助手の本音と依頼人の正体。
「理由、ですか。・・・解る気がします」
「恐らく貴方が考えた物以上です」
クレムの答えに、ティーカップの中身を一口啜った悠がにっこり笑った。
あー、その笑顔は嫌な予感しかしねぇんだが、依頼人の手前耳塞ぐ訳にもいかねぇしなぁ。
すっと息を吸う悠の横で溜め息を噛み殺した俺は覚悟を決めた。
何が?何がって、聞きたくねぇマシンガントーク聞かされる覚悟だよ。
「男性の依頼は、“あわよくば”と言う下心が透けて見える。
手篭めされてしまえば私ども地位ある家に生まれた女は強制的に嫁がねばなりませんもの。
嫁に取る覚悟の無いもの、または彼女達よりも地位の低い男達は一夜の夢を見てみたいだけかもしれませんし、ただお付き合いしたいと考える人も居たようですが、
そんなもん結果としては先ほど並べた野郎共・・・あら失礼。
殿方達と心の奥に秘めた物は同じです。
美しい娘を嫁として頂けたらそれだけでステータスですものね?
女性の場合は、醜い嫉妬がありありと浮いておりました。
お付き合いされていた男性の心を奪われた、そうでなくともその可能性があるから“早い内”に。
ただ顔に二目と見れない傷を付ければ良いだけですもの、力ない女にも出来る簡単なお仕事ですわ。
他に彼女らを餌とし、周囲に群がる雄を掻っ攫ってやろう。
ご友人の枠に入って粗を探し、それをばら撒き貶めよう。
男兄弟がいた場合は“あわよくば”
男性からしてみれば解り辛い感情でしょうが、女性と言うものは男性よりも狡猾に作られております。
この様な男女の愛だ恋だと嘯く下心が無い者は金銭面での下心を持っています。
美しい娘の利用価値を知る者は彼女等を攫う為に周囲を知り、どこの娘か洗い出そうとします。
攫った後はどうなりましょう?
自分の娘として立場ある者に差し出し地位や高給取りにと考える者でしたらまだマシな方。
売り飛ばす者如何ですが、手足を切って見世物小屋へ、または高級娼婦として春を売る事を強制されるやも知れません。
また、汚ぇ豚爺、あら失礼?兎角、妙な性癖を持った男の下に売り飛ばされでもしたら目も当てられないでしょうね?
それこそ何をされるか判りませんもの。
地下に繋がれ愛でられるだけならまだしも、ねぇ?
そう言った方々が彼女等が・・・いいえ、私共が世間に顔を出した二年前から私達を探し出そうと血眼になっておりますの。
ですから、私と七篠は貴方の真意を知りたいと考えておりますわ。
お国の為にも罪無き娘が泣かされるなんて許せませんもの!
と、言う事です。お解り頂けたかしら?」
有無を言わせぬ勢いで若干素で暴言を交えながら長々と語った悠は最後に完璧な笑みを見せてからまた紅茶を啜った。
あ、紅茶じゃねぇや玄米茶だ。
どうでも良い事に思考を逸らして、かなりぶっちゃけた悠の言葉を頭の中に留めない様俺は勤めた。
いい歳扱いた男がそんなドロドロした女の頭ん中なんざ留めておいた処で良い事ねぇだろ、女性不信になるのが関の山だ。
さて、目を白黒させながら悠の言葉を素直に聞いていた青年はどうかと言えばだ。
どうやら全部受け止めて頭ん中で消化した上で、何に対してかは知らねぇが怒りを顔に出している。
おーおー、まだ若ぇな。
素直に話を聞けるのは良い事だが、顔に出しちゃ駄目だろう。
今後の立場的に。
「そんな理由があって訊ねられたのですね。すみません。
そんな前者が山の様に居たとは知らず、私は己の身を優先して考えてしまった面目ない」
クレム・ルシアン青年が強く握ったカップからギチリと嫌な音がした。
頼むから止めてくれ、怪我なんかされたら厄介な事になる。
「では、依頼についての理由をお話頂けますか?」
こちらの世界では珍しい黒ぶち眼鏡を摺り上げて、何事も無かったかのように俺は笑顔を浮かべて話を振った。
他称『朗らかで人畜無害な善人スマイル』と言う名の営業スマイルを浮かべて青年を見れば、
取り乱した事に先ず謝ってから彼は依頼内容の詳細な所を話しだした。
詳細と言うか、まあ青年の本心か。
何と言うかまぁ物凄く簡単な話しだった割に長かったから纏めると。
例の二年前の舞踏会で青年は人形姫に一目惚れしたんだそうだ。
誰が話しかけてものらりくらりと名を明かさなかった人形姫は、勿論青年にも名を明かさなかったんだと。
その他大勢と比べて親しげだった月夜姫・・・まあ、悠だが。
悠も人形姫も名を明かさず、それ以降の大小問わずどんなパーティーにも参加しない彼女達は正体不明の美女となった。
まあ、ぶっちゃけダルイしツマンネェから。と言う尚も無い理由はその片方が後で教えてくれたが、兎も角だ。
人形姫の事がどうしても忘れられない青年は、山ほどの見合いの話しから逃げる為にも彼女を探し出そうと思い立ち、伝を辿ってウチの社に依頼を出したんだそーだ。
因みに長かったのは彼女に対する印象だったり、一目惚れの辺りを語った部分だった。
取り敢えず、聞いている振りをしながら聞き流し。
今にも笑い出しそうな悠を黙らせる事に物凄く疲れた。
「それで、わ・・・俺の依頼は受けてもらえるだろうか」
「はい、私共が御力になれると言うなら喜んで。ですが・・・」
ピリッと店内に緊張感が走った。
知ってか知らずか「なんだ?」と首を傾げた青年には悪いが、マジでどうにかして欲しい。
「お次は横に気の置ける従者を伴うか、お傍に呼んで頂けると幸いです。クレメント殿下」
「気付いていたか・・・すまないな。では“イズミ殿”宜しく頼む」
この国の王子の一人、クレメント・アングルム・ミラヒェがクールなお顔立ちに似合わないニヤリと人の悪い笑みを浮かべて継げた名前に突っ伏したくなった。
我慢できなくなったのか盛大に笑い出した悠は置いておくとして。
「イーゼムか七篠でお願いします・・・殿下」
「そうか?だったらクレムと呼んでくれ、そうでなければ何度でもイズミ殿とお呼びしよう。
城下に下心の無い同年代の友人を作っても良いだろう?」
嫌いじゃないがどうも口に出すと違和感のある名前なもんで。と、ぼやいた俺に、にやりと笑ったクレメント殿下は思わず悲鳴を上げたくなる様な言葉を吐いた。
いやいやいやいや、ちょっと待てってツッコミどころが多すぎる。
猫も淑女もかなぐり捨てた悠の盛大な笑い声をBGMに、にたりと笑うクレメント殿下と頭を抱える俺と店内のいたるところから同情の視線を俺に向ける殿下の従者達と言う妙な図が出来上がった。
「はいはい、ナナさんお待たせー。後ね、隠密の皆さん。家の店で暴れたらどうなるか“誰か”に聞いたことあるでしょ?『赤頭巾』敵に回さないでくれたら嬉しいなー」
今更ながら俺が頼んだ珈琲と茶請けの焼き菓子を届けに来た獅郎の「さっきのはギリギリ許すけど」と言う気の抜けるような言葉に殿下を影から見守る隠密部隊がしゅんとした。
あ、あそこの女の子もそうなのか。
「って言うか、クレムさん幾つ?七篠さんと同年代には見えないんだけど」
「ん?俺か?俺は大体26ってところだ」
あ、意外。結構いってるんだね。なんて目を丸くした獅郎に、俺も同意だ。
獅郎と同じ位かと思ってたんだがな。
つーか・・・獅郎に関しちゃ怖いもの知らずと言うか、不敬と言うか。まあ、良いが。
「イズミも近いだろ?」
「あー・・・俺は28・・・あ、いや!」
「何だ、素はそっちか。だったらそれで良い」
クツクツ咽喉で笑う殿下は、元々フランクな性格なんだろうが・・・ご友人の立場は押し切られんだろうな、どうせ。
「色々とよろしく頼むよ、イーゼム」
「・・・ああ、まぁ仕様がねぇか。よろしくクレム」
まだヒイヒイ笑いを引き摺ってる悠の隣で、俺はクレメント殿下のご友人と相成った・・・なんてな。