……まあまあじゃねえか」


 その一言で、侵入者のプリマヴェーラの見る目が変わった。


「――っ!?」


 浴びせられる不快な視線に、プリマヴェーラは寒気を感じた。

 侵入者はプリマヴェーラでは到底抵抗出来ないだろうと踏んで、余裕の笑みを浮かべながら、誰がプリマヴェーラを襲うか相談し始めた。

 すると、屈辱に耐えるように下唇を噛み締め、顔を伏せていたエレンが、


「クックックッ……」


 突然、肩を震わせて笑い始めた。

 気でも狂ったかのように高笑いを続けるエレンに、侵入者は眉根を寄せる。


「な、何が可笑しい!?」

「何が、ですって? これが笑わずにいられるかというのよ」

「……どういう意味だ」

「あなた達、革命軍と名乗っている連中でしょ? 王を倒し、民を圧政から解放するとか嘯いてるらしいけど、この状況を見る限り、結局やってる事は掠奪し、女を襲うだけの野盗と同じじゃないの」

「な、何だと!? 我々を侮辱するとは……死にたいのか?」

「あら、最初からそんなつもりはないんでしょ? だって、あなた達の狙いは女の体、革命と銘打って自分の欲望を満たせれば充分なんでしょう?」


 エレンはフンと鼻を鳴らすと、嘲るように男たちを睨み、言葉を紡ぐ。


「何が革命よ。男たちが雁首揃えて何を話し合うかと思ったら、年端も行かない子供を誰が襲うかだなんて……ちゃんちゃら可笑しくて笑っちゃうわ」

「こいつ……調子に乗るなよ!」


 侵入者の一人が怒りを露わにすると、エレンを無理矢理立たせて頬を張ると、襟を引っ張って服を引き千切った。

 下着が晒され、侵入者の視線が集まるがエレンは一向に気にしない。

 それどころか、自分の服を更に破って肌を晒すと、妖艶に微笑む。


「こんな気立てのいい女が目の前に居るのに、この私を無視するなんていい度胸じゃない」

「……何が言いたい」

「あなた達が余りにも哀れで情けないから、この私が相手をしてあげるって言っているのよ。それともあなた達は子供にしか反応出来ない可愛そうな人なの? ハッ、とんだ変態野朗ね」


 エレンに捲くし立てられ、男たちは顔を真っ赤にして憤怒の表情を浮かべる。


「この女……いいだろう。もう、泣いても許してやらないからな」

「ぶっ壊れるまで相手をしてやるよ」

「ああ、舐められた礼は返してやらないとな」


 エレンの挑発に、侵入者は一様にいきり立つ。


「受けて立つわ。精々、ガッカリさせないで頂戴」


 エレンはペロリと自分の唇を舐めると「行きましょ」と顎で扉の外を示す。


「ま、待ってエレン!」


 今すぐにも立ち去ろうとするエレンの背中に、プリマヴェーラが慌てて声をかける。

 だが、エレンは聞こえていないのか、そのまま部屋を出て行こうとする。


「おい、姉ちゃん。いいのか? 呼んでるぞ」

「ずっと世話をしてきたご主人様なんだろ。それにしちゃ随分と冷たいじゃないか。よし……なら、ここは俺が……」


 そう言いながら、一人の男がプリマヴェーラの元へ行こうとすると、


「――――っ!?」


 エレンが急に振り返り、早足でプリマヴェーラの元へ駆け寄った。


「エレン……」


 プリマヴェーラが思わず声をかけると、エレンは膝をつき、突然プリマヴェーラの頬を張った。


「エ、エレン?」


 驚いてプリマヴェーラが目を向けると、そこに居たのはいつも優しい笑顔を浮かべている家庭教師ではなかった。


「……エレン、エレンってうるさいんだよ!」


 エレンはプリマヴェーラの襟を掴むと、今まで見た事もない顔で睨んできた。


「今までお前みたいなクソガキの面倒を何で私が見てきたと思う? 金だよ。お前のような動けないガキの面倒を見るだけで、普通では絶対に手に入らないような大金が手に入るからだ」

「な、何を言って……」

「だが、それもお終いだ。この際だから言わせてもらうが、何日も風呂に入っていないお前の体、臭いんだよ。仕事じゃなければ、お前なんか絶対に触りたくないの。わかる?」

「ひ、酷いよ。エレン……本当にそんな風に思っていたの?」


 プリマヴェーラは目に涙を一杯に溜めながら懇願するように尋ねる。

 その問いに、エレンは一瞬だけ表情を曇らせたが、直ぐに気を取り直し、


「と、当然でしょ。お前みたいな薄汚いクソガキは、そこで誰にも相手にされず、野垂れ死ぬがいいわ」


 そう冷たく言い捨てると、プリマヴェーラを突き飛ばした。


「ほら、あんた達とっとといくわよ。こんな所に居ると、あのガキの臭いが体に染み付くわよ」

「お、おう」

「確かにさっきから何か臭ってると思ったら、あいつの臭いだったのか……」

「まあ、例え違ったとしても、あんなみすぼらしいガキ、誰が相手にするかってんだ」


 男たちは、プリマヴェーラを汚い物を見るかのように一瞥して去っていく。

 そんな男たちの視線よりも、プリマヴェーラはエレンに言われた事の方がよっぽど痛かった。

 クラフト同様、エレンは生まれた時からずっとプリマヴェーラの世話をしてくれた。


 いたずらをしたら厳しく叱ってくれた。

 稽古事が上手に出来たら、抱きしめて褒めてくれた。


 これまでの楽しい事、辛い事、泣きたくなる事、その全てを共有してきたつもりだった。

 だが、それも全て嘘だったというのか。

 全てはお金の為、だったというのか。

 プリマヴェーラは、どうしてもエレンの言葉が信じられず、最期の最期までエレンの姿を目で追い続けた。

 男たちを追い払ったエレンは、部屋から出て行く直前、ちらりとプリマヴェーラを一瞥した。

 その時のエレンの顔は、まるで取り返しのつかない過ちを犯してしまった咎人のように、辛そうで、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 その顔を見た瞬間、プリマヴェーラは全てを理解した。

 その証拠に、エレンは部屋から出て行く直前、声には出さずに「ごめんなさい」とプリマヴェーラに謝って去っていった。


「いや、行かないで。待って、待ってよ。エレン……」


 エレンの真意に気付いたプリマヴェーラが泣きながらエレンの名を呼んでも、その声はもはや届かない。

 エレンはプリマヴェーラを救う為、自分を犠牲にしたのだ。

 男たちを誘惑したのも、体が臭うと言ったのも、彼等の興味をプリマヴェーラから外す為、そう考えれば、先程のエレンの言動も全て説明がついた。


「エレンどうして……私なんかの為に……」


 プリマヴェーラは嗚咽を漏らしながら、弱々しく何度も地面を叩く。

 エレンがこの後どうなるのかは、プリマヴェーラにはわからない。

 本来なら、騎士となる自分がエレンを助けなければならないのに……それどころか、まともに動く事すらままならない今の自分の体がとても憎かった。

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