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人狩り

 残されたルシオは、脇腹の様子を見ながら立ち上がる。

 決して浅くない傷、血が次から次へと溢れ、立っているだけで意識が飛びそうになる。

 こんな事なら鎧を捨てるんじゃなかった。そう思うが既に後の祭りだ。

 ルシオは歯を食いしばって槍を腹から抜くと、傷口を着ていた服で縛って応急手当をして、追跡者へ備えた。


 ジャンヌを救う。それでもって絶対に生き延びてみせる。兄貴たちだって何処かで生きているはずだ。自分が先に諦めてたまるか。

 絶体絶命な状況の中でも、ルシオは何一つとして諦めていなかった。


「なんだ、どうやら今回もハズレだったようだな」


 ほどなくして黄金の鎧を着た騎士と、その部下二名がルシオを囲むように立った。

 もはや自分たちの絶対的有利は覆らないと確信しているのか、黄金の騎士は傷ついたルシオを見て余裕の笑みを浮かべていた。


「まあいいじゃないか。こっち方面の残る得物はたった三匹だろ? 本命の聖女様は最後まで残っていた方が盛り上がるじゃないか」

「違いない。こんなところで狩りが終わったら、あっけなさ過ぎる幕切れだしな」

「だが、こっちに逃げたのが本物の聖女という保証はあるのか?」

「本物だろ? 奴等は必ずオルブライトの領内に逃げるはずだ。そう考えれば、連中の中に聖女がいる可能性が一番高い」

「どうでもいいさ。どちらにしても今回の狩りは、一番多く得物を狩った余の勝ちで終わるだろうしな」


 そう言って大声で笑う黄金の騎士を見て、ルシオは眉を顰める。


「狩り……だと? お前等はあの虐殺行為を狩りだと言うのか?」


 憤懣やる方ないといった表情のルシオを見て、黄金の騎士がニヤニヤと笑う。


「あれ、聞こえちゃった? そうだよ。狩りだよ。余が考えた画期的な貴族様の遊びってやつだ。獲物は貴族に飼われる以外、価値も無いそこら辺の民草。一人殺せば一点、武器等で武装した人間を殺せば三点。それで一番多く点数を獲得した者が勝ち。簡単なルールだろ?」


 黄金の騎士は、まるで幼い子供が自慢するように無邪気な笑顔で語る。


「く、狂ってやがる……」

「狂ってる? 違うな。これの素晴らしさが理解できないのは、お前が無能な民草だからだ。無能故、高貴なる余の考えが理解出来ないだけで、余は至って正常だ」


 その言葉に、残りの二人も大きく頷く。

 周りからの同意に黄金の騎士は満足気に頷くと、ルシオの首筋に槍をピタリと当てる。


「そういうわけだ。お前はここで死ね」

「ハハッ、精々抵抗してくれよ? 最近、同じ様な格好した騎士を何人か狩ったけど、どいつもこいつも手ごたえ無さ過ぎてつまらなかったからな」

「そうそう、まともだったのはプラトーで戦った弓使いだけだったな」


 弓使い。その言葉を聞いた途端、ルシオの全身が総毛立つ。


「おい……今、何て言った?」

「ああん? 何だこいつ」

「弓使いをどうしたんだと聞いたんだよ! 答えろ!!」


 ルシオの余りの気迫に、黄金の騎士達は思わずたじろぐ。


「……お前、あの弓使いの何だ?」

「………………弟だ」


 唸るように言葉を絞り出したルシオを見て、三人は顔を見合わせる。


「弟だと……クッ……ククッ……」


 すると、三人は同時に大声で笑い出した。


「お前、あいつの弟なのか」

「な、何が可笑しい!」

「これが笑わずにいられるかってんだ。お前の兄がどうやって死んだか知ってるか?」

「死んだ……だと?」


 ミシェルが死んだと聞かされ、ルシオは側頭部をハンマーで殴られた様な衝撃を受ける。


「あいつは中々手強かった。五人がかりで挑んで、二人も殺されてよ」

「ああ、遮蔽物を巧みに使っての精密射撃。あれほどの逸材は中々お目にかかれないかもな」

「だが、あの冷静に戦っていた男がな……ククッ」


 左側の騎士が下卑た笑みを浮かべる。


「あの男、隠れていた自分の女が見つかった途端、目の色変えて突撃して来たんだよ」

「そうそう、せっかくだから目の前で女を串刺しにして、首を切り落としてやったらあいつ、敵の前だというのに突然、わんわん犬みたいに泣き始めたんだぜ」

「亡骸を抱えていつまでも女の名前を叫んでいたよな。煩かったからそのまま首を切り落としてやったんだけど、いやー、傑作だったな」

「女ごときであんなに取り乱すなんて、仮にも騎士になった男としてはどうかしてるぜ」


 ミシェルを殺した時の様子を思い出したのか、騎士たちは声を揃えて笑い出した。


「貴様等ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ミシェルとマリータを殺され、更に愚弄されたことに怒りで我を忘れたルシオは、脇腹から血が噴出すのも構わず、叫びながら騎士の一人に斧で斬りかかった。


「んなっ!?」


 完全に虚を疲れた騎士は、ルシオの攻撃に反応が遅れ、驚愕の表情を浮かべる。

 斧は馬上の騎士を、馬毎両断するものと思われたが、


「ぐぅ……」


 抉られた脇腹からの痛みに、ルシオの手元が僅かに狂った。

 その為、騎士を両断するはずだった斧は、馬の首を切り落とすに止まった。


「おわっ!?」


 それでも急に馬が力を失った為、騎士は馬上から地面に叩き落される。

 斧を振りぬいたルシオは、苦悶の表情を浮かべてその場に跪く。


「こいつ!」


 ルシオの後ろに居たもう一人の騎士が槍を構えると、ルシオの頭部を穿とうとする。

 その接近に気付き、顔を後ろに向けるが、怪我をしたルシオにはそれが精一杯だった。

 空気を切り裂き、槍がルシオに迫る。


「クソッ! 俺はこんなところで死ぬわけには……」


 槍がルシオの右目に、深淵の穴を開けようとした瞬間、


「やああああああああああああああああああ!!」


 ジャンヌが目にも留まらぬ速さで飛び出して来て、ルシオに迫る槍の柄を真ん中から断ち切って見せた。

 ジャンヌは返す刀で、折れた槍を持ったままの騎士へ斬りかかるが、


「ちいっ!」


 騎士は咄嗟に槍を捨て、手綱を強く引き絞ると馬を引いて斬撃をかわした。


「新手か!? お前等、一度体制を整えるんだ」


 黄金の騎士の命令で三人は一箇所に固まると、ジャンヌと睨み合った。

 ルシオを一瞥したジャンヌは、油断無く武器を構えたまま話しかける。


「ルシオ、大丈夫?」

「ジャンヌ……どうして?」


 逃げなかったのか? と目で訴えかけるルシオに、ジャンヌは泣きそうな顔で笑いかける。


「私はこれ以上、仲間を……いえ、大切な家族を、ルシオを見捨てたくなかったの」

「でも……そんなのライルが許すわけ……」

「うん、だからライルは見捨ててきちゃった」


 ジャンヌは悪戯が見つかった子供のように、舌をペロッと出した。

 そんな馬鹿な、と思ったルシオは、ライルがいるはずの丘を見やる。

 そこにライルの姿はなかった。

 まさか、一人で逃げたのか? ジャンヌを見捨てて?

 驚愕するルシオの疑問に答える者はいなかった。

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