新たなる任務へ
結果として、ジャンヌの言葉通り、教会の祭壇の下には隠された部屋があり、そこから古びた武具の一式が出てきた。
だが、それらは長い間放置されていた所為か酷く錆びており、オルブライト卿の命令で、それらの防具を街の鍛冶屋で一度鍛え直してもらうことになった。
叙任式が終わり、解散となった後も話題の中心はジャンヌの言葉だった。
教会の人間でも知らなかった部屋の存在を知っており、そこにあった錆びた武具。
それは一目見て何十年も前の品だというのがわかったが、それがジャンヌのサイズにピッタリ合ったとなると、敬虔な人でなくても、もしかしてと考えてしまうだろう。
あの装備一式は伝説の聖女の物で、ジャンヌは聖女の生まれ変わりではないのかと――
あの場にいた人間は、興奮冷めやらぬ感じでジャンヌの話を街の方々で話した。
ジャンヌが聖女の生まれ変わりという噂は、近い内に街の全員が知る事になると思われた。
「よしよし、そうか。よくやったぞ」
その日の夜。ジャンヌの部屋を訪れたライルは、今日の報告を聞いて満足そうに頷いた。
「あたしも既にその噂は聞いたよ。ジャンヌってばすっかり聖女様になっちゃったよね」
マリータがライルにお茶を出しながら嬉しそうに語る。
「やめてよ……私はライルの指示通りにしただけなんだから」
街の人たちの歓迎振りを思い出したのか、ジャンヌは頬を赤く染め、手に持ったカップで顔を隠すようにした。
「そうやっていれば、年相応って感じで可愛いのだけどね」
マリータは慈愛に満ちた微小を浮かべると、ジャンヌの頭を一撫でして席に着く。
「ところでライル?」
「何だ?」
「どうして教会の祭壇の下に武具一式があるって知ってたんだい? それにあれは本当に聖女様が使っていた武具だったりするのかい?」
「あ、私もそれ、知りたい」
ジャンヌも手を挙げると、マリータと共にライルの言葉を待った。
それを受け、ライルはテーブルの上で指を組むと、その上に顎を乗せて話し始める
「あの武具が誰の物かまでは我も知らない。だが、教会に武具があるのは何ら不思議ではない」
「そうなの?」
「ああ、昔は戦争で敗北した時、生き延びた者が神への感謝の意を伝える為、自分の武具を教会に奉納するのが通例だったのだ。しかし、教会は不殺の場で武器の類の持ち込みは厳禁だ。だから、祭壇の下に秘密の部屋を作って隠したのだ」
「なるほど……じゃあ、サイズがジャンヌにピッタリだったのは?」
「それは今の人間が昔と比べると、食料の充実により栄養が充分に取れるようになって平均身長が飛躍的に伸びたからだ。それにジャンヌも決して小柄というわけではない。当時の人間の平均的な装備品であれば、難なく装備できるというわけだ」
「な~んだ。裏を知っていればそんなに驚くことじゃないのね」
「そういう訳だ。ちなみにこの話は……」
「勿論、誰にもしないわよ?」
話の裏を聞いても、特に驚いた様子を見せないマリータだった。
そんなことより、とマリータが妖艶な笑みを浮かべてライルに問い詰める。
「まさか、そんな報告を聞く為だけに、うら若き乙女が住む部屋に来たわけじゃないでしょ?」
「当然だ。今日は次の任務を伝えに来た」
「……そういう意味で言ったんじゃないだけどな」
「何か言ったか?」
「い~や、何にも」
マリータは虫でも追い払うかのように手を払って嘆息すると、話を進めるように促す。
「……まあいい。話を進めるぞ」
ジャンヌたちが騎士に仕官したように、ライルもまた文官として仕官していた。
ライルはオルブライト卿を救出した翌日から文官として活動しており、ここ一週間はオルブライト卿に代わり、協力者を募る為、各地を廻って領主たちと交渉を行っていた。
そして今日、街に戻ってその成果をオルブライト卿に報告してきたというわけだ。
「と言っても、近場の領主は概ね卿に賛同の意思を示しているからな。我は遠方の大物相手の交渉役として任命されたのだ」
マリータにお茶のおかわりを要求して、ライルは意気揚々と自身の成果を口にする。
「結果として、会談の場を設けることは出来た」
「何だ。協力を得たわけじゃないんだ」
ジャンヌは机に上半身を預けた姿勢で、欠伸を噛み殺しながら言う。
「大口を叩いた割には大した結果が得られなかったのね?」
「……貴様は馬鹿か? 相手はかなりの領地を任されたこの国ではオルブライト卿に告ぐ大貴族、ラパス公爵だ。我が行ったところでその場で良い返事がもらえる訳ないだろう」
「ふ~ん。じゃあどうするの?」
「任務を伝えに来たと言っただろう。明日から卿と共に会談の場へと向かう。そして、その随行者としてジャンヌ、お前も選ばれた。だから今の内に準備を済ましておけ」
「ふ~ん。あっ、そう……え?」
「何を呆けている。騎士筆頭に選ばれたのだから当然だろう?」
「そ、そうよね」
そうだ。騎士筆頭になったんだ。
ジャンヌは自分に与えられた立場を再認識し、小さく頷く。
凛々しい表情になったジャンヌを見て、マリータがジャンヌの体を抱いて励ます。
「大丈夫よ。ジャンヌなら騎士筆頭だって見事に務まるわ。安心して仕事に励みなさい」
「何、他人事みたいに言っているんだ?」
「……え、まさか!?」
ライルに睨まれ、マリータはまさかという表情になる。
「そのまさかだ。今回はかなりの遠征になる故、騎士以外にも、我々を世話する人間もかなりの人数連れて行く事になる。つまり、選ばれたのはジャンヌだけじゃない。今日、騎士になったルシオやミシェルは当然として、その関係者も全員が選ばれたんだ。つまり、貴様も来るんだよ」
「は、はいいいいいいいいいいいいいいい!?」
次の瞬間、石で囲まれたソルの街に、マリータの悲鳴にも似た叫び声が木霊した。




