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アルブル村にて1

 ルシオに案内されて村へ入ると、いくつもの視線がジャンヌとライルを出迎えた。

 辺りから漂ってくる気配は、この村を訪れた二人を歓迎している様子もなく、村人達は誰もが訝しむ様に、二人をまるで村の財産を狙う野盗の類の様に見ていた。

 その明らかに歓迎されていない様子に、ジャンヌは居心地悪そうに顔を伏せた。


「悪いな。普段はここまで険悪じゃないんだが……」

「え、あの……その」

「別に気を遣わなくていいさ。自分たちの状況はよくわかっているつもりさ」


 悲しげな笑みを浮かべるルシオが、自分の村の現状について教えてくれた。

 ここ、アルブル村は丘の上にある小さな村で、牧畜と畑作で生計を立てている村らしい。石で作られた家は約三十戸あり、小さいながらも昔はそれなりに平穏な暮らしをしていた。

 しかしここ数年、政策が急に変わったのか、増税に次ぐ増税により、生活は激変した。

 村人達が必死に家畜を育て、農作物を作ってもその殆どが税として徴収され、その日の食事すらままならない日々が続いているという。

 更にこの事態に拍車を掛けるように、ここら辺りで野盗が頻出しているというのだ。

 アルブル村にはまだ被害は出ていないが、つい先日、隣の村が野盗に襲われ、村人全員が殺されるという事件が起きた。その為、もしもの時に備えようと村で有志を募り、自警団を形成して村の警護に当たっていたところに、ジャンヌ達が訪れたというのだ。


 隣の村、そう聞いたジャンヌの脳裏に焼き尽くされた村の姿が甦り、思わず顔を伏せた。


「だからはっきり言って、大したもてなしは出来ない。すまないな」

「いや、我々は泊めてもらうだけで僥倖だ。それ以上を望むのはこの村には酷だろう」


 謝罪するルシオに、ライルは鷹揚な態度を隠すことなく、応じていた。

 先程からルシオとやり取りしているのは「ここは、任せろ」と言ったライルなのだが、ライルには相手を敬う気持ちが全くなく、口調もジャンヌと対峙している時と同じだった。

 その様子を見て、後ろを歩くジャンヌは、こちらはお願いをしている立場なのにこんな態度でいいのだろうか? 相手に不快感を与え、この村から追い出されてしまうのではないかと先程からハラハラしっ放しだった。

 しかし、そんなジャンヌの心配は杞憂だったのか、ルシオからライルの話し方について特に言及されることはなかった。


「さあ、ここだ。汚いところだが勘弁してくれよ」


 そうこうしている内に、一軒の木造の小さなあばら屋に案内された。

 それは隙間だらけで、今にも崩れそうだが、どうにか雨風だけは凌げる程度の建物だった。


「見た目はあれだが、中に牧草がいっぱい入っている。だから凍える心配はないはずだ」

「うむ。感謝する」


 ライルが笑顔でお礼を言うが、ジャンヌは後ろで固まっていた。

 こんな所で寝ろと? こんな入り口もないに等しい建物で? それに、案内された建物がここ一つということは、まさかライルと一つ屋根の下に寝ろということか?

 いくらなんでも……これは敷居が高すぎる。そう思ったジャンヌは、


「あの、ちょっと待ってもらえまふぐぅ!」


 どうにか別の場所を用意してもらえないだろうか? と言おうとしたのだが、それより早くライルの肘がジャンヌのわき腹に突き刺さった。


「貴様! 何を言うつもりだ!?」

「だって……いくらなんでもこんなとことで二人でなんて……ゴニョゴニョ……」


 顔を赤くするジャンヌに、ライルがげんなりとした表情で言い放つ。


「貴様、その体が人形だということをもはや忘れたのか? それに、貴様が例え本当の体だったとしても、我は貴様のような子供には興味ないから安心しろ!」

「な、何よ! 私は今年で十六よ? もう子供じゃないんだから」

「おいおい、あんな貧相な体で十六だというのか? 冗談は休み休み言え。どう見ても十かそこらの子供かと思っていたぞ」

「な……なんですって!?」


 余りの物言いに、ジャンヌは憤怒の形相でライルに掴みかかる。

 しかし、ライルはそれをあっさりかわすと、ジャンヌに足払いをかけて転ばした。


「もう少しまともな所で寝たかったら、ここは我に任せてお子様はそこで寝ていろ」

「クッ……うぐぬぬぬぬ!」


 転がったジャンヌは、悔しげに歯を食いしばってライルを睨み続けた。


「何だ? どうした?」

「フッ、何でもない。気にするな」


 空気の入れ替えの為、備え付けの窓を開けていたルシオは、肩を竦めて鼻で笑うライルと、床に転がってあられもない格好になっているジャンヌを見て眉を顰めていた。


 それから小屋の使い方の説明を受け、食事は自分でどうにかしてくれと言われた後、自警団の訓練があると言って立ち去ろうとするルシオの背中に、ライルが声をかける。


「ところで、ルシオ殿?」

「ん、なんだい? ルシオ殿なんてくすぐったいからやめてくれ」

「それでは、ルシオ。聞いたところ、この村では自警団を募集しているとか?」

「ああ、そうだけど……まさか?」


 ライルの言わんとするところに気付いたルシオが目を見開く。


「そのまさかだ。もう気付いているかもしれないが、我々は国を追われた元貴族だ。それに、そこにいるジャンヌはこう見えて中々剣の腕が立つ。野盗がどれほどのものか知らないが、ただの野盗が相手なら、まず遅れを取る事は無いだろう」

「ハハ、冗談だろ?」

「いや、本気だ。なんなら試してみるといい」

「…………」


 自信満々で言うライルに、ルシオは笑顔を引っ込めて押し黙った。


「ジャンヌの実力を見るのは今後の貴様等の為にもなる。絶対に損にはならぬよ」


 その言葉を聞いたルシオは、息を飲んだようにライルを暫く見詰めた後

「ここで待っていてくれ」と言って駆け出していった。

 ルシオの様子を見て、満足気に頷いたライルはジャンヌに向き直る。


「さあ、ここからが貴様の見せ所だ」

「ちょ、ちょっと、何勝手に決めてるのよ。それに、元貴族って嘘までついて……」


 ライルの手段を選ばない方法に、ジャンヌは形のいい眉を潜めるが、


「嘘も方便だ。貴族と名乗れば、平民の人間はそれだけで一目置き、話が通じやすくなる。それにここで信頼を得られれば、まともな食事と寝床が確保出来るぞ。何と言っても我々は、この村を助ける貴族様だからな」

「ま、まさか、最初からそれを狙って……たの?」


 ライルの作戦を聞いたプリマヴェーラは、驚きと共に明らかに喜色を浮かべていた。

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