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人形姫の正体と、仕事の開始。


そのまま、32番地で昼飯を取ってからクレムと分かれた。

俺と悠はその足で一端社に戻る事にした。

依頼を受けた事を社に告げる為なんだが、まあ何だかんだで目立つ目立つ。

何でって悠の所為だ。


まぁそう悪くねぇと信じてるが、普通ラインの俺が神々しい美人の隣を仲良さ気に歩いてりゃ、なぁ?

野郎共から嫉妬と殺気の混ざった視線が山ほど俺に突き刺さる。

女からは解りやすい落胆ってとこか。

美人の横に並ぶのはイケメンって誰が決めたんだってぇの。


そんな視線に晒されながら『32番地』からそう離れてねぇ『アリス新聞社』に殆ど駆け込む様に戻った俺はどこかげっそりしていたそうだ。


「七篠さんお疲れ様ー」

「ああ、疲れた」


空いていた小会議室を借りて、色々知っていそうな悠の前に座れば咽喉のどで笑われた。


「で?人形姫ってのは何処の誰だ」

「人形姫ことディアナ・アッシュ・エラは、帝国方面との貿易を取り仕切ってる『金の靴』って会社の娘で。

ぶっちゃけた話が男勝りと言うかじゃじゃ馬と言うか、跳ねっかえりなお嬢様で私の友達。日本関係じゃないけどね」


スペルが怪しいから名前はカタカナで走り書きして、彼女の身の上に関する事柄もまあ適当に手帳に記す。

言葉を区切った悠に続きを促しながら、溜め息が漏れた。


「『金の靴』のエラ家ってぇと、男爵だったか。

“二代目が早くに亡くなり、彼の後妻であるパメラ婦人が三代目になったのだが哀れなご婦人は商才に恵まれていなかった様だ。

『金の靴』はご婦人が舵を取るようになってからと言う物、急激に商売がかしいだ”

・・・か、三代目の起こした騒動にかこつけて、元々嫌いだったその類を断ってるってところでどうだ」

「御明察、って言うか七篠さん丸暗記した物思い出す時の口調どうにか何ないんですか?

なんかもう説明乙って言いたくなる」

「しょうがねぇだろ、学生時代からの癖だ。早々治るもんじゃねぇし、“今の”についての苦情は書いた羊に言え」


文章丸暗記は学生の頃からの俺の特技で有り厄介な癖だ。

大事だなー、と思った所がまるっと頭の中に入る試験テストじゃ大活躍に見えて使い勝手の悪い特技。

まあ、要約が苦手ってぇのもあるんだが。

治す気が無いくせによく言う。とぼやく悠の言葉は無視するとして、見目麗しいお嬢さんってのは何かしらの難が付いてるもんなのか?

悠は小市民根性丸出しなのはもう慣れたが、人形姫は本物のじゃじゃ馬らしい。

クレムとくっ付いたら相性が物凄く良いか、その対極かの二択じゃねぇか。


「聞きたい事はそんな処でよろしーでしょーか」

「まず、俺が会えないか聞いてくれ。あー・・・そうだな、『金の靴』についての取材あたりで良い。そっちも依頼とは別口で記事にするか誰かに書かせる」

「了解、口上は?」


目を細めて自分の後頭部を撫でる悠の返答に、俺は手帳を閉じた。


「急降下を免れて徐々に浮上し始めた『金の靴』に興味が湧いた、よって記事にしたい」

「妥当な感じだけど、良いとこ衝いてると思いますよー。オッケー貰えそうで。で、七篠さんの予想としては?」


立ち上がった悠がにたりと笑って、楽しそうに俺に尋ねた。

何が楽しいんだかさっぱりだが、俺が予想で付けるネタのタイトルを聞くのが好きなんだと。


「そうだな・・・『アシェンプテルの人形姫』?」

「アシェンプテル・・・ああ!」


気付いたのか声を上げて笑う悠は「良いね」とニヤニヤ笑った顔のまま呟いた。


「身の上を外から眺めたらそうかもね、順番はまぁ違うけど。

でもなんで、アシュンプテル?サンドリヨンでも灰被りでもシンデレラでも良いんじゃ無いの?」

「アシュンプテルの灰被りは階段で靴が脱げた訳じゃないだろ、脱がなきゃなんねぇ状況だった。

ヒントをわざわざ作った結果になったアシュンプテルの王子と、今回の手掛かりゼロから人形姫を探そうとするクレムは近いんじゃねぇかと思う訳だ。

それにアシュンプテルが落としたのは“金の靴”だしな、御誂え向きだ」


なるほどね。と納得した悠は、まだ笑いを引き摺りながら俺を残して会議室を後にした。

さて俺も準備をしようかねぇ・・・


新聞部の仕事場に宛がわれた自分のデスクに戻った俺は、支度をしながら手帳を開いた。

折角つけた名前をそのまま忘れるのも勿体ねぇしな。



――仮題『アシュンプテルの人形姫』



手帳にそう書いた俺は、手帳を閉じて雑務を片付ける事にした。


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