第二話
「んぐっ……ここはどこだ」
気がついて周りを見渡すと、そこは何も無い白い空間だった。
「気が付いたか?ここは数多の世界と神界との狭間にある空間じゃ。お主を儂の世界に連れて行く前に簡単な説明とスキルを与えておこうと思ってな」
「……じいさん、あんたはマジで神様なのか?」
「マジじゃ。じゃからお主の名も聞かんでも分かるぞ。オウカよ、儂の世界について簡単に説明するぞ」
じいさんは異世界の成り立ちと基本的な事を掻い摘んで説明してくれた。
じいさんの世界はミクスといい、元々は魔物しかいない世界だった。しかし知性ある種族が欲しくなり、他の世界の神に頼んで少しずつ分けてもらった結果、今では多種多様な種族が混在する世界になってしまった。
魔法の発動源である魔力は誰でも備わっているが、魔法は全員使えるわけじゃなく才能がある者が使えるらしい。
スキルはステータスを開けば確認する事が出来る。
じいさん以外にも現地人が召喚魔法などで無理矢理召喚させる輩もいるらしく、異世界人の存在は認知されている。だが自分が異世界人だとは言わない方が良いらしい、理由は行けば分かると。
世界が違うので基本的な事に多少の違いがあるが、言語に関しては勝手に共通言語になるようにしてあるので気にしなくて良いそうだ。
それと異世界に来ると、個人差はあるが心身に多少の変化があるらしい。
説明を聞いて呆れてしまった。
(なんか無茶苦茶な世界だな。じいさんの世界だから別に良いけど、やりたい放題やってるな。
けど、言葉が勝手に通じるのはありがたい)
「儂の説明が理解出来たか?」
「大体は理解したよ。いくつか聞きたい事があるんだけど」
「なんじゃ?」
「スキルや魔法に関してと、じいさんの世界の情勢について知りたい。今からどこに行くのか知らないけど、情報はあって損じゃないからな」
「お主、しっかりしとるのぉ。
異世界人にも魔力は備わっとるし、スキルはステータスと念じれば表示されるはずじゃ。魔法やスキルの詳しい事は向こうで調べる事じゃな。
儂の世界はいくつかの大陸があるからその辺も自力で調べるんじゃ。
情勢についてじゃが、それを教える事は出来ん。
儂は神じゃから、誰に対しても無干渉を通さねばならん。しかし、お主が儂の頼みを聞くと言うのなら話は変わってくるぞ?」
「そういう事なら自分で調べる」
嫌な予感がしたので、じいさんの頼みを聞かずに断った。
するとじいさんはがっかりした様子でため息をついた。
(あの演技には騙されないぞ!神の頼みなんて引き受けたらダメだ。絶対碌な話じゃない)
「やれやれ、お主なら引き受けてくれる思ったんじゃがな。……仕方がない。
オウカよ、儂の頼みを聞け!さもなくば、このまま何も力を与えずに魔物の巣窟に放置するが構わぬか?」
「それは流石に理不尽すぎるだろ……」
「別に無理難題を言うつもりはないわい。儂の世界の現状を自分で見聞きし、お主が思うがままに行動さえすれば何をしても構わん。勇者になるもよし、悪党になるもよし、儂の世界を壊さないのであれば好きにしてよい」
(じいさんの手伝いがあまりにも普通すぎる。普通に考えて何かひどい事が起きない限り、神は動かないはずだ)
「俺の自由にして良いのか……。
なぁ、俺が今か行く場所はどういう所なんだ?そこで何が起きている?なぜ俺に手伝わせようとするんだ?」
「……お主、頭がキレるな。ますます気に入ったわい」
(普通に考えれば分かることだと思うけどなぁ)
「聞きたい事が多々あるだろうが、詳しい事は説明してやれん。
簡単に言えば、とある大陸の状態は少々拙い。手を加えねばならんが、神である儂が直接干渉してならんのだ。もし手を下すとなれば公平を期すために全て破壊さねばならん。
一度文明を消した事があるが、元に戻るまで永い時間を要した。儂も二度目をやりたくないからお主に頼むのじゃ」
(やっぱり神のやる事はえげつねぇ……。
じいさんの頼みは聞きたくないけど、引き受けないとこのまま放置だし……。
めんどくせぇなぁ、そもそも何をすれば良いのか全くわからん)
頼みを引き受けるか悩んでいると、焦れてきたのか話しかけてきた。
「しょうがないのぉ。お主に与える力に色を付けるから、ちょっと行って救済してこい」
(ちょっと煙草買ってこいみたいな言い方で、言う内容じゃないぞ!
簡単に救済って言ってるけど、何を救済するんだよ……。
でもじいさんがくれる力がどんな代物かわからんけど、俺の好きにしていいなら何とかなるかぁ)
「オウカよ、儂の頼みを引き受けてくれるか?」
「この状況で断れないだろ!これは頼みじゃなくて脅迫だ!!
……引き受けるよ、俺はここで死ぬ気はないしな。じいさんがくれる力について教えてくれ」
「よかろう。まずは儂の世界に来た時に起こる心身の変化を最大限まで引き上げておく。簡単に言うとお主の心身に関する諸々の強化じゃな。お主は元々身体を鍛えておるようじゃが底上げしておく。他にも五感が通常の人よりも鋭くなり、殺気や威圧なども強化されるはずじゃ。
あとはお主にはこんなのはどうじゃ?ステータスを開いて確認してみぃ、ステータスと念じると表示されるぞ」
言われた通りステータスと念じてみると目の前に半透明の画面が出現した。
【名前】オウカ・カンナギ
【種族】ヒト
【年齢】22
【性別】男
【身分】異世界人
【スキル】弓術 Max
創造召喚 Ex
【加護】
創造神の加護(身体強化 Ex 威圧 Ex 異常状態耐性)
(パラメータ的なのはないのか。弓術はいいとして創造召喚って説明がないとわからんぞ)
「創造召喚ってどんなのか説明ってないのか?」
「知りたいスキルに視線をやってみぃ、説明が出てくるはずじゃ」
言われた通り視線を合わせてみると説明が出て来た。
創造召喚 Ex
自分が創造した物を召喚することが出来る。
召喚するには購入画面でお金を払って買わなければならない。
購入物を保存できるストレージ付き。
「……これは良いのか?」
「悪くはないと思うぞ。お主の好きな煙草も買えるわけじゃしな。ついでにコレをやろう」
じいさんが何処からともなく取り出して手渡したのは、何の変哲もない皮の巾着袋だった。
「巾着袋を貰ってもなぁ……」
「そう焦るな。それは普通の巾着袋ではないぞ。
この巾着袋は魔工師が作るアイテム収納系の魔道具でな、『魔法の収納袋』と言う。袋の中に手を入れてると、脳裏にリストが展開して取り出せるようになっておる。この巾着袋は汎用品の魔道具じゃから、中に家一軒分くらいの物が入る空間があると思え」
「なるほどね。この袋が汎用品の魔道具って事は、汎用品じゃない物もあるのか?それと創造召喚に付いてるストレージとは違うのか?」
「魔道具は誰にでも使える汎用品と使用者を登録する専用品の2種類ある。汎用品はランクごとに内容量が変わり、内容量が大きくなるほど値段も高くなっていく。専用品は使用者の魔力の総量に比例して内容量が変わるようになっているんじゃ。
ついでに教えておくが、装備品には魔法が付加されておる物もあるのじゃ。靴を例にあげると、靴を履くと自分の足に自動的にサイズが合うようになっておる。
武器以外の装備品にはサイズが合うように全て魔法が付加されているが、衣服については魔法が付加されておらんからな。
原理については魔法なのだからあまり気にするでないぞ。
ストレージは収納袋とは別次元じゃ、上限なしの自分用の亜空間があるとでも思っていればよいかの」
「なるほど」
じいさんの説明を聞きながら巾着袋に手を入れてみた。すると、頭の中にリストが浮かんできた。
(便利な世界だなぁ。この袋の中には弓矢とサンダルが入ってるのか)
試しに弓矢を取り出してみた。
弓矢は使い慣れた和弓ではなく、普通の弓矢だった。
(じいさん、俺の部屋に弓があったのを見てたのか。神様がくれる物だから良い物を期待したんだが、これはどうみても普通だな。
でも弓があるのは助かる。じいさんの話を聞いた感じだと、武器は必要そうだからな)
「忘れておったが、お主以外にもこの世界に来た同郷の転移者がおる。その者らは、儂以外の手によって転移した者らじゃ。
例えば、儂の世界の住人が召喚魔法を使ったりして召喚させておるわい。お主の同郷を召喚する目的は自国のためじゃな。
お主らはこの世界に来ると多少強くなるようだが、その強さに溺れて傲慢に振る舞っておる者もいる。お主が気に食わなかったら、好きに処理してくれ。儂も強さに溺れて傲慢に振る舞っておる者らは好かぬからの!
また何かあれば、会うこともあるだろう!さらばじゃ!」
その言葉を最後に桜花の体を白い膜が包み込み始めた。
「マジかよ!!もうちょっと説明しろや!」
言い終わる頃には、白い幕が全身を包み込んで意識はなくなっていた。